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深淵のかなたへ

漆黒の闇、いっぺんの曇りももない深い空間を巨大な物体が飛翔している。

永い時を経て、速度は光速の90%にまで達しているが、

母なる宇宙の前ではチリも同然で、止まっているのか動いているのかすら

見て取ることはできない。(仮にみているものがいるとすれば、だが)


物体の大きさは1辺が約5,000mにわたる。

構造は極めて単純だ。

巨大な立方体のなかに、比重がほぼ水とおなじ液体が満たされている。

さらにその中に、約50cmの球体が無数に浮かんでおり、この巨大な水槽を満たしている。


立方体がもし金属でなく、ガラスであったら、

球体が、時にはバラバラにときには群体を形成し、

さながら水族館のイワシの群れのように

絶えずその配置を変え、動き続けているのがみえただろう。


インキュベーター

この物体が建造されたときに付けられた名前だ。

その名を知るものはもう誰もいない。

物体を建造した人類は、もはやこの世に存在しない。

厳密には、我々が知っているいかなる形でも存在しない。

静かに永い時間をかけて宇宙空有間を旅をしてきたインキュベーター。


はるか彼方、奇跡に近い確率でこの永遠の虚無の空間に

たまたま生まれた生命の炎が、すでになく、

いつ、消えたのかなど些末なことのように思える。

たとえそれが、彼の産みの親だったとしても


いま、インキュベーターはゆっくり、ゆっくりとその速度を落としていた。

立方体の表面に敷き詰められた膨大な量のスラスターが音もなく噴射し、

漆黒の闇と、自分自身をわずかに照らしている。


ゆっくり、ゆっくりと、、、

やがて、周り、といっても数光年は離れた場所をめぐるチリやガスと

相対速度がほぼゼロになった。

すなわち、かつて旅立った故郷の地球とも、無限の距離をおいて相対速度がほぼゼロとなった。


そして、巨大な水槽の面に組み込まれた通信装置が活動をはじめた。

電力が流れ始めた無数の配線から、ごくわずかに、規則的にコイルが鳴く音をしはじめた

(仮に聞いているものがいるとすれば、だが)



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