そしてハジマル、一線を越えてしまった彼の物語
【注意】
流血&残酷描写あるので苦手な人は、スルーしてください。
***
目の前が真っ赤に染まった。
直後、温かな液体が顔にかかったのがわかった。
心做しか、口にも入った感じがした。
俺はハッとする。
目の前を見る。
そこにはよく知る人物が、立っていた。
真っ赤に染まって、立っていた。
俺と目が合う。
そいつは、苦笑したようだった。
「……っかは、ようやく、戻ったか」
血を吐いて、そいつは言葉を絞り出した。
その胸の部分には、俺の右腕が突き刺さっている。
「……え?」
「せわ、やかせんな、ばか」
そんなことを口にしたかと思うと、そいつは俺に手を伸ばして来ようとする。
ユラユラとフラフラと手が。
そいつの手が、俺に伸びてくる。
俺の顔に触れようとしてくる。
そして、
「ご、め、んな」
そんなことを言ってきた。
かと思ったら、そいつの瞳から光が失われる。
そいつの体からも力が抜けて、その場に俺ごと倒れてしまった。
その拍子に、そいつに突き刺さっていた俺の腕が抜ける。
俺の腕は、真っ赤に染まっていた。
俺は、叫んだ。
「ヤマト!!??」
おびただしい血が、ヤマトから流れ出る。
ヤマトは動かない。
俺の叫びにも応えようとしない。
生きるのに必要な血が流れ出ているから。
俺は、少しでもその血を流れさせまいと、ヤマトの体を抱き起こした。
貫いた背中部分を抑える。
胸の部分には、自分の体をくっつけて、少しでも血が流れないように。
これ以上、体温が下がらないようにしようとする。
そんなことしても、無駄なのに。
たぶん、俺はパニックになっていたんだろう。
どうしてこんなことになっているのか?
まるでわからなかった。
記憶がまるでない。
魔界に戻ってきたところで、ぷっつりと途切れている。
「あーあ、壊れてしまいましたね」
なんて、声がした。
顔を見上げれば、そこには美しい女が立っている。
「いえ、あなた方の言葉で言うなら、殺した、が正確ですかね」
殺した。
誰が、誰を??
女が下卑た笑みを浮かべる。
ケラケラと笑い出す。
「思ってたのと違いますが、これはこれでいいモノが見れました」
なんて言って、女はパチンと指を鳴らした。
瞬間、ヤマトの体が消え、女の腕の中にあった。
同時に、カランとその場に何かが落ちた。
それはついさっきまで影も形も無かった、大鎌だった。
「憎々しい彼らが出てきた時にはどうなるかと思いましたが。
結果としては、まぁまぁといった所でしょうか」
光を失ったヤマトの瞳を覗き込みながら、女はそう言った。
「それを使えば、この子は貴方を殺せたのに」
女の細く、白い指がヤマトの頬を愛おしげに撫でた。
「まぁ、誰に対してもそうしてたんでしょう。
でも、お陰で手に入れることが出来ました」
なにを、言ってるんだ、この女は?
わかっているのは、ヤマトがこの女によって、どこかに連れていかれてしまうだろうということだ。
本能で、それを止めなければならないと思った。
けれど、
「……っ!!??」
体が動いてくれなかった。
まるで、その場に縫い付けられたかのように、体が動かない。
魔法かとも思ったが違った。
「うごけ、うごけよ!!」
体は動いてくれなかった。
そうこうしているうちに、女が消えようとする。
そこに、
「おい、待てや婆っ!!」
見知らぬ男の怒鳴り声が響いた。
女に飛び蹴りを喰らわせようとする。
それを、女はひらりと避けた。
「ゲラウトヒア!!聞こえてるんだろ!!??
なんで、なにもしない!?」
しかし、ヤマトは動かない。
当たり前だ。
だって、ヤマトはついさっき、俺が……。
そのことに思い至ると、吐き気が込み上げてきた。
殺した。
俺が、殺した。
「あ、ああ、ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
体は全然動いてくれないのに。
何故か、声は出た。
俺は、ヤマトを殺してしまったのだ。
女は、男にちらりと視線を向けただけだった。
しかし、なにも言わずそのまま消えてしまう。
あとには、見知らぬ男と俺が残された。