裏話4
【数日後】
俺は、ウカノさんの家が所有する山で体を動かしていた。
視線の先には、ゴブリン、ドラゴン、サイクロプス等などが次々襲来している。
夏休み前の農業高校を手伝った時のように、スタンピードが起きたのだ。
まぁ、あの時より規模は小さいけれど。
怪我のために動けなかったから、だいぶ鈍ってしまっていた。
その感覚を取り戻すのに、これはちょうど良かった。
龍神族のじいちゃんや、ノームがいたら必死こいて止めていたと思う。
でも、ウカノさんはそんなことしない。
なぜなら、なんだかんだウカノさんも農民なのだ。
使えるものはなんだって使う。
それが農民、いいや、百姓だ。
怪我なんて関係ない。
動けるものはすべて、労働力だ。
それは子供だって同じだ。
例外はほとんど無い。
その家が古ければ古いほど、これは普通の考えだった。
ある程度になったら働かされる。
それが農民、農家の常識だ。
と、言ってしまうと、ウカノさんがブラック思考のド畜生に思われるかもしれない。
けれど、双子の兄をおびき寄せるための餌になるのなら、ある程度体を動かせるようになっていたほうがいい。
そう考え、手伝いたいと言ったのは、ほかならない俺自身だった。
助けてもらった礼をしていないし、なんならウカノさんは俺の呪いを解いてくれると確約してくれた。
持ちつ持たれつ。
呪いを解くのは、ウスノが作り上げた反社を壊滅させるための代価だ。
けれど、ただ貰うだけなのは気が引けた。
こういったことを手伝ってこそ、より良い関係が作れるのだ。
未来に展望が見えたなら、さらにその先を考えなければいけない。
そう、たとえば、卒業後のこととか。
この数日間。
ウカノさんにお世話になりつつ、考えていたことだ。
なんなら、ウカノさんに相談もしていた。
龍神族のじいちゃんにも、ノームにも話せなかったけれど。
ウカノさんには話せた。
ウカノさんは、反社銃撃の計画のために奔走していて忙しいだろうに、俺の相談もちゃんと聞いてくれた。
なんで、この人が俺の『兄ちゃん』じゃないんだろう。
この人が家族だったなら、なんて夢想してしまう。
「お、終わったな」
ザ・ビーストと呼ばれる翼の生えた大きなワンコ。
それを倒した直後、そう声をかけられた。
声の主は、シン。
本名はシンノウ・サートゥルヌス。
ウカノさんの実弟だ。
「んじゃ、傷見せてくれ」
俺のお目付け役兼護衛として、体を動かせるようになってから一緒に行動するようになった。
腹の傷の定期的なチェックと処置は、このシンがやってくれていた。
じいちゃんや、ノーム、ほかの精霊のおばちゃん達ともあれ以来会えていない。
どうやら、そう言った魔法みたいなものが俺には掛けられているらしく、じいちゃん達は俺のところに来れないらしい。
なので、ウカノさんがその窓口になってくれていた。
ウカノさん伝手で、手紙のやりとりなんかをしている。
携帯はそもそも没収されているし、レイドに借りていたゲーム機は双子の兄に壊された。
もう学校は夏休みに入っている頃だ。
「終わったぞ」
妙な感慨にふけっている間に、シンによる傷の処置が終わった。
今、俺がいる場所は、今まで住んでいた国から見ると、海の向こうにある別の大陸だ。
ウカノさんの実家がある、いわば彼の故郷である。
こちらの大陸には、今まで住んでいた国には無かった薬や道具がたくさんあった。
その中に、この腹の呪いの進行を遅くする薬もあった。
そのお陰で、今ではだいぶ体調が良かった。
こちらの大陸には、古い時代に魔界からやってきた魔族が興した国がいくつもあるらしい。
いつか行ってみたいなぁ、なんて考えられる程度には色々回復しつつあった。
「ありがと」
シンは担任のように呪いを受けることなく、処置を終えた。
「しかし、度胸あるな、お前」
シンが流れるように、倒した魔物を解体し、素材にしていく。
その作業をしつつ、そう言葉を投げてきた。
「普通呪いを解くためって言ったって、あんな方法受け入れるか??」
「……まぁ、こっちにも色々事情があるから」
「あぁ、学校の友達に会いたいってやつか。
普通の方法が見つかってないとかなんとかで、本来は封印して解呪方法を探すってことだったな」
「そーそー。
でもさ自分だけが、時間に取り残されるの、嫌じゃん」
とはいえ、ブランとの関係は修復出来ないくらいの喧嘩をしてしまった。
卒業まで気まずいなぁ。
「いや、それでも成功するかどうかなんてわからないだろ」
シンの言葉は尤もだ。
ウカノさんが提案してくれた方法は、安全でもなんでもない。
リスクの方が大きい。
そう、まかり間違えば死んでしまう確率が高い。
でも、
「そこは、ウカノさんを、お前の兄ちゃんを信じてる」
あの人は解呪を約束してくれた。
けれど、シンは簡単な概要しかしらない。
ルキアさんだってそうだ。
解呪の詳しい内容、やり方については、俺とウカノさんで話し合った。
その上で、俺は納得したのだ。
そして、ウスノのこともなんとかするために、ウカノさんに協力することを選んだ。
それだけだ。
「……留学先で、だいぶ信頼得てたんだなぁ、兄ちゃん」
シンは俺の言葉にそう返した。
「それに、帰ったら謝りたいやつもいるからさ。
こうなる前に喧嘩したままになっちゃって、そのまま連絡取れてないから」
実際には取れないが正しい。
これ以上、俺の事情にブランを巻き込みたくなかったのだ。
そう話すと、何故かシンがうんうん頷いた。
「あー、わかるわかる。
俺もさ、よく一緒に仕事する人がいるんだけど。
あの人への報連相が滞って、よく叱られる」
喧嘩とはちょっと違うかな。
なんて思いながら、俺も解体を手伝った。
「それはそうと、近々襲撃かけるってさ。
まずは宣戦布告として、この大陸内にあるアジトを潰すらしい」
シンはそう教えてくれた。
詳しいことは、また改めてウカノさんから話しがあるらしい。
「んで、俺とお前はこのまま一緒に組むことになるって」
「了解」
シンと組んで、魔物退治をしたが、とても仕事がやりやすかった。
これなら、俺は安心して背中を預けられる。
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