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私に纏わる怪異鬼縫  作者: 三人天人
懊悩
30/71

幕間 納戸

 襷を結んで袖をまとめていると赤谷が組からの連絡を受けた事を知らせてきた。

「現在、丑鬼組のモノが追跡中の対象は、御徒町方面に逃亡したところを付近に伏せさせておられた「紡ぎ」らによって追い込み中。新御徒町方面へ逃走経路を変えて尚も逃走中とのことでございます。浅草方面から丑鬼組の別動隊が既に出動しておりますので、予定通りの地点で合流できるかと。ご支度はよろしいでしょうか」

「承知しました。続報があれば逐一報告の程、よしなに」

 そう告げて壁に掛けられた桐箱を背負う。私の背丈にも近しいほどのコレの重さにも慣れたもので、今は羽より軽いとさえ思う。肩へかかる重みに、かつて持ち上げる事も出来ず泣き出してしまった自分をなぜか思い出す。

 一度、頭を振って嫌な思い出をさっと消し飛ばして納戸を出るとすぐに玄関へ向かう。

 予定通りであれば目的地まで五分とかからない。

 仕置き自体はもっと短いかもしれない。

 ともかく、手早く効率よく、無駄も駄目もなく終わらせる。

 玄関で用意された草履を足首までしっかと縛って調子を整えて、鴨居をくぐる。

「当主、出陣!」

 赤谷が告げると、玄関までの道を提灯で照らす二十人ばかりの列が一様にさっと頭を垂れた。

 門を抜けて用意された車に乗り込み現場へ向かう。

「急ぐ必要はありません。静かに、目立たずにお願いします」

 軽く会釈して応じる運転手から目を逸らして窓の外へ視線をやる。

 車窓からほんの2mもしない距離に建物が犇めき合い、視線を上げても容易に空は見えない。

 二十万人が住む町であり、街灯が5m置きに立ち並び星の瞬きも届かない程の光で満たされた街でありながらも、狭く起伏の無い土地にこうも密に建物が並び立つようでは却って先行きの見通しも悪くなるというものだ。

 胸の奥から冷えた澱みが微かに滲みだすのを無視して瞼を落として仕置きの手筈を確認する作業に没頭する。

 夜が深まりつつある街角へと進んでいく。


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