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私に纏わる怪異鬼縫  作者: 三人天人
懊悩
22/71

懊悩が故に面倒へ

 さ、て。

 食後のゴロ寝は消化に良いそうで。一時間程ごろごろと畳に伸びて携帯で地元の友達からのメールを読んだり漫画などを漁っていたりしていたものの、ぼちぼち何かしなくては。

 とはいえ相談したい相手である綾子さんもいない事だし当面予定も無い。

 普段なら家の掃除や水仕事をしているものだけど、お手伝いさんがいるようなお家で私の手が必要な隙があるとも思えないし。昨日の今日では、春休みの暇を共に潰す友人もいなければ周辺に詳しいわけでもないので別段外に出る気にもなれない。

 正直暇を持て余している。

 今朝、一番目障りだった洋服類の片付けを一通りしてしまったので部屋も比較的片付いているし、今あるのは気がかりだけだ。

 要するに、「奥の蔵」が気になってしょうがないのだ。

 もしあの件が無ければちょっと足を延ばして浅草見物と決め込みたかったものだけど、一通り精神状態が復活した今は少しだけ興味が湧いてきてしまっている。無論、あの蔵に対してだ。

 完全に錯乱して疲労困憊だった昨夜の調子ではあの様だったが、冷静になって思い返してみれば、やはりアレらは話が通じる類のお化けだったのではないだろうかと考え至っている。

 もし、お祓いが必要になる程の危ういモノだとして、こんなに立派なお家にいる連中に限ってそう悪質なモノが集まるものなのだろうか。

「・・・・そういえば、怖かったけど別に指一本出されてないんだよなぁ」

 昨夜は騒音に苛まれこそしたが、齧られる事も無かったし、箪笥と箱が喧嘩し始めてからは何かずっと話し合いのような声がするばかりで特に何もされず、あまつさえ「もういいから帰って休め」とまで言われたのだ。

 やっぱり話が通じるタイプだったのだろうか。

 もし、悪さをしない事が分かればそれでいいし、話を着けて悪さをしない事約束してもらえるようならそれでもいい。もし邪な事を企んでいるようなら私も覚悟が付く。

 これはもう、私だけで解決していいし、私にしか解決できないだろう。

 やはり綾子さんに相談しても余計な騒ぎになるだけだ。

 別にお化けの話を聞いてあげたのだって一回二回じゃない、全部が全部止むを得ずだけど、修学旅行の宿では近所で自殺したお姉さんの話に一晩中付き合った事もあったし、林間学校で友達が連れてきちゃった山で熊に齧られて死んじゃったおじいさんの頼みでばあさんのお墓参りに行った事もある。見るからにやばい奴でなければ案外話が通じるので、無視できないときはもうやるしかないと私は思っている。

 よし、と漫画を閉じ勢いをつけて起き上がる。

 時刻はまだまだ午前中。

 この時間から悪さするようなお化けもそういないでしょう。

 実際のところは昼間にも昨日の道で出会ったようなおっかないヤツがうろついている事もままあるけれど、あれだけ話ができるお化けならたぶん大丈夫。少なくとも人間の常識が一切通じないってタイプで無さそうだったしね。

 怖くない怖くない。

 これは私にとっては勿論のこと、この家の人達にとっても良いことなのだ。

 善に因るところの行動なのだから、問題になってしまっても諦めが付くというもの。

 私は襖を開け放って日の光が燦々と降り注ぐ縁側を伝い件の渡り廊下へと向かった。

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