宵の宴 6
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「おい、どうすんだよこいつ」
久々の人の訪れに沸き立つ蔵に中で、一つだけ屹立した行李から呆れ果てた声が一つ。
蔵の入り口に身を守るように小さく座り込んだまま俯く少女は恐怖と困惑の入り混じった表情でぼんやりと床に視線を泳がせるのみであり、一目で神経衰弱に陥っているのが分かる。
「アノネェ、何が悪いってそこらの半端連中がやいのやいのがなり立てたからでショウ?いやアタクシも気持ちは分かるけれどネ。もうちょっと手心ってものがあるでショウに。ま、トドメはマツワリで間違いないでありまショ」
屹立する行李の隣の行李がカタカタと言葉を発すると、立っている方、松割と呼ばれた行李がガッタンガッタンと左右に揺れて抗議する。
「ンだコラヒヨドリ!なんでオレがわりぃことになってんだオイ手前ェはさっきからピヨピヨと分かったような口ばっかりキキゃがってからにオラァ!!」
「埃が舞うでありマショ!そのガタガタいうのやめなさいな!」
ガッタンカタカタガッタンカタカタと箱同士が口げんかをする傍らで、また別の行李が声を上げる。
「うぬらの喧しさは相変わらずじゃが、まぁまずは待たれよ。
今宵百年振りに纏異が此処を訪れた事は喜ばしい事じゃ」
「えぇ、私としても、あまり怖がらせて、もう二度とここに寄りつかないなどということになっては、えぇ、あまり面白いものではありませんので、少しだけお静かに。ね」
二つ、皴枯れた大木の軋みを思わせる深みを持った男性と、氷柱を弾いた時に発する静謐で冷たい音に似た女性の低い声が穏やかに周囲に語りかける。
「まずはほれ、この様子では当代纏異め、恐らく鬼縫から何も聞かされておらなんだろ。
気の毒ではある喃。纏異の才覚有りとあらば、我ら怪異との縁浅からぬというに」
「あの怯え様ときたら、クククフフ・・・・いやいや、確かニちょっと面白がってしまったところはゴザいますけれどネ?纏異ともあろう者がこのくらいで呆けになるほど取り乱すだなんて思いませんでありまショに。ホントに何も聞かされず今まで生きてきたのかしらン?」
「ケッ、どっちだっていいわ、問題はこの小娘が纏えんのか、纏えねえのかだろがよぉ」
吠え飽きたのか喧嘩相手が冷静になってしまった為か、松割という行李がドスンッと倒れて元の位置に戻る。埃が舞い上がる。
「いや 事を急くべきにあるまい
纏異 現在においてはこの娘をおいて他におらぬのは確かよ
吾等 此の者無くしてはまた雌伏に甘んじねばならぬ
故に ここは一度仕切り直すべきであろう
責は 我々に在る」
また別の行李から、欠片も感情の感じられない声がゆっくりと語る。
不満なのか、松割の行李がガッタガタと左右に揺れ、抽斗達もまた口々に溜息と呻きを漏らしている。
「ううむ。今宵は儂等も巫山戯るに過ぎた。ヒヨドリよ、悪いが世話を頼む」
「かしこまりましたン♪」
「此度はまず纏異を返す。纏異が纏異たれば鬼縫も放っておくまいて。
必ずこの蔵を再び訪れる、ないし輸されてくるであろう。
何、焦る事はあるまい。儂等は百年待ったのじゃから喃」
皺枯れた声がまとめ、この空間にあるモノ共は一応の方針を共有した。
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