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私に纏わる怪異鬼縫  作者: 三人天人
懊悩
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懊悩を解く応答 2

「えぇと、まずじゃあ、あなたたちは別に悪い者ではないんですか?」

「あぁ?!なんでテメェの一存で良いだの悪ぃだの決めらんなきゃいけねぇんだタコ!」

「マツワリは当分黙ってておくんなまシ」

 横でギャリギャリ口喧嘩が始まったのを無視してガエンと呼ばれた行李が答える。

「悪い者、か。その回答を正確にするのは難しい。が、うぬが望むのは「自分や自分の身近な人間に危害を加えるつもりがあるのか」、そういう話であろう」

 うんうんと頷く私をどう確認したのか、ガエンは「それなら不可能じゃ。心配する事はない」

 とゆっくりと答えた。

「というのも、儂らは過去、人間に厄災を振りまいたモノがほとんどじゃ。そして此処に斯様な形で鎮められておるのもまた、人の手に依る処じゃ。もし、儂らがうぬらに格別の悪心を孕んでおったとしても、最早儂らには伸ばす手も臨む足も在りはしないのだ」

「えぇっと、つまりなんかこう、封印されているってことですか?」

 頷くような低い唸り声がやや満足気に聞こえる。

「確かめた方が早かろう、もそっと寄って行李を開けてご覧なさい」

「いきなり飛び出してきたりしませんか?」

「うぬが端から信用せぬというなら、この話自体が無為な物よ。案ずるでない何もせぬ」

 若干の尻込みは有るものの、言われるまま声のする行李に近づく。

 ゴキブリを包んだティッシュを火鋏で取る時の心地で、顔をできるだけ遠ざけながら行李の角をそっと持って徐々に持ち上げると、微かな抵抗の後にスルリと蓋が取れる。

 隙間から中を覘くと、和紙のようなやや黄ばみ気味の紙が見え、何かを包んでいるようだった。埃が舞わないように蓋をそっと脇に避けると、指先で和紙を摘まんでそーっと捲る。

「・・・・ふわぁキレー・・・・・・・・」

 その下には焦茶色の布が見える。一体どんな素材を使っているのか、クレヨンか油絵具で塗ったように深く濃い色味が、隙間から入り込む陽光を全て飲み込んでほとんど照り返えさずにしっとりとした表面を覗かせている。見る角度によってはキラリと反射して、罅割れて捲れ上がった大木の肌のような阿弥陀模様が深い緑色、玉虫色に浮かび上がって走る。

「之が儂じゃ」

「・・・・え?コレ?」

 声は先ほどまでの行李越しに聞こえるくぐもった声と違い、より鮮明に聞こえる。

 まさに目の前で会話している、そういう距離感と生っぽさであった。

「この通り、儂らは皆一様に。人の纏う着物として今の形を得ておる。故に手足が無く、多少身を捩るくらいはできるが喃。儂はそこの元気な連中ほど飛んだり跳ねたりは利かんわい」

「ミンナで妖気を合わせれば昨夜やさっきみたいに戸を動かしたり抑えたりくらいならこのままでもできない事ないけどネ。逆ニ言えばその程度ヨ」

「すると、あれですか?こちらの皆さん、全員お着物なんですか?」

「そういうことじゃ。今はまずそれでよい、蓋をしてくれるか喃」

 促されてささっと蓋を元に戻す。

「あの、なんで、というか誰にこういう状態にされてこうなってるんです?」

「それを語るとなると、うぬの暮らしに関わる。一旦他の疑義を解いてからが良かろう」

 再びくぐもった声でそう言うものの、いや却ってきになりますけれど。

 正座し直して次の質問に移る。

「えっと、みなさんが無害なのは分かりました。それで、答えていただけるなら、皆さんが何者なのかも聞いていいですか?」

 これは好奇心からでもある。一番の意図としてはどんなお化けなのかを確認するだけでも安心感が違うからというものがある。同じ蛇がいるとしても、それがアオダイショウなのかマムシなのか判れば居心地も違うし、そもそも封印されるような連中なのだから、その前科が分かればその脅威度も計れるというものだろう。

