お叱り2
《全部、聞いた》
「……うん」
《ウスノ、生きてたんだってな》
「らしい」
《……っ、なんで、なんで言ってくれなかった!!》
「…………」
《死にかけたんだろ?!
ウスノの部下に殺されかけたって聞いた。
また、兄ちゃんは勝手に死にかけた!!
なにも知らなかった。
なにも、知らなかったんだぞ、俺……。
兄ちゃんの学校の生徒会長さんに聞くまで、なにも知らなかった》
「……言っても仕方ないだろ」
《コノハだって、それ聞いて泣いてた》
「……そっか」
《そっかって、それだけ??
アイツが、アイツがどれだけ兄ちゃんのこと――》
「うん、あのさ、タケル。
コノハに会ったら伝えてほしいことがあるんだけど」
《遺言なら、聞かないからな》
「俺のこと、好きって言ってくれてありがとう。
家族になりたいって言ってくれて、ありがとう。
でも、俺のことは忘れていいから。
俺なんかより、もっと良い人がコノハには絶対現れるから、だから、その人と幸せになってくれ」
《だから!!遺言なんて聞かないって言ってるだろ!!》
「俺の事、全部聞いたんだよな?
なら、俺の呪いについても知ってるはずだろ。
ウカノさんがなんとかしてくれるって話だけど。
それだってリスクが無いわけじゃない。
だから、念の為だよ。
タケル、お前だから託すんだ。
頼むよ、タケル」
元より、呪いを受けた時点でもしかしたら百年単位で封印される予定だったのだ。
そうしたら、コノハとのことはどうしたって無しになる予定だった。
《嫌だ。絶対嫌だ》
その時、少しだけ腹に痛みが走った。
あとで鎮痛剤飲もう。
「タケル、お願いだから言うこと聞いてくれよ」
ヤダヤダとまるで小さい子供のように愚図る弟に、俺は懇願する。
その時だった、生徒会長が割って入った。
「ちょっといいかな?」
「なんですか?」
「通話をスピーカーにしてくれ。
弟君にも聞かせたいことがある」
「???」
俺は疑問符を浮かべつつ、弟との会話を一旦打ち切って言われた通りにする。
生徒会長が、弟に、
「すまないね。
二人の話をきいて、いや、正確にはスレ民とやり取りをしていて気づいたことがあるんだ」
《…………》
「気づいたこと?」
弟は沈黙答え、俺は聞き返した。
「そうだ。
と言っても、気づいたのは考察厨だけれど。
変だと思わないか?」
「なにがですか?」
「なんで、ウスノは大々的にこのことを世界中にバラさないのか?」
「はい?」
《何の話ですか?》
俺とタケルは揃って、生徒会長に疑問をぶつける。
「いやね、今回の話を知って少し違和感があったんだ。
それは、考察厨も同じだったんだけれど」
生徒会長は腕を組み、片方の手を顎に当てて、まるで推理小説に出てくる探偵のように、言ってくる。
「もう一度言うが、どうして、ウスノはマレブランケ達を攫った時にこのことを世界中にばらさなかったのか?
農業ギルドを通じて、マレブランケ達を痛めつけた動画を届けさせたのか?
もし、ヤマト、君を精神的にも痛めつけるのが目的なら、君のせいで善良な生徒たちがこんな酷い目にあっている、と世界中のメディアを通じて君を悪者にしてもいいだろうに。
それをしていない。
少なくとも、それをすれば君は二度と街中を歩くことは出来なかったはずだ。
でも、そうしていない。
考察厨はそれをとても奇妙だと言っていた」
《ウスノは、昔から性格が悪かった。
たしかに、今のアイツなら。
金と権力がある、今のアイツならそれくらいするかもしれない》
「だろう?」
そこで、生徒会長はニヤッと笑った。
そして、続ける。
「でも、それをしていない。
何故だろう?
それに、俺が弟君と接触したことも彼は知らない。
いいや、龍神様ですら知らないだろう。
なぜなら、ヤマトとの繋がりは絶たれ、必要最低限の情報しかやり取りされていなかったから。
自分で言うのもなんだけれど、俺の行動自体がイレギュラーなんだよ。
だから、本当なら俺はここに加われていないんだ。
俺だけじゃない、スレ民達もだ。
君は1度立ち止まり、彼らを頼った。
だからこそ、この時間があるわけだが。
もしも、だ。
もしも、スレ民や、俺がヤマトの今回の一件に関与していなかったならどうなっていただろうか?」
演説だ。
まるで、演説のように、生徒会長は言葉を続ける。
「ヤマトは一人で、マレブランケ達を助けに行く。
そこで、おそらくヤマトとウスノはぶつかったことだろう。
そして、ヤマトとウスノは入れ替わる」
ぶっ飛んだ言葉に、俺は目を丸くした。
「これは、考察厨の考察だ。
ヤマトとウスノは双子なんだろう?
つまり、瓜二つなわけだ。
ウスノは君の心臓を手に入れ、家族のもとに戻り、こちら側に紛れ込むことができる。
そうして、邪神、女神、その手下として自由に行動できるようになる。
ヤマトの過去を知っているが、それを踏まえると少なくとも、君たちの家族はこのことを知ったとしても、歓迎するだろう。
そして、ヤマトとウスノの入れ替わりについては黙っている可能性が高い。
なにしろ、家族だ。
身近なその存在が、気づかないわけが無い」
《残酷だ。グロテスクすぎる》
「あー、でも、ウスノならやりそう」
また生徒会長は苦笑した。
「入れ替わること自体は簡単だ。
ヤマト、君は他人が傷つくくらいなら自分が盾になるだろう?
たとえば、マレブランケ達の命を助けたければ心臓を差し出せって脅されたらどうするつもりだったのかな?」
その問いに、俺は答えられない。
「おそらく、言う通りに心臓を差し出したことだろう。
人質を取られた時点で、君に勝ち目は無かったんだ」
そこで、生徒会長はさらに提案してきた。
「さて、これらを踏まえてもう1段階、君の勝率を上げる提案をしたい」
ドヤ顔で、生徒会長は続けた。