裏話14 農高でこき使われたブランの話
「来ちゃいましたって」
リィエンと呼ばれた女生徒は、呆れたように呟いた。
そして、俺を見て、
「なに一般人連れてきてるんだ!?!?」
そう叫んだ。
ヤマトは一度、俺を見て、またすぐにリィエンへと視線を戻した。
「まぁ、成り行き?みたいな?」
その返しにリィエンが、盛大に息を吐き出した。
そして、言葉を続けようとした彼女に、ヤマトは俺を紹介した。
「彼はブラン、聖魔学園の生徒で、見てわかるように魔族です。
だから、魔法が使えます」
「え、それって」
「リィエン書記さんに預けますから、好きに使ってください。
ど素人でも、猫の手には変わりないですから。
そうそう、彼、次期魔王候補らしいですよ」
言って、ヤマトはサムズアップする。
ヤマトの言葉に、リィエンもサムズアップ。
「よくやった!!
じゃあ、ブラン君、早速仕事をしてもらおう」
待て待て待て待て待て待て。
何故、そうなる?!
「はい?」
戸惑う俺に、ヤマトが説明する。
「人手が足りてないんだよ。
お前、攻撃魔法使えるだろ、三年の先輩たち手伝ってくれ。
たぶん、一番そこが安全だからさ」
「え、おい?!」
「リィエンさん、転移札ください。
ヤバめのところから片付けていきます」
テキパキと、ヤマトがリィエンへ言った時。
大地を揺るがすほどの咆哮が響き渡った。
見ると、徐々に昇りつつある太陽、それを背にドラゴンの大群がこちらへ向かってくるところだった。
(嘘だろ?!)
俺の脳裏に、去年のドラゴン襲撃事件の記憶が蘇る。
一瞬、本当に一瞬だけ、恐怖で体が動けなくなる。
一体でアレだけの被害が出たのだ。
あんな大群に襲われたら、一溜りもない。
その場で忙しなく動いていた、他の生徒たちも何人かパニックになる。
混乱をきたす中、
「リィエン書記さん、肩、借りますよっと」
「どうぞ」
俺の横で、二人がそんな会話をする。
見れば、助走を付けてヤマトが走り、リィエンの肩を踏み台にして、ドラゴンの大群へと跳んだ。
あっという間に距離をつめ、持っていた鉈を一閃させる。
刹那の静寂。
そのあとに、ドラゴンの首が堕ちた。
続いて、その胴体も。
すこし遅れて、ヤマトが危なげなく着地した。
「んー、やっぱり鈍ってるなぁ。
体、動かさないとダメだこれ」
そんなことを言いつつ、戻ってくる。
かと思えば、その場にいた生徒たちから歓声があがる。
「話が途中でしたね、リィエンさん、転移札ください」
歓声を無視して、ヤマトがニコニコと手を突き出していた。
なにか、言う暇もなく、リィエンから札を受け取り、ヤマトは転移しようとする。
それにくっついて行こうとしたが、
「君はこっち」
リィエンに首根っこを引っ掴まれて、阻止される。
それを見たヤマトが、
「先輩のとこならこの世界のどこよりも安全だから」
なんて言ってきた。
それほど信頼しているということだ。
いいや、それよりも。
「なんで、今、笑うんだよ」
寮でのやり取りでは見せなかった、無邪気な笑顔。
この一年、一度も見たことのなかった、ヤマトの笑顔がそこにあった。
そうして、ヤマトは転移していった。
「そりゃ君、楽しいからだろ」
俺のつぶやきが聞こえていたのか、リィエンが何を当たり前なことを言ってんだとばかりに、俺に向けて言ってきた。
直後、またその場がザワザワし始める。
誰かが叫んだ。
「生徒会長ぉおおお!?
たたたたた、大変です!!」
それに答えたのは、リィエンだった。
「今度はどうした?!」
この人が生徒会長かよ??!!
「Z地点、突破されました!!
サイクロプスの群れが、こちらに向かって来ます!
九時の方向!!」
リィエンが報告を受けて、指示を飛ばす。
それを受けて、歴戦の戦士を思わせる、明らかに面構えの違う生徒たちがサイクロプスを迎え撃とうと配置につき始めた。
リィエンの指示からわかったけれど、面構えの違う生徒たちは全員三年生だった。
地響きとともに、サイクロプスは現れた。
三年生が各々武器を手にサイクロプスを迎え撃った。
まるで赤子の手をひねるように、サイクロプスが討たれて行く。
「ほらほら、君もはやく行け」
なんて言われ、胸ぐらを掴まれたかと思うと、サイクロプスの群れの中へ投げ飛ばされた。
ヤマトの心配してる場合じゃねぇええええ?!?!
