裏話20
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同時刻。
休校となった校舎、誰もいない廊下にて二人の教師が対面していた。
一人は白衣の教師――ティリオン。
「それで、なんの用ですか?
アール先生??」
ティリオンの問いかけに、糞担任ことアールが彼を見据える。
否、睨みつける。
「先日の実技授業、あの殺人犯を手引きしたのはてめぇだったのか」
獰猛なドラゴンの威嚇にも似た、アールの言葉が投げられた。
「さて、なんの話でしょう?」
「しらばっくれんじゃねーよ。
お前も生死問わずのお尋ね者、極悪人のくせに。
罪状は、保険金殺人から国家転覆罪まで豊富だなぁ、おい??
掛けられた賞金は、金貨換算で五十億枚だったか?」
「ははは。意外と頭がキレるんですね、貴方」
「……目的はなんだ?
何故、ヤマト・ディケの周囲をあの人形にウロチョロさせてる??」
「おや、そこまでお気づきとは」
「気づかねーわけねぇだろ。
人間舐めすぎだ」
人形とはディアナのことだ。
とは言っても、ディアナには自分が人形だと言う自覚はないだろうが。
彼女はいわゆるホムンクルスと呼ばれる存在だった。
ディアナの場合は記憶もなにもかもが、製作者によって創られている。
「他の教師陣は誰も疑うことすらしなかったと言うのに」
ティリオンは素直に驚きを表した。
「種明かしするなら、アレより精巧な人形に会った事があるんだよ。
それに比べると、雑過ぎる作りで驚いたくらいだ」
アールがかつて出会った人形は、自分のことを死人人形だなどと嘯いていた。
しかし、ディアナに比べたら天と地ほどの差があるほど、上手く作られていたのだ。
純粋な経験の差みたいなものだった。
より緻密で精巧な人形に、事前に出会っていた。
それだけのことだ。
そのディアナは、現在、何かしらヤマトにちょっかいを掛けている存在に繋がるとして、ヤマトの保護者である龍神様が回収した。
「ははっ、言ってくれますね」
ピキっとティリオンのこめかみに、青筋が浮かぶ。
「……ヤマト・ディケのトラウマをわざわざ抉っただろ?
なぜ、そんなことをした??
アイツの死んだ兄貴の名前を、何故わざわざ騙った??」
そう、アールが訊いた時。
ティリオンの横の空間が歪んだ。
そして、現れたのは、大きな角を生やした巨大な体躯の大男だった。
魔族だ。
角は一対だが、片方は盛大に折れていた。
そして、先日の実技授業でティリオンと会話していた男だった。
男の出現に、アールはしかし驚くことはなかった。
「懐かしい顔が出たな」
なんて、アールが小さく呟く。
「久しぶりだな、アール」
大男が言う。
アールは嘆息して、
「……まさかなと思っちゃいたが、やっぱりお前が噛んでたか。
ギブリア」
大男の名前を口にした。
ヤマトに掛けられた呪い、その術式を解析した結果、ギブリアの癖のようなものを見つけた。
おそらく、アールでなければわからなかっただろう、それ。
「相変わらずの目ざとさだな。
かつて神童だと呼ばれていただけのことはある」
「神童ってのは、大人になりゃあ人間に進化するんだよ知らんのか?」
ちなみに、その神童にボコボコにされ心を折られたのがギブリアである。
「まぁ、それはいい。
かつての不良がそのまま悪い大人になったってだけだからな。
で、ここの生徒にちょっかいを出してきてる。
目的はなんだ??
わざわざ、次代の国家元首でもなんでもなく、百姓の子倅を狙ってるのはなんでだ??」
ギブリアが返そうとした時だ。
アールの背後から声がした。
「騙る、とはまた言ってくれるね、【先生】?」
気配もなにもなく、その声は突然アールに向かってなげられた。
そしてそれは、聞き覚えのある声だった。
とても、聞き覚えのある声だった。
同時に、アールの体に軽い衝撃があった。
見ると、
「……あ?」
アールの胸部から剣が突き出していた。
「愚弟がお世話になっております、先生」
なんて、無邪気な声が耳元で囁かれる。
剣が引き抜かれ、アールがその場に倒れる。
「まぁ、でも動けないでしょ??」
それは、黒衣を身につけた少年だった。
その少年の出現に、ティリオンとギブリアは驚愕しつつも膝をつき、頭を垂れる。
それに構わず、少年は倒れたアールの傍で屈んでその頭を、髪を掴んで持ち上げた。
「アンタのことは、報告で聞いてるよ。
落ちぶれた天才、アール??」
アールが目にしたのは、ヤマトと同じ顔をした少年だった。
もう1人のヤマトがそこにいた。
しかし、その少年がヤマトでないことはすぐにわかった。
淀んだ目、ヤマトより痩せた体。
なによりも、その顔。
ヤマトと瓜二つなのに、その顔に浮かべているのは邪悪な笑顔だった。
ヤマトには絶対できない、表情だ。
「ウスノ様、いけません!!
いますぐお戻りください!!」
ティリオンが叫ぶ。
なにしろ、ウスノにとってこちらの空気は毒だ。
しかし、それにウスノはニコニコと笑いながら返す。
「心配ありがとう、ティリオン。
でも、今日は調子がいいんだ。
それに、ギブリアの開発してくれた魔法のお陰で少しだけこっちでも動けるようになったんだよ」
物凄く優しく、慈愛に満ちた声だった。
「ま、さか、本物の、お出ましとはな」
「おや、僕が本物だとわかるのか。
偽物かもしれないよ??」
なんて、楽しそうにウスノが言った。
「まぁ、でも、先生には関係ないことだけれどね。
……あれ?もう聞こえてないかな??
苦しめようと思って、わざわざ呪いを付けずに刺したのに、やっぱり人間は脆いね」
昔の僕と同じだ、とウスノは続けた。
その声をアールは、意識を闇に飲まれながら聞いた。
「大丈夫ですよ、先生。
愚弟も、すぐにそちらへ送りますから。
そしたら、また面倒をみてやってください。
なにしろ、あいつは寂しがりですから」
夥しい血が流れる。
アールはピクリとも動かない。
「まぁ、程よく痛めつけた後に、ですけどね」
動かないアールを見て、ウスノが笑顔になる。
「あぁ、楽しいなぁ楽しいなァ。
ヤマトの物を壊すのは、なんて楽しいんだろ」
まるで幼児のように、キャッキャとウスノが歌う様に言った。
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【追記】
ここまで起こったこと、簡単まとめ。
・AM4:00~AM8:00くらいまで
農業高校の手伝い
・8:00過ぎ~9:30くらいまで
お説教&朝食
・9:30~10:00
ヤマト&ブラン、ガチ喧嘩
ヤマト、意識不明でぶっ倒れる
・同時刻
糞担任、刺される
たぶん、一番頑張ってたのは糞担任。