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27.第一王子からの大変に面倒で骨が折れる上に結果を求められる御命令



「第二王子が、ですか」

「そうだ」



 あれからしばらく経ち、母さんも国も少し安定してきたようで一安心、といったところで第二王子から呼び出しを受けたらしい。何もやらかしていない、というより接点もないはずだが。



「悪い話ではない。早めに行ってやれ」

「はぁ……」



 いつも以上にノア様が冷たい、というより素っ気ない感じがする。喧嘩するタイプではないはずだが、あちらはあちらで何かあったのだろうか。



 そんなわけで言われた通り第二王子の公務室まで向かうと、入って早々頭を下げられた。




「本当に申し訳ないことをしたっ!」

「いやいやいや、頭を上げてください! 自分は平民です!」

「いや! ずっと謝罪をせねばと思っていたのにこれほど遅くなってしまった……それに、今できる償いはこれくらいしかないのだ」




 せめてもう少し状況を説明してほしい。周りの人に視線を振ろうにも人払いをされていて振る先がない。



「そもそも、この謝罪は一体……」

「ああ、不躾でさらに失礼した。その……君はホアン氏の御子息だろう?」



 ようやく合点がいった。父さんと姉さんが巻き込まれた山火事の際、部隊の指揮をとっていたのはこの第二王子だ。



「……あれは、事故です。第二王子に責はありませんよ」

「だが、君にとっては大切な家族を二人も失わせる結果となった。本当に申し訳ない……」



 冷たさすら感じる圧倒的カリスマ性を持つ第一王子と違い、第二王子は熱い人情の人と言われている。人に寄り添うその姿勢は少々暑苦しくはあるが、声を聞いてくれ実行に移してくれることから国民からの人気も高い。



 初めて会ったが、身分の違う俺に躊躇なく頭を下げるところから見ても良い人ではあるのだろう。ただ、恐縮するのでそろそろ終わりにしてほしいが。




「気にかけていただきありがとうございます……では、自分はこれで」

「ん? 稽古は今からだぞ」




 聞き慣れない単語に首を傾げると第二王子も同じ動作をしていた。どういうことだ。




「カールドゥの武術大会に出ると聞いたが」

「……人違いでは」

「長兄から聞いたことだからなぁ」




 長兄ことあの第一王子はまた説明もなく何をしてくれているんだ。多分俺に話をしていないだけで確定事項なのだろうけれど。



「よろしければ経緯を聞かせていただけると大変助かるのですが……」

「おう! 任せておけ。確認が先だがな!」



 確認、という言葉に違和感を覚える前に担ぎ上げられた。悲鳴を上げる間もなく城の外へ連れ出され、外周を一緒に走り休みなしで腕立て腹筋背筋剣の構え第二王子を相手に実践稽古と続き。




「がっ…………はっ、はぁ……あの」

「ふむ、こんなものか。とりあえず飲むと良い」




 そう言いながら差し出してくれた水を勢いよく飲み干し、息を落ち着けたところでようやく当初の目的を果たす。



「これは一体、何なんでしょう……」

「ああ、事の経緯だったか。なんということはない。貴君に謝罪する機会を設けてほしいと依頼したら、代わりにカールドゥの武術大会で優勝させてこいと命令されただけだ」



 優勝してこいではなく、させてこい、か。



「俺を……ですか?」

「他に誰がいる?」

「…………そうですね」



 第一王子が何を考えているのかは知らないが、また面倒なことを押し付けられたらしい。俺は魔術方面は勉強してきたつもりだが、武術方面はそこまで明るくないというのに。




「俺はカールドゥに限らず各国の武術大会に参加させてもらっているからな。貴君にはずっと会いたいと思っていたところであったし、自分の隊に入れてもとも思っていたところだったのもある。まあ良い機会だ」

「その、自分は平民上がりですから……貴君などとは」

「では名で呼ばせてもらおう。良いな、フィー」

「はい」




 ぐいぐいと懐に入られる感じがある。第二王子の自然体でありこれこそが第一王子とは違う魅力なのだとは思うが、王子と対等のように扱われるとさすがに恐縮してしまう。

 

 


