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私に纏わる怪異鬼縫  作者: 三人天人
懊悩
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幕間 某所

「状況については探りに出した者が戻り次第、追ってご報告いたします。裁決につきましてはじきお頭から直接ご連絡が行くかと存じます故、どうかご支度の程よろしくお願い致します」

「はい。ではそのように」

 定時報告を兼ねた段取りの打合せを終えて書類をまとめ始める私に、報告を終えた相手が

 そういえば、と声を上げた。

「お宅、なんでも人を増やしたそうじゃないですかい」

 世間話のつもりなのか、気楽な風情で問いかけてくるが、目を合わせてこないところを見ると、探りのつもりなのだろう。

「はぁ、昨日一人、故有って親戚を一人我が家に迎えましたが」

「ほほほほ、それは良い、我が家というのはどちらの読みでらっしゃる?」

 探り、というより確認なのだろう。

 この浅草の周辺で勘の良い者が現れたとあれば彼らが見落とすとは考えづらい。

 こちらとしては何一つ疚しいことは無いのだが、気分は悪い。

「恐らくは、こちら側に携わる事になるでしょうね」

 元からそのつもりであるのだし、本から居た者が帰ってきたにすぎないのだ。

「そうですかそうですか、それは良いことだ。ご家族が増えるというのは何にせよ嬉しいものですからねぇ、ご家業もますますご安泰で在らせられる事でございまいましょう」

 こいつが言いたいのはそういうことではないでしょう。

「まぁね、ワシらとしては一緒にやってくモノとして、お宅の力が増すのはまぁありがたいですがね、どうも町の連中が不安がってましてねぇ、戦力強化じゃないかって」

 ほらきた。

「いやいや、勿論そちらにそんな考えがあってのことだなんて言う奴はワシの方でね、滅多な事言って困らせるなと言って聞かせたんですがねぇ、お宅らが力を伸ばすと怖がる連中がいるのも確かでしてねぇ」

「お頭様もそのようにお考えで?」

 上のモノの名前を出すと顔色を変えてしきりにかぶりを振る。

「そんなバカな!お頭も喜んでますよ!鬼縫さんがますます安泰とあればワシらも安泰ですからねぇ。勿論私だってそう思ってますとも!」

 ヘヘヘと、前歯の抜けた汚い口を歪ませて気味の悪い愛想笑いを浮かべる。

「そうですか。町の皆さんにはご迷惑をおかけしないよう、くれぐれも指導いたしますので、何かございましたら遠慮なく忌憚ないご鞭撻の程をよろしくお願い致します」

 うやうやしく礼をして部屋を出る。

 外で待っていた供回りの赤谷に書類を預けて次の現場へ向かいながら、姑息な事を考えてもらわれては困るので供回りに本家へ連絡するよう伝える。

 ああいう連中が橋渡しをしていると、結局組織の母体も下部の民も苦労を強いられる。

 余計な噂を流布されぬよう、厳重に動向を探るように気を付けよう。

 内通者の件にしたって、結局あの手の胡散臭い奴が一番怪しい、なんて、言い出したらキリが無いのだから無意味なものだけれど。

 古錆びた剥き出しの配管の通る痛みの激しい通路を抜けて、ビルの裏手から外へ出る。

 出てすぐには生い茂る草や蔓がワサりとせり出してくるのを構わず進むと、萎れたそれらは肌を抜け服を通り、体に触れることなくすり抜けていく。傍の公園へ抜け出れば体に纏わりつくはずだった草木は消えて、区が指定する緑化計画に基づいて植樹された藤と躑躅の生垣の前に出た。

 赤谷が附いてくるのを確認して次の目的地へ向かう。

 結局昨夜から依子さんとは顔を合わせていない。

 ・・・・・・・・だめだ、結局のところ自分で決めてもらう以上、この話はフェアでなければならないのだから、今私から説明するのはだめだ。そう決めたじゃないか。

 だから考えるのは止めて、やるべき事に集中しよう。

「赤谷、次は岩本町で合ってますね?」

「仰る通りで。現場付近の調査と網の配置についての打ち合わせですね。全市様が既に現地で話を進めている連絡がございましたので、急ぎ向かいましょう」

「分かりました」

 春休みの内にこなせる仕事は全て片付けて、私自身も備えなければ。

 人気の無い小さな公園を抜け、人が行き交う往来へと足を進める。

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