裏話13 農高でこき使われたブランの話
新キャラが出ます。
「とにかく、部屋から出すな」
そう言って、ノームは消えた。
おそらく、朝までには戻ってくるのだと思われる。
仕方ないので、俺は壁に触れる。
隣室がアイツの部屋だからだ。
そこから、簡単な術式を展開させ、アイツが部屋から出ようとしたらわかるようにしておいた。
そして、早朝。
アイツが部屋を出たことに気づいた。
念の為にすぐ動けるように、ジャージで寝ておいて正解だった。
俺も部屋から出て、ヤマトへ声をかけた。
こうして、話すのも随分久しぶりだった。
アイツは聖魔学園のジャージを着ていた。
春先からずっと、農業高校から持ち込んだジャージを着ていたというのに。
この時は聖魔学園のジャージを着ていたのだ。
実技授業に出てこないから気づかなかったけれど、そういえばヤマトが農業高校のジャージを着ているのを、ココ最近見ていなかった。
最後に見たのは、そう、凶悪犯と遭遇したというあの実技授業だった。
俺は、ヤマトを部屋に戻そうとした。
どうせ問答しても、なにも答えないだろうと思ったからだ。
本当は、色々と聞きたいことがあった。
怪我は本当に大丈夫なのか、とか。
なんで俺たちを避けるようになったのか、とか。
なにか、隠してるだろ、とか。
それをグッと飲み込んで、
「まだ怪我治ってないんだろ、寝てろよ」
そう言った。
すると、また、だ。
また、ヤマトはあの泣きそうな顔をした。
けれど、それを押し殺すようにヘラヘラとヤマトは笑った。
笑いながら、
「ブランこそ、なんでこんな時間に起きてるんだよ?」
なんて返してくる。
イライラした。
その笑いにも、態度にもイライラした。
でも、ここでそれを指摘したところで、ヤマトはのらりくらりと誤魔化すだろうと思った。
だから、
「起きたんだよ。
ノームに頼まれてな。
なんか大事な用事が出来て、お前の監視が出来ないから。
お前が部屋を抜け出そうとしたら、なにがなんでも止めてくれって」
必要最低限のことを話した。
するとヤマトは、顔を伏せ、声を絞り出した。
「大袈裟だな、アイツも」
大袈裟か?
本当に??
疑問をぶつけるのは簡単だ。
でも、答えをもらうのは難しい。
それがわかってるから、わかりきってるからこそ、俺は言葉を続けられない。
そんなことお構いなく、ヤマトはパッと顔を上げて、いつも通りの表情で俺を見てきた。
「もうほとんど塞がってるっつーのに」
本当だろうか?
また、疑問がわいてくる。
そんな俺に、ヤマトは続けた。
「だから、大丈夫だって」
あ、大丈夫じゃないやつだ、これ。
確信は無かった。
だからか、俺の口から、
「お前の大丈夫は、信用できないからな」
するりとそんな言葉が出てきた。
春先の事件が頭を過ぎる。
こいつはあの時、全然【大丈夫】じゃなかった。
【大丈夫】は、こいつの口癖みたいなものだ。
それを受け取ったヤマトは、顔をクシャクシャに歪めた。
本当に泣く直前みたいな、そんな顔をしていた。
だというのに、
「酷いなー」
なんて言って、またヘラヘラ笑った。
そして、俺の横を通り過ぎようとする。
言いたいことは山ほどあった。
イライラも、溜まっていた。
だからか、俺は勢いでヤマトの腕を掴んだ。
「笑って誤魔化すな」
自分で思っていたよりも、低い声が出た。
「わざわざノームが俺に言ってきたんだ。
今まで無かったことだろ、これ」
そう、今まで無かったことが起きている。
考えすぎかもしれない。
けれど、ヤマトとこうして話していると漠然とした不安みたいなものが、だんだん形になってきていると実感した。
それがどんな形になるのか、今はまだわからない。
けれど、自分なりの言葉でそれをヤマトに伝える。
「これだけでも、お前の今の状態がけっして良くないってことくらいはわかる」
怪我の具合が本当のところ、どんな程度なのかもわからない。
今回の死にかけた件についても、なにも、教えられていないからわからない。
わかっているのは、こいつが大怪我をして死にかけたことくらいだ。
そして、俺の血が無ければ本当に死んでいた可能性があったということくらいだ。
そう、死にかけた。
こいつは、去年、何度も死にかけた。
結果的に死んでないってだけで、本当なら死んでいたかもしれないのだ。
こいつはそのことをわかってるのだろうか。
ここで行かせたら、また死にかけるかもしれない。
いいや、今度こそ死ぬかもしれない。
こいつは、そう簡単に失われていいやつじゃない。
そう考えると、ヤマトの腕を掴んだ手に力が入った。
その時だった。
「……悪い」
ヤマトがそんな言葉を漏らした。
直後、あいつ、足払いをかけやがった!!
