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私に纏わる怪異鬼縫  作者: 三人天人
上京
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絹居さんのお家 2

「すまなかったなぁ依子さん。私としては忘れられる程に遠縁だとはいえね、困り果てた末に頼ってきた親戚を無碍に追い返したくなかったし、経済的にも全く無理はないんだからすんなり受け入れればいいと親父にも掛け合ったんだが。あの親父はなにかと格式とか体裁を気にするもんでなぁ。」

 とまた頭を掻いた。

 私としては結果的に日本有数の名門校に入れたのは三割良し、中学最後の一年が勉強でつぶれた事に対する恨めしさ三割悪し、いざ入ったところで勉強についていけるか不安で三割悪し、お父さんが気兼ねなく仕事ができるの一割良しで差し引き二割辛いとはいえ、絹居の方でも厳しい条件を提示している分の補填だったのか、通信教育用の資材を送ってくれたり受験書類の手配をしてくれたり受験前後三日分の宿泊費用を持ってくれたりと手を尽くしてくれて、色々と便宜してくれたことも合わせて本当に感謝している。

 おかげで無事合格を果たすことができ、父の憂いを払うことができた。地元中学では「このクソ田舎からあの日苑学院へ進学者現る!」と半ばお祭り状態になり、学校には垂れ幕が飾られ、地方紙に掲載され、近所のスーパーでは「依子値引き」なるなんの益体も無いセールが行われて一週間ほど引き籠った。

 しかし、この機会が無ければ東京に出るなんて、恐らくは無かったと思うととてもありがたい話だった。

 お父さんは反対するかもしれないけど、私はあのまま地元に残って地元で就職して、ずっとお父さんと暮らすつもりだったのだから。

 だから、今となっては有り得なかった可能性を与えてくれたものと思って心から感謝しているし、それを伝える事にいささかの躊躇もなかった。

「君が納得してくれているならこちらとしても助かる。なに、これからは親戚、家族としてやっていくんだ。気兼ねせずになんでも言ってくれ。今日からここは君の家なんだから」

 一房さんはそう言って朗らかに笑って見せた。


 しばしの談笑の後、私が持ってきた地元土産の饅頭を食べてもらっている最中に、これまでほとんど口を開かなかった少女がふと時計を見やってから告げた。

「お父様。そろそろ」

「ん?おお、もうこんな時間か。すまないね、つい楽しくて時間を忘れていたが、これから仕事でな」

 いやいやまったく、と一房さんはゆっくり立ち上がる。

 やはり忙しい身なのだろうに、たぶん、私の緊張をほぐすためにこうしておしゃべりに付き合ってくれていたのだ。慌てて立ち上がって一礼した。

「すみませんでした!気が付かなくて!」

「いやいいんだよ、最近コレがまともに口を聞いてくれなくて寂しくてねぇ」

 と脇に控える少女を見やる目もまた優しいもので。

「じゃ、あとは綾子が案内してくれるから、とりあえず部屋でゆっくりするといい」

 そう言うと饅頭ごちそうさん、ともう一つ口に放り込んで一房さんは部屋を出ていく。

 見送ろうとしたが手で制されてしまった。

 そして、絶世の美少女と凡百の私が取り残された。

 その美少女はというと、残っていたお茶を飲み終えると鈴を鳴らして女中さんらしき人を呼びつけて手短に片付けを命じると

「では部屋へ案内します」

 そう言ってゆっくりと歩き出した。

 私は片付けをする女中さんに一礼してあの後を追った。

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