雷雲は窮を告げる 3.5
残りの支度を伊藤さん達にお願いして台所を後にした私は、割烹着もそのままに一路納戸へと足を向けていた。
お夕飯なでは、姉さんの帰ってくるまでは部屋に居ようと思っていたのに、なぜか収まらない胸のざわめきに負けて足早に納戸へと駆け込む。
姉さんの作業机・・・・異常なし。私の机も同様で、今日の仕置き服の整備にも抜かりはないはず。
仮に刑の執行に抵抗した罪人が暴れようとも、あの状態であの姉さんをどうこうできるとは思えないし、私の関わった準備にもミスは無い。はずだ。
だというのに先ほどから胸の裏、喉の奥を掻きむしるように走るむず痒さ、焦燥感、というものなのだろうか。この行き場の無い不安は何が原因なのか。
壁の時計に目をやれば、時刻はまだ十八時を回ったところ。姉さんはとうに現地入りして、そろそろ沙汰の準備をしているところだろうか。
ふーと溜め息を溢して座布団に座り込む。
胸をほとほとはたいてみるも、どうしても落ち着かない。
御勤めの事ではないとするなら、やはり依子さんの事だろうか。
さっきは取り乱してしまって、恥ずかしい姿を見せちゃった。
嫌だな、変な子だと思われなければいいけど。
そこまで考えてぶんぶんと頭を振る。
そうじゃない、依子さんと姉さんの事だ。
聞く限り、昼間の姉さんの対応は依子さんに対して誠実さを欠いていたと私は思うのだ。
これでもし依子さんがこの家を出てしまったら、纏異がどうとか以前に心配で、嫌われてしまったらどうしようと。
さっきの依子さんはああ言っていたけど、姉さんがいつまでも素直にならないなら今度こそ。
どうして姉さんはお勤めには熱心で一生懸命なのに、人の心というか、もうちょっと思いやりを見せてくれないのかな。私や全市さんにはそんなこと無いのに、家の外の人となるとすぐ硬くなるんだもの。本当に素直じゃないっていうか、いっそ私より恥ずかしがり屋だと思う。
ぶつくさと文句をつぶやく私も大概だけれど。
とにかく、従姉の仕事には心配はないはず。
私のこの不安はもっと別の要因に違いない。やっぱり帰ってきてからの姉さんと依子さんの会談が気がかりなのだろうか。どっちにしろ今度は私も同席するべきかもしれない。
と、胸にわだかまる不明なざわつきをそう決めつけて切り捨てようとしていた矢先、納戸に備え付けられた連絡用の回線が突然鳴り響く。
あまりのタイミングに心臓がキュっとなりました。
慌てて回線を開いて出てみれば、それは姉さんに附いて刑場に向かった「織り」の人で、全回線に向けて鬼気迫る大声が送られる。
「当主負傷!当主負傷!現在交戦中!増援求む!繰り返す!当主負傷」
体中の血が無くなるのではないかと思う程の勢いで、顔から手から腹から背から足からと、血の気が引いていくのを感じて