俺は、生まれて初めて死を覚悟した。
この時、制限されていた力が一部解除された。
脳内に声が降ってくる。
《生命の危機的状況と判断。制限解除》
本来の力の七割くらいまで一時的に力が戻る。
俺は術式を編み上げて、一気にサイクロプスへと叩きつけた。
空間が歪み、ひしゃげる。
それがそのまま、サイクロプスへの攻撃となる。
サイクロプスがグチャグチャに潰れ、ひき肉になる。
「おぉー」
「見たことないジャージ着てる、誰だ?」
「一年か?」
「他校からの応援とか??」
「え、でも今の魔法だったろ」
なんて声が、魔法も使わずサイクロプスを倒していた三年生たちから聞こえてきた。
「「「「「え、マジで誰??」」」」」
そこに、リィエンがやってきて説明してくれた。
「彼は、あのヤマトからの差し入れだ!!
存分に使え、野郎ども!!!!」
差し入れ、俺って差し入れだったんだ……。
何とも言えない気持ちになる。
しかし、そんなのお構い無しに三年生のテンションがぶち上がった。
「え、ヤマトって、あのヤマトか?!」
「来てんの!? アイツ?」
「農業高校始まって以来の問題児が帰ってきた!!」
「そうだよなぁ、ウカノさんは怪物、化け物だけどまだ常識人だし。
ヤマトは、アレ、去年の歓迎会で校舎全壊にさせたもんな。
まぁ、悪ノリした俺たちにも非があるけど」
歓迎会で、校舎全壊?
何やってるん、あいつ?!
つーか、軽口叩きながらサイクロプス相手にするとか、化け物はどっちだ、これ????
三年生たちは、雑談しながら、サイクロプスの首を狩りとる。
サイコロステーキみたいに細切れにする。
腹パン食らわせて、胴体に穴をあける。
等などの、とても常識では考えられない光景が目の前で繰り広げられる。
「おっと、差し入れ魔族君。
油断は禁物だぞ」
俺の横で、リィエンがそう口にした直後。
俺はそれに気づいた。
殺気だった。
見ればサイクロプスがあの巨大な棍棒を振り回して、こちらへ襲いかかってくるところだった。
やべぇ、逃げられねぇ!
あれでぶっ飛ばされたら一溜りもない。
しかしその襲い来る棍棒に、リィエンがゆっくりとした動作で触れた。
それだけ、たったそれだけで、棍棒がピタリと動きを止めた。
サイクロプスが、困惑の表情を浮かべる。
棍棒をなんとかしようともがいている。
「よいしょっと」
リィエンが、ヒョイっと棍棒ごとサイクロプスを持ち上げて、地面に叩きつけた。
その拍子に、棍棒がサイクロプスの手から離れる。
しかし、リィエンの手には棍棒が触れていた。
そのまま、リィエンがサイクロプスの脳天を棍棒でカチ割った。
「頭蓋骨が、グチャグチャになったな。
これじゃ素材に出来ない。失敗失敗」
リィエンが、やっちまったぜ、と苦笑していた。
それを見て、他の三年生たちが、
「リィエンは雑だもんなぁ」
「そーそー、蝶や華のようにとはいわないけれど、もう少し丁寧に仕事したほうがいいよ」
「皮の剥ぎ取りも、三年生なのに一番下手くそだしな」
なんて、言ってくる。
リィエンもそれに、軽口で返していた。
何なんだよ、ここ。
何なんだよ、こいつら。
ヤマトより、全然強い。
そんな、奴らがこんなにいたのか。
「差し入れ魔族君、ぼうっとしてる暇は無いぞ」
リィエンがニヤッと笑った。
そこに、拡声器による声が届いた。
『せ、せせせせ、生徒会長ぉおお!!
今度は全方向から、ゴブリン、ドラゴン、スライム、オーク、オーガの群れが出現!!』
その声を受けて、リィエンが楽しそうに俺へ顔を向ける。
「ほらほら、仕事は終わらないんだ。
行くぞ!」
「え、へ?
いや、あの教師は??」
「先生方は、最前線の見回りだな。
あと後方支援と、一番潰されるとヤバい畑を守ったりしてる。
でも、生徒の自主性を重んじているからか、ここにはもう少しやばくならないと出てこないぞ」
基本、上級生で回してるってことかよ!?
「なにしろ、我々三年生がいるからな!!」
自信満々に言い切ったリィエン。
安全だと、ヤマトは言った。
先輩のところなら、世界のどこよりも安全だと、ヤマトは言っていた。
その意味を理解できた気がした。
せっかくここまでポイント溜まってるんで、どうせなら一万ポイントまでいきたいので、
・面白かった
・続きが気になる
・主人公には幸せになってほしい
そう思ったら【☆☆☆☆☆】をタップしてください。
広告の下あたりにあると思うので、よろしくお願いします。