「それについて語るには、うむ。うぬの認識から改めてもらわねばならぬ故、根の方から語らざるを得まいな」

「あぁ!樹だけに?うまかー!ガエンの叔父貴うまかー!」

 何が面白いのか、ゲラゲラとちゃちゃを入れる声を無視ししてガエンは続ける。

「その為に、まずうぬの知見を聞きたい。うぬは、儂らがなんだと思っておる」

 突然の問いかけに一瞬戸惑うモノの

「おばけだと思ってます」

 と答えた。

 満足いく回答だったのか不満だったのか、大木の軋むような唸り声をあげてからガエンが言うには「当たらずとも遠からず、金塊や宝石を指して「銭」と言うのもまた正解という範囲での漠然とした認識ではあるが喃」とのことである。

 その声に先程まで喧嘩をしていた女性の声、ヒヨドリと名乗った声が続ける。

「アンタにしてみれば此れまで遭ってきた連中とそう変わらないかもしれないけれどネ、アタクシらはその辺でうろついてる亡者や木端妖怪とはまた違うのサ」

「うむ、まず妖と人について語らねばなるまいな」

 ギギギと呼応したガエンが、またゆっくりと語りだした。

「まず、世には古来より畜生と妖がおったのじゃ。伊弉諾と伊弉冊の国産みに事を発し、我が国の礎が設えられた時分には既に犬も鳥も魚も人も妖も、徐に徐に芽生えつつあったという。うぬの言うところの「お化け」とは、儂らが大別する処の“妖”と呼ばれるモノ達の事じゃ」

 イザナミとイザナギと来ましたか。

 それは流石に知っている。自国の神話、国の成り立ちのおとぎ話くらいは分かるけれど、所詮おとぎ話のはずの国産み神話がこの荒唐無稽な話の切り口となるとどこまで虚構でどこまで真実なのか分からなくってくる。

「儂ら妖は、うぬらと同じく種があり、血の流れる生き物ではあるが、その在り方は畜生とは大きく異なっておる。というのも、うぬらのように子を成して後の代に次ぐという心算が薄く、中には血肉を喰らう事欲さずとも生き永らえておるモノも沢山居るのじゃ。そしてうぬらとは比べ物にならぬ程の膂力と、不可思議を起こす妖術を操るモノ達なのじゃ。」

「じゃあ、皆さんもアヤカシってやつで、私が普段見てるのも、つまるところ妖怪とかそういうものなんですか?」

「多くはそうではなかろうな、うぬが日頃出遭う「お化け」の類は儂ら程明瞭なモノ共ではないだろう。それらは霊の類であって、奴儕めには最早意志と呼べるものが残っておらぬ者も多い。ただそこに迷い出でたか、地に縛られたか、起こりは様々あるが、畜生の霊魂が土草に還らず彷徨いうろつく事は、儘ある事なのじゃ」

「はぁー、ああいうお化けたちと皆さんだと全然違うモノなんですね」

 只噛み砕く為にオウム返しに独りごつ私の前にドカンと音を立てて行李が聳え「あんな白痴どもと一緒にしてんジャねぇぞボケがぁぁ!」また大いに怒鳴られた。

「アイツらはおめおめおっ死んだだけでも情けねぇってのに迷わず根の国にもイかねぇでマゴついてるノロマの間抜け共じゃねぇか、あんなブッたるんだ脳天アヤフヤで元の形も忘れてボケちまってる連中とオレたち妖を一緒にすんじゃねぇよアホが!」

 雷鳴のような大声にもだいぶ慣れてきた。どうもこのヒトは罵声を挟まないと言語構築できない能力と頭を瞬間沸騰させる能力を持ったアヤカシらしい。アヤカシ、妖かぁ。愛想笑いを浮かべてごまかす私に再びガエンが語りかける。

