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12.第三王子



「気分が優れないそうですが」

「ただ、入れてもらわないと俺の胃が壊れますね」



 ということで、再度ノックをする。




「第一王子の御命令で来ました」

「だ……だから、今日は、気分が」

「第一王子の御命令です」

「その、大変に悪くて」

「第一王子から必ず見舞うように申し付けられました」




 多少誇張はしたものの、間違ってはいないだろう。ドアの向こうで悲しげな呻き声が聞こえた後、観念したのかゆっくりと扉が開いた。




「…………入ってくれ」




 涼やかな声の持ち主こと第三王子は母親似。つまり、第一王子が幼くなったような容姿をしていた。常に全てが整っている第一王子とは違い、髪も適当に櫛で漉いただけ、着る物も庶民とあまり変わりのないようなもの。



 にも関わらず、その容姿だけで明らかに他と違う雰囲気を放っている。薄幸の美少年といった雰囲気は第一王子とは違う層から人気がありそうだ。病気であろうと前に出るだけで国民の支持も一定程度は得られるだろう。第一王子が早く引き摺り出せと言う訳だ。




「失礼致します」




 言って部屋に入れば、これまた印象が違った。一言で言ってしまえば、




 汚い。




 埃やゴミによる汚さではなく、とにかく物が多すぎる。床から天井まで積まれた魔導書に魔力水でも入っているのか色の違う液体の入った瓶が棚一杯に収められている。何かを書き殴ったような紙もあちこちに散らばり、足の踏み場もない。




「早く閉めてくれ……。人に見られたくない」




 開いていた入り口の扉を閉め、第三王子が本を退けて探し出した椅子にリアンを座らせる。俺の分は丁重にお断りして、第三王子がベッドに腰をかけたところで口を開いた。




「兄上に言われた……ということは、事情は分かっているんだろう?」

「ええ」




 涼やかな声にこちらも涼しい顔で嘘をついてみる。とりあえずは病気療養中が出まかせであることは理解できた。詳細については、第三王子の言葉を待つことにする。




「兄上が正しいことくらい、私も分かっている。分かってはいるんだが……」




 忸怩たる思いがあるらしい。どんどんと話してもらって構わないのだが、少し黙ってしまったので、切り口を変えてみる。




「ヨゼフィーナ・ヤホドヴァー」




 先程見た中で、読み込まれていそうな本の著者名だ。



「良い研究家ですね。清掃魔法の枠組みに攻撃魔法を取り入れる研究は非常に興味深かったです」

「……知っているのか?」



 食いついた。




「ええ。幼い頃、彼女の出身国を訪れた際にいくつか拝見しました。水を汲む際にどの程度の風魔法なら井戸が壊れないか、なんてことで三冊も執筆できるのは彼女くらいかと」

「じゃ、じゃあ、その井戸も見たのか?」

「はい、彼女が実験のために幾度も壊したものが残されていました」




 守備は上々だ。知識は得ておくものだ。




「マルクス・ヒルデベルトも知っているか? あの軟体魔法の」

「あれは傑作でしたね。特に果実酒の下りが」

「そう! そうなんだよ! ディーデリックに否定されたけど、すぐに解析して新しい魔術理論を打ち出して!」

「素晴らしかったですね」

「魔術係数を三とした場合にのみ起こる組成式も見事だったし、それをあの程度のことに使うのが余計に功績にとらわれない彼らしさだと思うんだ。それから彼の弟子達が組み上げた椅子の魔術式もまた面白いものでーー」




 正直、途中から分からなくなっていたが、素知らぬ顔で知っている体を装い相槌を打つ。なるほど、部屋の感じから予想はしていたが、かなり魔術研究に傾倒しているようだ。よく分からない話をリアンもにこにこしながら聴いている。




「すまない。ここまで話ができる者は貴重で……。つまらなかったな」




 興奮しながら話倒した後、頬を赤らめながら第三王子が謝罪した。第一王子にない人間性に少し感動したくなる。




「いえ、大変興味深いお話でした」

「私は不得手で難しい部分もありましたが、アルフレッド様が楽しそうに話されていたので嬉しかったです」

「アリーでいいよ」




 俺とリアンの言葉に胸を撫で下ろしたのか、第三王子ことアルフレッド様は愛称での呼称を許可する程度には、心を開いてくれたようだ。



「城では年の近い者と触れ合う機会はなかなかあるものではないし、こんな話を聞いてくれる者がいるとは思わなかったから……」



 言って、第三王子も気付いたようだった。




「失礼した。話に夢中で名前を聞いていなかったな。ええと……すでに知っているかもしれないが、礼儀として私から名乗らせてくれ」




 丁寧に王族の礼をし、名を告げる。




「アルフレッド・ホーカン・グランフェルトだ。アリーと呼んでくれ」




 俺達のことを着ている物から貴族の子か何かだと判断したらしい。確かに、リアンも俺もそれはそれは立派な服を着ている。リアンは王妃のお下がり、俺はかの第一王子のお下がりなのだから。




「こちらこそ礼儀を知らず申し訳ありません。この度、第一王子配下の聖女近衛騎士となりました。家名はありません。フィーとお呼びください」




 こちらは最敬礼で応える。途中、聖女の名を聞いて第三王子の顔色が変わる。




「御挨拶が大変遅くなり申し訳ありません。急死した叔母に代わり聖女となりました。リアン・ペリアーナです」




 その言葉を聞いて、いよいよ慌てだした。




「き、君……いや! 貴女が、聖女様!? 僕より小さいのに……じゃなくて! これは、違っ、違うから!」




 第三王子は、一人称も安定しない中、急いで落ちている紙を掻き集める。話を聞きながら、あちらこちらに落ちているそれにも目を通してはいたが。




 聖女研究信奉者。




 反聖女の真逆に位置する、聖女を唯一神のように崇めつつ、聖女の力を研究することに命を賭けているような連中のことだ。信仰を捧げるだけならまだしも、実験動物のように扱いたがる人間もいるのが玉に瑕である。





 そして、第三王子が慌てて隠した紙に記されていたものは。






 前聖女。ヘレン・セーデルクヴィストの力を魔術解析しようとしていたものだった。







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