裏話1
気づくと、俺は布団の上にいた。
草を編んだ床の上。
そこに布団が敷かれていて、俺の部屋よりも広い部屋に寝かされていた。
横には、あぐらをかいてなにやら本を読んでいる、見知らぬ少年がいる。
俺と同い年くらいの、少年だ。
「あ、起きた」
顔立ちこそ、農業高校の先輩にとてもよく似ている。
けれど、別人だった。
「兄ちゃーん!!
お客さん、起きたー!!」
耳元で、でかい声を出される。
「……うっせぇ」
ガンガンと頭に響いた。
その声を聞いて、今度はドタドタと足音が聞こえてきた。
現れたのは、大きな犬。
真っ黒な、大型犬。
その大型犬が、尻尾をフリフリ少年抱きついた。
「って、違います違います!!
貴方じゃなくて、呼んだのは兄ちゃんです!!」
なんて、少年が言った直後。
ウカノさんが、土鍋を持って現れた。
ウカノ・サートュルヌス。
三十代の、物腰だけはやわらかそうな男性だ。
農業高校では、色々と伝説を残した人物だ。
その中でも、とくに有名なのは美少女に姿を変えて賞金首を文字通り狩りまくってきたことだろう。
「二人とも、一応怪我人の前なんだから静かにしようか。
とりま、兄ちゃんとお客さんはお話があるからもう下がっていいよ。
ありがとね」
二人??
一人と一匹なのに??
不思議に思ってる俺の目の前で、少年と大型犬が素直にその言葉に従って部屋から出ていった。
「さて、と。
久しぶり、ヤマト君。
転校したって聞いてたけど、まさかこんな形でまた会えるなんてね」
「……どうして、なんで??」
起き上がりつつ、俺はウカノさんに問う。
しかし、ウカノさんが俺の問いに答える前に、もう1人女性がやってきた。
あ、この人。
「そこでシン君に聞きました、ゲラウト、じゃなかった。
ヤマトさんが起きたんですか?」
その言葉は俺ではなく、ウカノさんに向けられていた。
彼女の口にした、『シン君』というのが先程の少年の名前のようだ。
女性の顔を、俺は知っていた。
春先の事件で、俺のトラブルに巻き込んでしまった女性だった。
それも、あの時入院していた病院で、俺の喉キリショーを見せてしまった人だ。
なんで、この人がここに?
考えた、瞬間。
俺の脳裏に記憶が洪水のように蘇ってきた。
額を抑えつつ、俺はウカノさんを見た。
ウカノさんは、穏やかな笑みを浮かべている。
「んー、色々説明する前に、お腹空いたでしょ?
お粥、食べな」
言いつつ、脇に置いていた土鍋の蓋をあけた。
ホカホカと湯気のたつ、美味しそうなお粥が現れる。
体は正直なもので、おいしそうな物が目に入っただけ。
それだけで、俺の腹が鳴った。
でも、
「……ありがとう、ございます」
俺の声は、とても暗かった。
「いつもの元気がないねぇ」
ウカノさんはそう言って、女性を見た。
「あとでもう一度呼ぶので、待っててもらっていいですか?」
そう女性に向かって言った。
女性は軽く頷いて、その場を去ってしまう。
「…………」
「ちょっと話そうか。
聞いたよ。
転校してから色々あったんだってね。
頑張ったね」
「……頑張ったかはわかりません。
でも、色々あったのは、その通りです」
「うん、ドラゴンを満身創痍で倒したんでしょ?
君が満身創痍になるなんて珍しいから、とっても強いドラゴンだったんだろうね。
ねぇ、新しい学校はどんな感じ??」
そんな他愛のない話題を、ウカノさんは振ってくる。
「……友達が、できました」
答えになっていない。
支離滅裂な返しにも、ウカノさんは穏やかに頷く。
「そうか、良かったね」
「全然、良くないです」
「なんで?」
「……色々、あったんです。
全然良くないことが色々」
俺の言葉に、ウカノさんは相槌を打ちつつ、返してくる。
「それは、君のそっくりさん、君の亡くなったお兄さんを自称してる男のことも含まれてる??」
この人は、どこまで知ってるんだろう??
そもそも、なんであそこでタイミングよくこの人は現れたんだろう??
「ウカノさんは、なんであそこに居たんですか??」
ウカノさんの質問には答えず、俺は逆に聞き返した。
「友達に頼まれたんだよ」
ウカノさんはそう言った。
「友達?」
「そ、君の担任のアール。
昔、害獣駆除を手伝ってもらったことがあってねぇ。
そっちだと邪神龍とか呼ばれてるモンスターの駆除だったんだけど。
そんな彼が、珍しく連絡してきてさ。
君のこととか、その時起こり始めてたトラブルのこととか、色々聞いたんだよ。
で、まぁ彼にとっての因縁みたいなものも絡んでて、たぶん手に負えなくなるかもってね。
彼、結構マジメだから」
マジメ??
あの糞担任が??
「で、話を聞いてみたらびっくりしたよ。
利害というか、敵が一致したんだ。
だから二つ返事で、君のことを任されたってわけ」
そこで、ウカノさんは言葉を切った。
視線が、いまだ手付かずのお粥に注がれる。
「とにかく、食べな。
他にも色々話したいことがあるしさ。
それに、君にも協力してもらいたいし」
「協力?」
「そ、君のそっくりさんと、そのそっくりさんが創った組織をぶっ潰す計画を立ててね。
それに協力してもらいたいんだ。
でも、話のカロリーが高いから、まずは腹ごしらえをしてもらわないとね」
ウカノさんは、ただただ穏やかに、そう言った。
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