宵の宴 7
「少しは落ち着いたかしらネ」
あれからどのくらい経ったのだろう。
膝を抱えて蹲る内に少しずつ落ち着きを取り戻した私に、カン高い声が穏やかな調子を崩さず尚も語りかけてくるのが分かって、心が少しだけ浮上した。
ずっと、ずっと声を掛け続けてくれていたのだろう。僅かに顔を上げた私の反応に喜びの色を隠すことなく一層優しく、けたたましい声が私に言う。
「ここの連中がアンタを脅かした事はアタクシが謝りますワ。イヤもうホントしょーもない連中ネェ。いずれにせよ、そんな様子じゃお話もままならないでショウ、ホントに悪かったワ。もう扉は開くから、今日は戻ってもう休みなさいナ」
箱に慰められるという状況も相変わらず不明極まるが、その箱が常識的な対応に甘える以外に今の自分を保つ手段は無いように思えた。
とりあえず、危害を加える事がないというならそれでいい。
とにかく早く楽になりたかった。
フラフラと幽鬼のように立ち上がると戸に手をかける。先ほどの硬さが嘘のようにフワリと開いた戸から出て心許ない足取りで蔵を出ようとした。
「私はウブメのヒヨドリ、心が落ち着いたら明日にも又来なさいナ」
そんな声に応える余裕も無く。
私は戸を閉じて暗い廊下へと足を進めていた。