「名乗りがまだであったな。ヴィルヘルム・オーケ・グランフェルトだ。ヴィルと呼んでくれ」

「さすがに勘弁してください」

「さすがに冗談だ」




 言って、かっかと笑われる。冗談も言える人ではあるらしい。



「武術大会の件も冗談であるとありがたいのですが」

「長兄が冗談を言う顔に見えるか」

「見えませんね」

「そういうことだ」



 ため息をつきたくなるが第二王子の前だ。飲み込んでこちらも確認する。




「あまり詳しくはないのですが……カールドゥの武術大会はそれなりに難関だった気がするのですが」

「そうだな」

「自分に芽がありますか?」

「今のままではないな」




 今のままでは、ということは。




「幸い日はまだある。そちらの公務の合間に俺の隊の訓練に加わると良い。時間があれば、夜にはなるが私も面倒を見よう」

「ヴィルヘルム様にそこまでしていただかなくとも……」

「言ったろ。長兄からの御命令だ」




 それは、遂行しなければ何を言われるか分かったものではない。何を考えているのかは分からないがとりあえずこちらも従う他ないだろう。



「申し訳ありませんが、よろしくお願い致します」

「なに、優勝すれば良いだけの話だ。気楽にいこう!」



 もちろん気楽にできるはずもなく、次の日からの訓練は熾烈を極めた。




「フィー……日に日にやつれていませんか?」

「気のせいだと思っておいてください」




 心配してくれるリアンを支えにほぼ気力だけでなんとか耐えた。第一王子もせめて褒美の一つでも考えてくれていればと思うが、あの日以来会う機会もないので文句も言えない。憎らしい。



「とりあえず基礎体力はついてきたな。後は技量だ。カールドゥの武術大会の顔触れは大体決まっていて……」



 優勝するために強くなる、のではなく優勝するための技量を磨く。如何に難関と言えど傾向と対策ができていれば突破できる、という考えのもと戦略が練られ、それに符合する鍛え方をされた。



 ただ、決まった顔触れということはそれだけの強さがあるということで、生半なやり方では追いつけない。情けないことに弱点や隙を突くような戦法ではあるが、優勝するためだ。



「ちなみに、その方々と戦う前にもそれなりに強い方が出てくるんですよね?」

「そうだな」

「そこで負ける、なんてことは……」

「フィー。君に今日頂戴したばかりの我が長兄からのありがたい言葉を贈ろう」




 案ずるな、私の歩む道は常に正しい。




「……つまり、優勝以外の道はないと」

「そういうことだな。途中で負けでもしたら追放されるかもしれん」




 かっかと笑われるがこちらにすれば笑い事ではない。



「フィー。この国は少しずつ回復しているだろう?」

「……そうですね。食料問題も解決してきましたし、少しずつですが避難していた民も戻る動きが出ています。山は元の姿には戻っていませんが植樹も終わりましたし、じきに落ち着くのではないかと」



 いきなり違う話題を振られて戸惑うが、確かに国は元に戻りつつある。聖女の存在が大きいのか、疫病も治まり重病者の数も減ってきた。加えて、旱魃や食料確保等の問題に早めに対処できたことによって、人々にも活気が戻りつつある。リアンが聖女になりたての頃のような絶望感は消え去ったと言っていいだろう。




「なまじ余裕があるとな。まあ、色々なことに目が向くようになってくるものだ」




 色々なこと。




「聖女様の傍に控える得体の知れぬ騎士は誰か、などとな」




 そういうことか。




 失念していた。アリー様を含め、王族の方達からは特に何も言われることなく、第一王子の庇護があったことで余計に丁重に扱ってもらってはいたものの、貴族や国民が納得できるだけの理由はどこにもない。




「聖女様の精神安定剤としても申し分ない働きをしている上、長兄からの無理難題もこなしているとは聞いている。実際、会ってみても努力家で文句が多い点を除けば好青年だと思うぞ」

「……褒められていますかね」

「ほら、文句が多いだろう?」




 それみたことかと笑われる。



「まあ、実績作りだ。武術や魔術に秀で、知識もある。その上、王子達が一目置く人間とくれば、非難の声は少なくなるだろう」



 第一王子の隊に名を連ね、第二王子からは指導を受け、第三王子とは魔術面で議論を交わせる。そして難関と言われる大会で優勝すれば、名も顔も売れる。なるほど、考えられている。



「やる気になったか?」

「聖女様の近衛騎士ですからね」



 全て、リアンの傍にいるためだ。




「戴いた御好意を無下にはしません」




 そうして、さらに二月ほど訓練を重ね、見事優勝を勝ち取ってきた。




「フィー! カールドゥの武術大会で優勝したそうじゃないか。素晴らしいな!」

「アリー様、ありがとうございます。これからノア様にも報告しに行くんですよ」




 長らく顔を見ていなかったが、さすがに労いの言葉の一つもかけてもらいたいものだ。アリー様に背を向けてノア様の部屋へ向かおうとすると。




「ああ、兄上ならご不在でな。代わりに伝言を預かっている」




 嫌な予感がする。気のせいだろうか。





「今度はコックロックの魔術大会で優勝してくるようにとのことだ。私も協力するから頑張ろうな、フィー」






 第一王子からの御命令がそう簡単に終わるはずもなく。







 しばらくは何らかの大会に出て必死に結果をもぎ取ってくる日々が続いた。






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