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カウンセリング2

「なんで、俺がここを出ていくってわかるんだ?」


俺は、聞き返した。

アキラは微笑んだまま、言ってきた。


「だって、君は彼が好きだから」


そして微笑みを消す。

今度は真顔で、アキラは続けた。


「好きだからこそ、きっと彼を救おうとする。

現に君は、女神に食ってかかろうとした。

……まぁ、わからなくはないんだけどね。

君が女神に喰われる、穢されるかもってなった時、彼も同じだったから。

君は意識が無かったから、覚えてないだろうけど」


なんて言って、アキラは指をパチンと鳴らした。

白い部屋が、消える。

現れたのは、俺とヤマトが対峙している光景だ。

こんなの記憶にない。


「この時の君は、女神に乗っ取られていた。

その女神が、君を殺せと迫った。

そうしなければ、君を喰らうぞと脅した」


また、指をパチンと鳴らす。

すると、今度はその光景が動き出した。

音声付きで動き出した。

記憶にない、やりとり。

女神が俺を食らうと言った時の光景が流れる。

その時、ヤマトの様子が変わった。

ブチギレるのとは違う。

そんなんじゃない。


「彼には、創世邪神の因子がとくに色濃く受け継がれているから。

そして、君にはその創世邪神を深く愛した存在の血が流れている。

創世邪神がこの世界を作り、そして天界から落ちてきた後。

その創世邪神を追いかけて堕天した存在。

その存在、現代には名前もなにも残らなかった、歴史の中で 消えていった存在の血が、君に流れている。

そして、彼に創世邪神の因子がとくに色濃く受け継がれたように、君にも創世邪神を愛した存在の血が色濃く受け継がれていた。

彼が君を救おうとしたのは、何も簡易契約が理由じゃないってことさ。


自分の命を捨てても、他のなにを犠牲にしてでも、彼は君だけは女神に渡したくなかった。

存在を消されたくなかった」


アキラが語っている間も、場面は進む。

流れる。

殺せ殺せという女神に操られた俺を、アイツは殴った。

そして、そんな俺の手に触れる。

それから、とても優しい笑顔を浮かべてみせる。

ヤマトは触れ、掴んだ俺の手を自分の胸へと近づける。


そこで、またパチンとアキラが指を鳴らした。


「ここから先は、君が知っている通りだ。

君が彼を傷つけたんじゃない。

彼が望んで君の手で、自分を刺したんだ」


真実を突きつけられた。

俺は、ベッドに座ったまま顔を左手で覆った。


「なんだよ、それ」


「理由は二つある。

まず、さっきも言ったように彼はずっと死にたがっていた。

そして、()()()()()()()()

もう一つは、我を忘れた対峙した相手の攻撃で、自分が死ぬかも知れないという光景を見せつければ、その相手が正気に戻る。

そんな成功体験を得ていたから」


「は?」


「君は、彼の片腕と片足が義手と義足だと見抜いたことがあったろ?

あぁなった時のことだ。

君はなにも知らなかったから、説明する。

アレはね、彼を傷つけられた弟が、そのキッカケとなった民間人を殺そうとしたんだ。

兄が死にそうになって、我を忘れて人を殺そうとした。

彼はそんなことをさせるわけにはいかない、と止めに入った。

結果、弟が兄を殺しかけるっていう本末転倒な事になってしまった。

でも、弟は正気に戻った。

そのことを思い出したんだ。


元々、彼は死にたがっていたし、壊れて歪んでいたからね。

それがどんなに他人を傷つける行為なのか、わかっていなかった。

元々、早く死ね、消えろって一番みじかな大人である親と祖父母に散々言われてきたってのもあるんだろうなぁ。


彼の、他人を助けたという記憶は長持ちしない。

でも彼は日記をつけていた。

弟とのことは、詳細に日記に書いていた。

だから、日記に書いていた内容が記憶に残っていた。

それを思い出して、彼は自分を刺したんだ」


「バカだ。

あいつ、ほんとのバカだ」


「そうだね。

そう思うよ。

でも、なにがなんでも彼は君を助けたかったんだ。

因子とかグダグダ説明したけどね。

彼の行動原理は至ってシンプルだ。


大好きな友達を女神に喰われたくなかった。


君は初めて、彼を彼として見てくれた存在の一人だから。

彼の為を思って行動した、ある意味最初の一人とも言える。

ほら、君、ドラゴン襲撃のあと彼にお礼をしにいっただろ?