ちくしょー、死にかけた怪我人だとおもってたらこれだもんな!!
その拍子に、ヤマトを掴んでいた手を離してしまう。
んの、逃がすかこんにゃろ!!
その場を走り去ろうとするヤマトを追いかける。
ヤマトは玄関を出て、転移術式を展開させていた。
どこ行く気だ、こいつ?!
俺は、ヤマトに飛びかかった。
その腰を掴む。
瞬間、
(血の、臭い?)
アイツの傷口が開いたのか、血の臭いがした。
と、同時に、なにか、そう、とても甘い臭いも。
(死んだじいさんと同じ臭いだ)
もう何年も前に病気で亡くなったうちのじいさん。
余命いくばくもないから、と会いに行った時に感じた臭いにとてもよく似ていた。
嫌な予感、漠然とした不安が、はっきり形になった。
(これ、もしかして)
死前臭、と呼ばれるものがある。
それかもしれない。
術式が展開する。
「おい、おまえ……」
視界が光に包まれる。
気づくと、ガヤガヤと賑やかな草原へ転移していた。
草原の向こうには、天然の巨大な壁を思わせる山々があった。
その麓には森。
日の出までは、まだ時間がかかりそうだ。
けれど、完全な闇ではない。
あちこちに、グランドなんかに置かれている大きなライトが設置され、ヤマトが前に着ていたジャージ。
それと同じ物を着ている、同年代の男女が忙しなく動いていた。
どこからともなく、怒号が飛び交っている。
「B地点、モンスター出現!!
パターンは、ゴールドです!!」
「こんな時にお化けタヌキの襲来かよぉおおお!!??」
「ハクビシンがでたぞ!!
動けるやつ、着いてこい!!」
「え、終焉の獣がでた??
蹴りつければ逃げる、蹴っとけ蹴っとけ!!」
「A地点、ヤバいっす!
一年生が壊滅しそうです!!」
「ヤバいヤバいヤバいヤバい!!
先生呼べ!!
芋畑が襲撃された!!」
「枝豆畑が、燃やされたぞー!!」
「オクラとスイカ畑もやられた!!」
「俺のキュウリ畑がぁぁああ!!??」
「トラクターかき集めたほうがいいだろ、これ?!」
「燃料が値上がりしてんだよ!
だから、なるべく俺たちだけでなんとかしろってことだろ」
「HAHAHA、死ぬよー、みんな死んじゃうよー。
アハハ」
「笑ってる暇あるなら、特攻いけ、特攻!!」
「そのバカは、パラシュート部隊に放り込んどけ!!」
まさに最前線のような混乱だった。
ヤマトはそれらを眺めて、
「ありゃまー、これは想像以上にヤバいかも」
なんて呟いた。
と、そこで、俺たちに気づいた生徒が一人。
「おい!一般人が入り込んでるぞ!!」
なんて言って、こちらに走ってくる。
それは、女生徒だった。
気が強そうな女生徒だった。
「どうやって入った?!
いや、そうじゃなくて。
いまここはとても、危険なんだ、転送してやるから住所、を……って?!
お前、ヤマトか?!」
ヤマトが、物凄く嬉しそうに返す。
「お久しぶりですね。
リィエン書記さん」
「あ、あぁ、久しぶり。
もしかしなくても、タケルから連絡が行ったのか?」
「あと、元同級生のキーリからSOSが届いたので、来ちゃいました♡」
とても、嬉しそうに、楽しそうに。
一度も見た事のない笑顔で、ヤマトはそう言った。
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