「妖と分別できるモノたちにも色々とおる。血肉を一切欲さず、山の気や人の気を食って暮らすモノもいれば、鬼や人虎らのように血肉を喰らいながら気力も吸うモノ、只一個で存え続けるモノ、畜生と同じく子を成して種として連綿と続き繁茂するモノなど様々よ。そして霊というのは儂ら妖も含めてこの世に住まうモノが死ぬときに、その身から抜け出るモノがそのまま残ったモノじゃ。奴儕めには生前ほども智慧も記憶も残ってはおらぬ。その中でも強く残った意志だけが一層際立って表に出る故、儂らにとっても理外の動きをする。それが怨み嫉みに由来するのなら、妖にとっても畜生にとっても良きモノであろうはずもない」

 ギギギと唸るガエンの声色は、立ってる行李のそれと違って侮蔑よりも悼みの色が濃い。

 普段私が見かけるようなおっかないお化けも、在り方としては哀れなモノなのかもしれない。

「本来、斯様な連中が跋扈するのを良しとせぬ畜生が行っているのが葬式や鎮魂の儀じゃ。霊を根の国に正しく送り、土草に緩やかに安らかに還る事を促すものじゃ。その死が安らかであればあるほど、畜生の御魂も妖の御魂も速やかに根の国へ誘われる」

「じゃあ、お葬式してもらえなかったり、亡くなってもその、ネノ国でしたっけ、そういうところに行けない人の魂とか霊っていうのが残っちゃってるのがお化けなわけですか」

「概ねそれでよい。うぬはその奇異なタチ故に儂らやアレらとの縁も深い。いずれ、知っておいた方が為になろう」

 なぁるほどなぁと、これまでに見てきた恐ろしげなお化けたちに思いを馳せれば、話が通じるにせよ通じないにせよ、みんな本当なら静かに眠れるはずだったのにそうならなかった人たちだったのだと、少しだけ寂しい気持ちになる。孤独死とか、自殺とか、殺人とか、そういう亡くなり方が哀しいと思う以上に、言いようも無くやるせない気持ちになる理由の断片が少しだけ理解できた気がする。

「かといって、そう相成った連中を憐れむのは構わんが救おうなどと考えるでないぞ、あれらは喃、只そこに在るだけでも害を成すのじゃ」

「ただ脅かしたりするだけじゃなくて齧ってくるようなヤツもいましたね」

「そういうことではない、確かにお主の言うようなモノ、恐らくは力の弱い妖もお主が出遭った中には混じっていた事じゃろう。儂が言うとるのはそういうことではない」

「あ、すいません、なんか他にあるんですか?」

 どうも見当違いな事を言ってしまったらしく、早とちりを詫びる。「まぁそれはそれで実害には違いないけどねェ」とコロコロした女性の声が続けた。

「幽霊って言われる連中はネ?只居るだけで迷惑なのよ、基本的にネ」

「いるだけでですか、中には話が通じるのもいるじゃないですか」

「んー、そういう問題とはまた別ナノよねェ。アンタもマトイ、見鬼なら経験あるでしょ、幽霊がいるってわかった時、ゾッとして体が冷えたリ凄く疲れたリしない?」

 そりゃあもう。背筋に氷を突っ込まれたように体がビャッてなりますし、気づいてるとバレるとずっと着いてこられたりするから必死で無視するもんだから緊張して疲れるし、話が通じるタイプでも何か間違えば襲われるかもしれないから結局気疲れするもので。

「あーそりゃなぁ、単に気疲れってもんやけやなかばい。おんしの生気ばちょっとずつ吸い取られとっちゃんな」

 と、また訛りのキツイ男性の声が割り込んでくる。

「嶽丸は訛りがキツイんでアタクシが代わりに」

 訝しむ気持ちが顔に出ていたらしく、ヒヨドリと名乗っていた声が代弁してくれた。

「要するに幽霊って連中はネ、いるだけで周りから生気とか熱とかを吸い取っちゃうのヨ。アタシラにしてもヒトや動物にしても、体ってものが無い魂だけの状態ってのは多分そういうもんなんでしょうネ」