アレ、彼にとっての初体験だったんだよ。

だから、君は彼にとっての特別になった。

なにも流れている血だけが理由じゃないってことさ」


そこまで聞いて、俺の視界は歪んだ。

ボロボロと大粒の涙が零れてくる。

親に言われて、命の恩人にお礼を持っていった。

自分で選んだ菓子も入ってた。

あの時のことは、不思議と鮮明に覚えている。

まだ、アイツのことを何も知らなかった、出会ったばかりの頃の記憶は、さらに涙を増やしてしまう。


「……なぁ、そもそも女神ってなんなんだ??

なんで、アイツを狙ってたんだ?

そして、連れ去った?」


俺は、手で涙を拭いつつ聞いてみた。


「……創世邪神の因子が原因かな。

女神は創世邪神のことを愛していた。

正確には、創世邪神の親を愛していた。

でも、創世邪神の親は女神を選ばなかった。

ならばと、女神はその子供である創世邪神を代わりにしようとした。

女神は創世邪神を手に入れようとした。

でも、それは叶わなかった。

女神はなにがなんでも、創世邪神を手に入れようと彼を呪っていたんだ。

そんな存在と一緒になるわけにはいかなかった。

やがて、紆余曲折を経て創世邪神はこの世界を作った。

そしてここにやってきた。


それを追って、女神もこの世界にやってきた。

でも、この世界は彼の世界だ。


女神はこの世界に閉じ込められた。


そして、女神が来た時にはすでに創世邪神は人として生涯を終えていた。


女神は、それでもあきらめなかった。

創世邪神を手に入れるため、そして創世邪神と一緒にこの世界から出るために、策を練った。

世界を呪おうとすらしたけれど、出来なかった。

この世界は、彼女の作った天界とは切り離された独立した世界だから。

せいぜい、創世邪神の子孫にあたる【農民】への迫害が限度だったんだ。


そうしておけば、少なくとも創世邪神の因子を色濃く受け継いだ子供が生まれた場合、前のように誰かに掠め取られることはないと考えたからだ。


そして、創世邪神にはずっと女神の呪いが掛けられていた。

だから、その因子を色濃く受け継いでしまった子供は、たとえ血の繋がった親であっても愛されない。拒否される。

存在を否定される。

それが、目印だ。

なにも、双子の忌み子だったからってのが理由じゃないってこと」


「でも、アイツには友達や彼女がいた。弟だってアイツを慕ってた。

アイツには農業高校で、居場所があった」


「そうだね、その通りだ。

まぁ農業高校の知り合いに関しては、そこまで呪いは影響していなかったってだけ。

それは、弟に関しても同じだったんだと思う。


子供の世界って、物凄く狭いんだ。

最初は、自分と目に見える範囲、そして親がその全てだ。

その世界で拒否され続けるっていうのは、世界から拒否され続けるってことだ」


そこで、アキラは言葉を切った。

俺の様子を観察している。


「じゃあ、結局女神の一人勝ちってことか」


神様を数える時は【柱】で数えると聞いたことがある。

だから、一人勝ちってのは言葉としては変らしい。


「ところがそうでもないんだ」


「え??」


アキラが楽しそうに、また指をパチンと鳴らした。


見知らぬ男が吹っ飛ばされ、女神に操られた俺と、ヤマトのやり取りの光景が流れ始める。

その光景の中で、女神がこんなことを言った。


――異分子が手を貸していますね。

本当はここには、ヤマト、貴方しかいないはずだったのに――


――はてさて、これは誰が描いた景色(シナリオ)でしょうか?――


その光景を見ながら、アキラが楽しそうに笑って見せた。


「女神の描いたシナリオに、ちょっかいをかけている存在がいる」


「え、それって」


「誰だろうね?

女神のことを古くから知ってて、なんなら知ってる限りの情報を彼に伝えることができる人物。

今回のこともある程度、把握出来ていた人物。

それも、簡単に彼に伝えることが出来る人物。

案外、君や彼に近しい人物かもね。


そんなことが出来るんだ。

もしかしたら、こうなることも折り込み済みだったかもしれない、となったら君は怒るかな?」


この言葉の意味は理解出来た。

目を丸くする俺に、アキラはイタズラが成功した子供のような表情をした。

ゲラウトヒアが退場して、心折れたor折れそうという方へ。

↓↓↓


【連載版】島流しなう!(o´・ω-)b

https://ncode.syosetu.com/n3671hd/


こちらの作品で、途中から元気なゲラウトヒアが出てきます。

爪剥いでますが、普通に元気です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 実は死んでないんじゃないか なんて希望も後書きで消し飛ばされた。そうか……そうか……
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