裏話10
女性――イシュタムの首があらぬ方向へ折れ曲がり食いちぎられる。
まさに首の皮一枚で繋がった状態で、だらりと垂れ下がる。
そこで、大型犬ハイラの姿がゆらり、と揺らめいた。
かと思ったら、現れたのは執事姿の青年だ。
「え、だれ??」
いや、たぶんハイラなんだとは思う。
人に変身出来るとは、凄い犬だ。
まぁ、ウカノさんやシンは、俺が育った大陸の人間と違って魔力を有していて、魔法が使えるのだから不思議なことではないけれど。
ウカノさんが変身魔法使えるって知った時、めちゃくちゃ驚いたもんなぁ。
そんなわけで、魔法が使える犬が他大陸にいても不思議ではない。
モンスターだって魔法が使えるのだ。
人間だって魔法が使えるのだ。
犬が使えないわけがない。
そんな答えに俺が至った時。
イシュタムの高笑いが響渡った。
「アハハハ!!」
そして、イシュタムはハイラと距離をとる。
ハイラも俺を背にして立った。
「まさかこんなことになろうとは」
美しかった顔が笑顔で歪んでいる。
たらりとぶら下がった頭で、逆さ向きのままイシュタムはハイラを見た。
「人間は本当に予想外のことをしますね」
「…………」
ハイラは何も返さない。
こちらには背を向けているので、その表情もわからない。
イシュタムが、構わず続ける。
「でも知っているでしょう??
あのアバズレの眷属でしかないお前では、私を完全に滅ぼせない」
「私は、今の主からの命令を遂行するだけです」
静かな声で、ハイラはそんなことを言った。
「その子を守るんですね。
出来ますか??」
イシュタムは楽しそうだ。
イシュタムの言葉の直後、背後に気配!!
俺はその場を飛び退いた。
ギブリアの拳が地面に叩きつけられ、小規模なクレーターを作った。
咄嗟にハイラが俺を小脇に抱え、跳んだ。
「ほらほら、油断してるとその子が死んじゃいますよ???」
続いて、イシュタムが眼前に現れハイラの首へと手を伸ばしてきた。
それをハイラは振り払う。
直後、また背後をとられ、ギブリアから殴りつけられてしまう。
そのまま、黒炎が上がり続けるビルへと突っ込んだ。
「大丈夫ですか!?」
「えぇ」
ビルの中でハイラは体勢を立て直す。
ギブリアがそれを追ってきた。
ハイラは気配を消し、物陰に隠れる。
俺のことも離してくれた。
人型になったので、つい丁寧語で聞いてしまった。
本人は、そこまでダメージを受けていないように見えたのは確かだ。
「しかし、少々キツイですね。
我が主の元まで、先程から転移しようとしてるんですが、妨害されて出来ません。
さすがは、邪神が一柱と言ったところです。
とはいえ、今は人間の皮と肉を纏っているので、当人はあのように口にしていますが、もう少し消耗させればなんとかなるかと。
今しばらくお待ちください、我が主のご友人」
「あ、あのあの!
ギブリアの方は、俺が相手するんで!!」
思わず、そう申し出た。
二対一より、一対一にした方が、まだいいだろう。
ハイラも、その方が相手に集中できるはずだ。
「……しかし」
「あの程度の賞金首なら、何度か相手にして勝ってます!!
だから、大丈夫です!!」
「さすが、我が主のご友人だ」
反対されるかと思いきや、了承してくれた。
もしかすると、この人が命令されていた内容は、俺を守る、とはちょっと違うのかもしれない。
鉈を持ち直し、俺はギブリアの気配を探る。
そして、同時に飛び出した。
瞬間、ビルが爆発した。
なにかに火が付いたのだろう。
ハイラは真っ直ぐイシュタムの元へ向かう。
俺は、ギブリアへ鉈を叩きつけた。
「奴の生徒でもあったな!
おもしろい!!」
鉈を受け止め、ギブリアが叫んで拳を叩きつけようとする。
それを、今度は俺が鉈で受け止める。
そして、その巨体を俺は蹴りつけた。
ギブリアの体がビルの外へと吹っ飛ぶ。
俺もそれを追って、外へと飛び出す。
同時に少し前に覚えた、【空気固着】なる魔法を展開する。
早い話が、透明な足場や壁を作る魔法だ。
そこを蹴って、俺はギブリアとぶつかり合う。
***
【その頃のマー君】
「んな、ななな、なにやってんだ、アイツーー??!!」
***
急所を狙うものの、中々上手くいかない。
全て防がれてしまう。
硬い。
と、なると。
俺は一旦距離を取るとポケットの中に手を突っ込む。
そこにある感触を確かめると、もう一度ギブリアを見た。
殺そうとしてもそれが出来ない。
強化かなにかをしているのだろうと思う。
なら、別の方法で戦闘不能にするしかない。
俺は再び、ギブリアへ突撃する。
そして、その術式を展開させた。
ミナクちゃんからお試しようにと貰った、あのクリスタルトラップだ。
ギブリアの体がクリスタルの中へ閉じ込められる。
「よしっ!」
終わった、と思ったらそのクリスタルにヒビが入る。
「おいおい、マジかよ」
次の瞬間にはクリスタルが砕け散った。
「今、何かしたか??」
余裕綽々でギブリアが言ってくる。
そして、逆に突っ込んできた。
力を入れるためか、叫びながらこちらに向かってくる。
仕方ない。
俺はそれを受け止めて、もう一つの小さな、小さすぎるトラップをギブリアへと叩きつけるように投げた。
それが、彼の口に入ったのは偶然だった。
これは、本当に偶然だ。
ギブリアの顔色が変わる。
俺は彼から離れる。
ギブリアはなにかを吐き出そうとしていた。
そんな彼の口から出てきたもの。
それは、少々太めな蔦だった。
ギブリアの口から出てきた蔦は、滅茶苦茶に彼を絡めとると生気や魔力を吸い上げ始める。
これには、さすがのギブリアもパニックになったようで蔦をなんとかしようと転げ回る。
しかし、数分もしないうちに蔦で覆われ、その姿が見えなくなり、モゾモゾとした動きも止まった。
「やっぱ、えげつないなぁ。
ウカノさんのトラップ」
体力や魔力があればある程、それを吸い上げて養分にする植物だ。
ウカノさんが趣味で品種改良して、対畑泥棒(害獣含む)用として作ったらしい。
えげつないが、壊されなかったという意味では、クリスタルトラップよりは頑丈のようだ。
俺はハイラの方を見た。
向こうも決着がついたらしい。
完全にちぎれたイシュタムの生首を地面に叩きつけ、踏みつけて壊していた。
そして、俺のところまで来ると、
「奴の中身は逃げたようです。
今のうちに我々もここを離れましょう」
そう言ってきた。
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