裏話5
結果だけを言うなら、アジト襲撃はあっけなく終わった。
重要な拠点のひとつに、もうほとんど壊れていてあとは廃棄するだけだった耕運機や軽トラ、なんなら大型トラックをかき集め、少々改良して突っ込ませ、爆発させた。
事前にこれから攻撃するんでー、と予告した上で爆発させた。
まさか相手も、今にも壊れそうな特殊車両を引っ張り出してくるとは思っていなかったらしい。
しかもそれ自体を爆弾として扱うとは考えても見なかったんだろう。
生け捕りにした構成員は、
「なんで戦車じゃないんだよ!!」
とツッコミを入れていたらしい。
反社のアジトを取り囲む、農耕車(ほぼ壊れたやつ)の群れは壮観といえば壮観だった。
それこそ豊作を祝っての農業祭でも行われるんじゃないかってくらい、壮観だった。
もちろん、突っ込ませただけじゃない。
軽トラに加え、大型トラックの荷台にはミサイルとその発射台が積まれていた。
それを惜しげ容赦なく発射させた。
ちなみに、普段ならスタンピードで空を覆い尽くすほどのドラゴンの群れ向けの兵器である。
他大陸の農業ギルドのお偉方が、いかにキレまくっているかとてもよくわかる光景だった。
新聞に出ていた写真だけを見たなら、事情を知らない人はきっと廃墟の瓦礫、それを撤去するために集められた農耕車としか見えなかったと思う。
反社、もとい、ウスノが首領を務める犯罪組【cutthroat】は後日、これに反撃を開始した。
世界各地にある農業ギルドの支部が攻撃を受けた。
しかし、ドラゴンが百匹落ちてきても壊れない建物、それが支部の建物である。
食料や水、なんなら武器(農具)の備蓄もそれなりにあったので、職員はこれに応戦した。
基本的に、職員の九割方は農業高校、あるいは農業大学の出身者であるので害獣駆除の要領で、これまた構成員を討ち取っていった。
「なんで、魔王軍に就職してないんだよ!!」
とは、やはり生け捕りにされた構成員の叫びであった。
それに答えたのは、今年新卒で入った職員だった。
曰く、
「だってご縁がなかったし」
ちなみに、農業ギルドへの就職は高確率で縁故採用だったりする。
身内が勤めていて、ほかに就職先が見つからないと紹介したり。
アルバイトで農業ギルドで働いていて、そのままパートになったり正職になったりと、さまざまなパターンがある。
事実として、農民はほかの業種だと採用されないということは、大陸を問わず、わりとよくある話だった。
そんな話を人伝で聞いた、俺とシンは首がもげるんじゃないかってくらい頷いた。
「わかる、わかるわぁ」
と、俺が呟けば、
「ほんと、それな状態なんだよ!!」
力強く、シンも同意した。
成績も能力も合格の範囲内だと言うのに、不採用とかはよくある話だった。
それに、そもそも農業高校は士官学校ではないのだから、軍へ入るという選択肢が最初から用意されていないのだ。
さて、そんな会話をしつつ俺たちは、生きてた構成員を捕まえて農業ギルド、まぁ今回の作戦の本部に送る。
「しかし、このクリスタルのトラップいいなぁ」
俺はクリスタル漬けとなっている構成員を見ながら、言った。
すると、
「言ってくれれば安くする」
横で十歳くらいの、ツインテールの女の子がそう言ってきた。
こちらの大陸に住む農家出身の女の子、ミナクちゃんだ。
「お父さんがたくさん作ってるから」
聞けば、彼女のお父さんの自作罠らしい。
「それはありがたい」
今回のことが落ち着いたら是非購入させてもらおう。
「それを言うなら、うちの兄ちゃんの罠もなかなかだろ?」
なんて言いつつ、シンが指し示したのはウカノさんが作ったトラップだった。
構成員に蔦が巻きついて、魔力と体力を吸い上げ、綺麗な向日葵や、紫陽花、秋桜なんかを咲かせている。
「ちょっとえげつないかな?」
俺の答えにシンは不服そうだ。
いや、心を折るにはいいんだろうけど。
さて、点在していた重要拠点を中心に潰され、さらに農業ギルドや各農家から奪った販路まで奪い返された犯罪組織【cutthroat】は、本腰を入れて反撃を開始した。
つまり、本部の構成員が出張るようになったのだ。
本部の構成員の練度は、重要拠点にいた構成員よりも高かった。
そう、けっして弱くはなかったのだ。
けれど、畑を荒らした獣を農家が人として扱うわけはなく。
様々な対害獣用武器や罠、なんなら禁止となったトラバサミ諸々を持ち出して、これを討ち取っていったのだった。
訓練を受けた訳でもないただの一般人。
もしかしたらそれよりも劣る人種。
農民のことを無意識にそう捉えている人は多い。
だからこそ、心のどこかに油断があった。
そして、認識を改めたところでもう遅い。
気づけば犯罪組織【cutthroat】に、それなりの大打撃を与えることとなっていた。
さて、そんな最中のことだった。
農業ギルドを経由して、俺に手紙が届いた。
差出人は、
「え、魔王様さん?」
それを見ていた、シンが目を丸くする。
「お前、魔界の国家元首と知り合いなの?」
「あ、あぁ、まぁそんなとこかな。
でも、なんの用だろ??」
俺は手紙を開けて、中身を確認した。
そして、シンへ振り向いて聞いた。
「ウカノさん、どこにいる??」
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