裏話6
「まさかヤマト君に、魔界への、それも王様への伝手があるなんてねぇ」
石造りの回廊を並んで歩きながら、スーツ姿のウカノさんは俺に言ってくる。
俺とウカノさんがいるのは、以前、ブランに案内され一度来たことのある魔王城だ。
案内役の職員が数歩先にいる。
「……農業ギルドの幹部じゃなくて本当にいいんですかね??」
俺はウカノさんにだけ聞こえる声で言ってみた。
「君については向こうのご指名だからね。
でもたしかにそうなんだよね、とくに俺が指名された理由がわからないんだよなぁ」
ポリポリと頭をかきながら、ウカノさんは視線を前へ向けた。
一昨日、俺宛に届いた手紙。
現魔王様である、レフィアさんからの手紙。
そこには、農業ギルドが本気を出して潰そうとしている犯罪組織のことについて話し合いがしたい、ということが書かれていた。
そして、その場に寄越すように指名されたのが俺とウカノさんだった。
魔王軍の方でも、この犯罪組織には手を焼いているというのは伝わっていた。
順当に考えるなら、協力を申し出てくれるのか、はたまた魔王軍の縄張りである魔界で勝手をするな、と注意してくるのかと言ったところか。
とにかく、話し合いの内容については件の犯罪組織について、というのは確定事項だ。
「まぁ、直接聞いてみればいいか」
そして、チラッとウカノさんは俺を見た。
「それはそうと、制服、サイズが合っててよかったよ。
母さんじゃないけど、とっておくもんだねぇ」
俺が今着ているのは、ウカノさんが高校時代に着ていた、詰め襟の制服だった。
つまり、農業高校の制服である。
「少し大きいですけどね」
「どうせタケノコみたいに、すぐ大きくなるからって母さんに言われて、一番大きいサイズにしたんだよねぇ」
あぁ、なるほどそうやって選ぶのか。
俺、従兄弟のお古だったからなぁ。
さすがにタケルは新品を買ってもらえたみたいだけど。
そうこうしていると、目的の場所についた。
魔王の執務室だ。
つまり、レフィアさんの仕事場である。
案内されるまま中に入る。
そこには、山積みの書類と格闘しているレフィアさんがいた。
「あぁ、もう来たのか。
すまないね。
こちらも立て込んでて。
もうすぐ終わるから、そこのソファに座っててくれ、茶と茶請けは好きに食べてくれ」
促されるまま、俺とウカノさんは執務机のすぐ前に設置されていたソファに座る。
目の前のテーブルには、美味しそうな焼き菓子とチョコが置かれていた。
「久しぶりだね。元気そうでよかった」
そう声を掛けてきたのは、レフィアさんの直属の部下であり、年末年始に手合わせをしてもらった四天王の一人でもある青年だ。
レフィアさんに、魔王軍に就職しないかと言われた時に必死に止めに来た人だ。
「どうも。
お久しぶりです、アーストさん」
アーストさんがお茶をいれながら、俺とウカノさんを見た。
その視線が、ウカノさんで止まる。
「あぁ、なるほど。
そういうことか」
アーストさんの呟きに、ウカノさんが怪訝そうに返す。
「なにか?」
「【魔界樹事件】の英雄を呼びつけているとは思っていなかったので。
でも、なるほど【竜爪のギブリア】が関わってるなら、納得出来るな、と思っただけです」
なんだそれ??
「魔界樹事件?? ぎぶりあ??」
首を傾げる俺を見て、ウカノさんが説明してくる。
「そういう事件があって、君の担任のアールが巻き込まれて色々頑張ったんだよ。
それで、アールがギブリアって名前の魔族の角をへし折ったんだ」
何をどうすると、魔族の角をへし折ることになるんだろう。
気にはなったけど、それを聞くのは今度でいいか。
ウカノさんは、もう一度アーストさんを見ながらこう続けた。
「そういう事になってたはずなんだけどなぁ」
「と言うと??」
「うん、俺、ウカノ・サートゥルヌスが関わってたなんて事実は無かった事になってるはずなんだけど」
そこでアーストさんが説明してくれた。
「いや、さすがに魔王軍幹部には知られてますよ。
表向きは、アール・ディギンスとその相棒であり恋人だった少女の手柄となってますけど」
恋人だった少女??
ピンと来た俺は、ウカノさんを見た。
「あ、恋人扱いになってたんだ。
まぁ、少年と見目麗しい少女の組み合わせだとそう思われちゃうかぁ」
ウカノさんは飄々としている。
「……本当のところは??」
俺は聞いてみた。
「うん、身バレ防止も兼ねて、いつもの盗賊討伐ルックで行動してただけ。
ギブリアの件の時は色仕掛けで近づいて、捕まえようとしたんだけど。
途中で内緒にしてたアールに気づかれて、現場に踏み込まれてド修羅場になったんだよねぇ」
「現場って??」
「んー、男女の恋愛ってのはお手手繋いで、唇を重ねるだけじゃ終わらないってことだよ」
「あ、はい、もういいです。
だいたい察しました」
つまり、ウカノさんは美少女に姿を変えギブリアという魔族とイチャコラして寝首を搔こうとしたけれど、担任にそれがバレて、その現場に乱入されたわけだ。
誰に同情していいかわからないなぁ、これ。
「あと少しってところでアールが来てねぇ。
で、計画が全部パァになって、色々ブチ切れたアールがギブリアの角をへし折ったってわけ」
アーストさんがドン引きしていた。
「そんなことがあったんですか」
「そんなことがあったんですよ」
ウカノさんがアーストさんへそう返した。
「さすがに、童貞だったアールには刺激が強かったみたいでねぇ。
しばらく口聞いてもらえなかった」
いや、童貞関係ないと思うけどなぁ。
あと懐かしいなぁ、みたいに言われても反応に困るんだけど。
それはともかく、ちょうどそこで、レフィアさんの仕事が一段落ついた。
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