上京 3
つっかえながら抜けるとすぐ後ろで扉を閉める音がする。
どうぞ、と涼やかな低い声で案内されるが、眼前の豪邸の威容に圧倒され言葉が出ない。
まず庭が、所謂日本庭園が!
白と灰色の細かな砂利が敷き詰めらていて、アレは松なのか、やはりというか、テレビの中でしか見たことの無い光景が広がっていて、何処となく中学の修学旅行で行った京都を彷彿とした。
美少女が先を行く道は両脇が大きめの石に囲われて真っ直ぐになだらかな舗装がされている。
先ほどまでアスファルトの上で元気に飛び跳ねていたキャリーバッグは嘘のようにおとなしく、スルスルと音も立てずに転がっている。お前も委縮しているのか。
後を追いながらだらしなく口が開いている事に気づいて背筋を伸ばす。
無理だ。絶対に慣れるわけがない。
20mほどで玄関と思しき扉の前に着く。
これまた立派な門構えで、外の門よりも豪華に見える。その引き戸を開けて先に草履を脱ぎ始める美少女に倣って玄関に入るが、まるで旅館の入り口のような様相をしていてどうしたらいいかわからない。
すると美少女がすぐ脇に据えられた棚から鈴を取ってチリーンチリーンと鳴らす。
それから間もなく小柄な男性が「ハイハイハイッ」と小走りで現れた。
「平松さん、こちらが今日からこちらでお住まいになる的井さんです。
お荷物をお部屋までお持ちになってください」
と、現れた男性に告げ「靴も脱いでそのままで結構です」とそっと言うと玄関を上がる。
私も平松という男性に荷物を渡して会釈しながら美少女の後を追った。
うぅ、そういえばまだ名前も聞いてない。
後を追う私に構わずさっさと歩いて行ってしまう名も知らぬ少女に慌ててついていく。