「堰の無い池の如く、水が高きから低きに流れるがごとくじゃ。肉の衣を持たず、儂らのように殻も無い形無きモノとなれば、皆その内側の剥き身となる。剥き身のままでは寒空に一糸纏わぬが如きこと、たちどころに熱が逃げ凍えよう。凍えた者に触れてみよ、触れた先から熱が奪われよう。しかし、生者は奪った分を内に貯める事ができようが剥き身の御魂はそれが叶わぬ。際限なく己が周囲から奪っては無方向に垂れ流す事しかできんのじゃ」

「ってことは、私がおばけ見た時とか近づかれたときにヒヤっとした感じがしたりやたらと冷や汗がダーっと噴いてくるのは」

「うむ、生気や熱を奪われておるのじゃな」

 ひぇぇ、思ったより実害あった。保健や理科の勉強で習ったけど、人間の活動には常に熱が不可欠だというじゃないか。それを一方的に奪われてしまうとしたらそりゃ具合も悪くなる。お腹が冷えれば機能不全に陥った胃腸が痛んで下痢になるし、手足が冷えて血が止まれば腐ってしまうとも教わったもので。そのうえ生気?よく分からないけれど、つまりやる気とか気力ってやつだとするなら、具合も悪いした上にどうにかする気も湧かなくなったらそれこそ、

「酷ければ死ぬ喃」

 ガエンが重々しく言った。

「無論、霊に限らぬ。妖においても人や妖からその生気妖気を取り込んで生きるモノも多い。 うぬらと同じく畜生や地の恵みを喰らって生きるモノもいるが、多くの妖は土草に満ちる気と生き物の放つ生気を啜って生きるのじゃ。もし、必要以上に啜ろうと欲するならば、ほれ、うぬが体験したように触れて、齧りついて直に飲むんが早いし喉も潤うというものであろ。畜生は恐怖や動揺によって魂が揺れる。揺れれば器から滴の溢れるが如く、只零れるのを待つよりも早く啜り上げられるものじゃ。今でも、そうして生きておるモノもおろう」

 物騒な話じゃあないか。文明の光が闇の悉くを掃ったと思われた現代においてもそんな行いが日常として起きているというのか。

「尤も、人草の暮らす街をガス灯から電灯で照らすようになった頃には、(わたくし)らのようなモノが住まう地は粛々と、縮まり続けております」

 これまで黙っていた行李から、最初に喧嘩を始めた雷さんとヒヨドリを諌めた冷たい声が響いた。

「今は、もっと、もっと少なったのでしょう。地の気を啜るモノらの暮らす山々も、随分と少なくなりつつあるのでしょうか。此処百年程はこの蔵の外を眺めておりませなんだ。人の文明の日は、もうかつて私が過ごし、討たれたあの暗く冷たい山嶺も、今ではきっと人の光に照らされているのでしょうね」

 少し悲しそうな声に、言いようも無く申し訳ない気持ちが湧きあがる。百年前と言えば1900年代という事になる。ちょうど数か月前まで机に齧り付いて参考書片手に問題集を解いていた私にとってはその年代の事件を思い出すのはたやすい。そう、日露戦争が起ったり伊藤博文が亡くなった頃だ。

 その頃を鑑みれば、現代は比較にならない程発達しているだろう。冷たい声の主が憂う以上に、そうした存在はどんどん隅に追いやられているのかもしれない。

 ところでなんと仰いました?

「あのぉ、今、えっとぉ」

「申し遅れました。私、白雨と申します。雪女にございます」

 元、ではありますが。と続ける女性の声は既に憂いに濡れている事は無く、本の冷たく涼やかな声色に戻っている。

「あ、これはご親切にどうも」

 ?いやいや、そうじゃないだろう。

「えっと、シラサメさん?今、「うたれた」と仰いましたけど」

「えぇ、私は蔵王においてキヌイに討たれ、以降、こうして鬼着としてキヌイとマトイに仕え、使われておりました」

 また知ってたり知らなかったりする単語が出てきた。まだ気になる事もあるし知りたい事ばかりが積み上がっていく。

「白雨。あまり性急に詰め込むものではあるまい」

「いえガエン様、むしろガエン様は迂遠に過ぎましょう?この子の疑問とするところだったのは、私たちが危険か否か、その点においては既にガエン様から説明は済んでおります。それに妖の事について、その在り方や生き様は実際に相対する事になる以上はキヌイに説明の責があります。当代キヌイが私らに委託した当代マトイへの教導はもっと根本的な事に在ると愚考いたします」

