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私に纏わる怪異鬼縫  作者: 三人天人
懊悩
26/71

特に減らぬ懊悩

「あら、依子ちゃんどうしたのよ、お昼だからって八重ちゃんに呼びに行ってもらったらお部屋にいないっていうし」

「いやぁ、広いお屋敷だったのでちょっと散策しようとしてたら迷っちゃいまして」

 はははと自分でも胡散臭いと思う渇いた笑いでごまかしながら、恵子さんが温めてくれたお昼ご飯に手を付ける。時間は既に十四時に近く、二時間以上もあの蔵で話し込んでいた事にはちょっとだけ驚いた。

 何せ情報量が多い。その情報の内容もまた特濃で、正直受け止めきれるものでもないし、結局判然としないまま中断してしまった部分も多い。

 目下最大の謎にして、触れてよいものかと喉元に引っかかり続けている事が一つ。

 言うまでもなく「キヌイ」についてである。

 なんだかガエンさんやシラサメさんの話を聞く限りでは、この家はかなり古くから漫画のような妖怪退治や悪霊払いみたいな事をしてきたみたいじゃないか。そりゃあ江戸時代からある古いお店が原点なわけで、どこか納得してしまうような風格をしているけれど、そんな事って本当にあるものなのだろうか。

 いや、本をただすのであれば私の霊感体質だって漫画の世界のような話なのであって、道で緑色をした細長い大男が道行く人の脳天を一人一人じっと見つめていたり、電柱と塀の隙間に挟まってニコニコ笑ってるお婆さんがいたりなんていう体験自体がそうでない人にとっては異次元の話しで、まして着物が喋っただのその着物はかつて封印された妖怪でしたなんてよくある漫画の設定みたいだ。そうでなければ出来の悪いライトノベルだろう。

 ・・・・・・・・妖とは、人や犬猫とは違う体系の生き物って事だよね。

 今日色々と教えてくれたガエンさんやヒヨドリさん、シラサメさんのような話が分かりそうな妖でも退治してしまうのだろうか。いや、あのマツワリとかいう煩いのは仕方ないかもしれない、どう良く見てもヤンキーだもん、妖怪として暴れていた頃はさぞ残虐な妖だったのだろうと容易に想像できる。タケマルさんといったかな、あの人は調子がよさそうな事以外はよく分からなかった。

 ・・・・・・・・いやそうではなくて、本当に話の分かる妖ならどうして封印されたのかな、わざわざ着物にして蔵に押し込んでおくのは何故だろう。漫画なら完全に殺せないからとかが有力だけど。どちらにせよ、悪い事をしたという事なんだろうか。

 もし親切な妖怪や幽霊がいるとしても退治しちゃうのかな。

 でも、私だって散々迷惑して来たし、改めて何が危険なのか分かったし。

「う~~~~~む」

 纏異、というのも私に直結した問題だ。あの着物達を着て戦う、と言っていたか。

 もう本当に漫画だ。全然実感が無いし、そうなったらお化けたちと戦うって事で、そういうのは本当に御免被りたい。怖い。

 それに、もしそれを知っていて絹居の人たちが私を招いたとしたら、途絶えていた戦闘要員の補充の為に私を招いたというのでしょうか。一房さんがそういうつもりで?

 考えたくないものだ。

 私を迎えてくれたのは、そういう打算有っての事なのだろうか。

 まだ何がなんだか全然わからないし、着物さんたちの言う事を頭から信用していい物とも決まったわけでもないけど。

 なぜ、わざわざこちらの良い学校まで受験させてまで招いたのか。

 私は父の為にここに来ました。

 絹居さんは、なぜ私をここに招いたの?

 どこからが偶然で、どこからが、誰の思惑なの?

 私の人生史上、いや、これ以降にもこんなに私という存在について疑問を持ったり、周囲の人を疑ってしまう事が起こりうるものだろうか。なんというか、私の存在に関わる。私は何故ここにいるのだろうなんて詮無き事を取り留めもなく考えてしまう。

 そんな私の目の前に突然ひらひらと何かが何度も横切った。

「うっぉわぁ!?」

 椅子をガタンと鳴らしながら飛び上がった私の横には割烹着を取った恵子さんが目を見開いて驚いた顔をしている。

「依子ちゃんどうした?食べ始めたと思ったらお箸咥えてぼーっとし始めたもんだから、行儀が悪いぃ!と叱りに来てみたけど全然気づいてないし、美味しくなかった?」

 どうやら考え事に没頭しすぎて呆然としている私を心配して目の前で手を振ってくれたらしい。美味しくないですって?!とんでもない!

「いえそんな!美味しいですよ!このキャベツと桜海老と筍の炒め物なんて最高ですよ!」

 私は慌てて取り繕うと目の前に有った小皿に盛られた緑と紅色が美しい主菜を食べてみせる。

「そう?良い春キャベツが入ったからねえ、今夜もキャベツ使うから期待しててね」

 そう言って人差し指を立ててウィンクする恵子さんは、予想される実年齢よりずっと若く見える。その綺麗な顔を少し曇らせて溜息をつくと

「依子さん?あなたはこの絹居に家族として迎えられたんですよ?あなただって、お義父様が突き付けた条件をちゃーんとクリアして来たんですから、胸を張って頂戴」

 そう言ってくれた。励ましてくれたのか、私がこの家に馴染めなくて落ち込んでいると思わせてしまったらしい。「お皿は食べ終わったら置いといて」と言うと台所に引っ込んでしまった。

 ・・・・・・・・この家の人の思惑は分からないけれど、今の言葉は信じることにしよう・・・・・・・・

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