裏話9
そして、今後のことについて俺はじいちゃんと話し合った。
封印云々、養子云々についてはざっくりと。
とりあえず、もうすぐ夏休みだ。
絶対安静を期すために、それまでここで入院だと言われた。
そして、ブラン達にも誰にも呪いのことは話すなとも言われた。
「え、なんで」
「今のところ不明な点が多い。
下手に広がると厄介だ」
「……むしろ、俺が大人しく入院してる方が怪しまれるんじゃないかな」
遠回しに、夏休みまでの数日間だけでも学園に戻れないか言ってみる。
すると、じいちゃんが、目を丸くして、
「なんだ、聖魔学園に愛着でもわいたのか?」
と聞いてきた。
愛着。
どうなんだろう。
愛着というのかな。
わからない。
「んー、愛着っていうか。
二度とブランに会えないかもって思ったら、せめて封印されるまでにアイツと遊んでおきたいかなって」
会えるかもしれないし、会えないかもしれない。
だからこそ、もう一つ二つ思い出を作っておきたかった。
それだけといえば、それだけのことだ。
「やけに執着しているな」
「そうかな。そうかも。
でも、たぶん、それは」
そこまで言いかけて、言うのをやめた。
あえて言うほどのことでもないと思ったからだ。
じいちゃんも、ノームもとくに追求してこなかった。
代わりに、
「ヤマトは、学園に行きたいのか?」
そう確認してきた。
俺は、素直に頷いた。
「うん、戻りたい」
あの学園に行ってから、日記によると、死にかけるし、なんていうか、死にかけるし。
これでもかと死にかけたし。
せっかく手に入れた二槽式洗濯機は壊されるし。
誹謗中傷は酷いし。
なんなら、最初の頃は空腹で死ぬかと思った。
基本的に糞な思い出しかない場所だけど。
それでも――。
脳裏に、ブラン達と過ごした楽しい時間が浮かぶ。
その記憶もちゃんとあったりする。
だから、戻りたいなって思った。
じいちゃんは、仕方ないとばかりにそれを聞いてくれた。
ノームは反対したけれど。
それは、きっと初めてわがままが通った瞬間だったと思う。
その代わり、いくつか条件もつけられた。
これを破れば即封印ということで話がついた。
ほんの数日だ。
夏休みまでの、数日だ。
春先のゴタゴタ以外、ココ最近は今回のことを除けばとても平和だった。
だから、その条件を破ることにはならないと思う。
その後は、今度は医者や看護師がやってきてカウセリングの日程なんかについて話をされた。
何故にカウセリング?
と疑問だったが、どうやらあの変質者はそうとうヤバいやつだったらしい。
魔界で凶悪犯として指名手配されていて、老若男女問わず乱暴しては殺すということを繰り返していたのだとか。
で、俺も襲われたからちゃんとカウセリングを受けろとこういうわけだ。
まぁ、入院の日程とかカウセリングの日程については、ほとんどじいちゃんと医者の間で話がされ、俺は適当に頷くだけだった。
……封印されるのに、カウセリングもなにもないと思うんだけど、まぁ、いっか。
そういえば、なにか大事なことを忘れてる気がする。
なんだっけ?
思い出せない。
そうこうしているうちに、医者とじいちゃんの話し合いが終わる。
とりあえず、さらに2日ほど入院となった。
大事なことを思い出す前に、じいちゃんは帰って行った。
ノームも消える。
じいちゃんと入れ替わりで、今度は担任が現れた。
どうやら、じいちゃんと担任の間で情報交換がされているらしく、担任は俺の封印についても知っていた。
「生きてたな」
それが担任の第一声だった。
「とりあえずは」
なんて返すと、担任はいつもの死んだ魚みたいな目を向けて、
「退院したら、ちゃんとブランに礼言っとけよ」
「ブランに礼?」
なんのこっちゃ。
「血が足りなくなってな、ブランが提供してくれたんだよ」
マジか。
「血液型が、特殊らしいな、お前。
たまたまブランも同じ血液型だったんだと」
ほかの血液型でも対応できるから、別に大丈夫だったと思うんだけどなぁ。
「んじゃ、退院したら菓子折のふたつか三つ渡さないとっすね」
なんて軽口を叩く。
そんな俺に、担任は手のひらをみせてきた。
最初、その手には真っ黒な手袋が嵌められていた。
担任はそれを取ると、ずいっと見せてきた。
酷く爛れた、火傷の跡がそこにはあった。
「どうしたんすか、それ?」
「お前は俺にも感謝すべきだ。
お前を助けようとしてこうなったんだからな。
偉大なる先生ありがとうございましたって言え」
淡々と、でもどこか恩着せがましく担任は言ってくる。
そして、続けた。
「呪いだよ。
お前に掛けられた呪いに触れたらこうなった。
じいさんに聞いてるだろうが、念押ししておこうと思ってな。
まぁ、医療関係者以外でわざわざその怪我に触れるやつもいないだろうが」
そう前置きをして、担任は言った。
「じいさんか、精霊王以外の誰にも傷に触らせるなよ?
こうなるからな?」
ちょっと脅しみたいだった。
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