 白雨さんの冷ややかな声が、恐らく年長者であろうガエンにきっぱりと物言いしている。

 声の印象とこれまでの対応に反して、実はせっかちな性格なのかもしれない。

「そうでございますネェ、まぁ、とりあえずお伝えするべきは我々鬼着の事、キヌイの事は、まぁ当代からご自分でお話ししてもらうとして、マトイについてもでしょうカ?」

 それだ、まずそこを知りたい。

「あのですね、ずっとずっと気になってるんですけど、なんで私の名前知ってるんです?この家に来てから何度もご挨拶してますから盗み聞きされたのかもしれませんけど、なんかイヤに訳知りな感じじゃあないですか」

「そりゃあお前、マトイは元々こんキヌイんモンやろ。お前ん五代ば前やろか、ワシらとはそいまでずっとツルんで暴れとったやろうがい」

 またキツイ訛りの男性だ。親戚とは聞いているけど暴れてた?この着物さんたちと?

「応。ばってん、あん時を境ぇにマトイば途絶えて久しいっち聞いとったけん、まーた暴れられっどっちワシらもううれしゅうてうれしゅうて、昨夜はあげんこつになったばい。いやぁ醜態醜態!嘩嘩嘩嘩嘩!」

「・・・・すみません、全然見えてこないんですけど、私の御先祖様って一体・・・・」

 私の訝しげな表情を見取ってなのか、ギギギギと唸り声をあげていたガエンがようやく声を発した。

「うむ。うむ。良かろう。うぬはマトイ。異なるを纏うと書き、“纏異”と読む。その稀有なる一族の末裔がうぬという事じゃろう。百年前に途絶えた異能が何故今になって復古したかは儂らも与り知らぬが、キヌイが纏異を再び招いたのなら、その理由は一つしかあるまい」

「アタクシらとこうして明瞭に会話できるのがその証拠ヨ。アタクシ達“鬼着”と何の術も使わずに通じる事ができるのは纏異の血を継いでいる人間において他にはいないよヨ」

「そして、私らを纏い、私らの力を持って妖と対峙してきた者。それこそが、纏異として勇名を轟かせた退治屋にございます」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・ほう?

 的井、マトイ、纏異?確かに私の苗字は的井だけど、ルーツはそういう事なの?なんだか話が漫画じみてきたぞ。私は所謂こう、退魔!みたいな事してた家系の末裔で、この着物さんたちはその御先祖様が使ってきた伝説の武具的な?そういう解釈でよろしいのか。

 途端に現実みの無い話になって理解が進まなくなってしまった。だって私がこの家に来たのはお父さんが偶然この家との繋がりを見つけてくれたからで、それまで絹居の人と会った事も無ければ絹居の人に呼ばれたわけでもないし。そもそも絹居の人ってどういう人たちなの?白雨さんはキヌイに討たれたって言ってたし、絹居の人もそういう現代伝奇的な?そういうヤツだって言うの?日本最大の呉服屋さんが?

「・・・・如何に、平時より怪異に触れてきた身といえどそう易々と腹に落ちるわけもあるまい。どれ、話す内にもうお天道様があんなところにおる。質疑応答は一時中断じゃ。一旦戻って整理して参るが良かろう」

「え、えぇ・・・・うん。ハイ。なんか混乱してきたのでそうします」

 混乱極まる表情を隠せない私にガエンさんがそう促してくれた。正直助かる。

 昨夜よりずっと明瞭なまま、昨夜とは全く異質の混乱を抱えて、私はまたフラフラと立ち上がり、足の痺れに気付かず盛大に埃の山へ突撃をした後に無事蔵を脱した。

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