宵の宴 4
予想に反して、「奥の蔵」の扉は軽く、鍵もかかっていなかった。
やはり母屋と直結しているわけだし頻繁に出入りするし、あまり貴重な物も無いのかもしれない。
蔵の扉は分厚いものの、特に抵抗を感じることなく開け放たれ、中の様子を窺い知れた。
さらに予想に反する事に、蔵の中は夜中にも関わらずはっきりとその全貌をさらしてくれている。見上げれば、向かいの壁の上、3mほどの位置に嵌め殺し窓があり、そこから月明かりが真っ直ぐに蔵の中に注いでいる。
蔵の中は、壁沿いに木製の箪笥がみっしりと並び、本来あるはずの白い壁面の全てを覆い尽くしている。その箪笥の形状やサイズからして、本当に着物の類を入れているというのがよく分かった。
ただ、少しだけ奇妙な光景でもある。
箪笥に囲まれ、月明かりが注ぐ蔵の中心には、いくつかの箱が整然と並べられている。
竹細工のような籐細工ような、奇麗な格子模様に編みこまれた白い箱が七つほど横並びになっている。月明かりがこの箱に当たり、蔵全体に反射して照らしているようだ。
綾子さんは着物を入れている。と言っていたがどうやらその通りだが、灰色の絨毯が敷かれているのかと思われた床に敷かれていたのは埃の塊であった。
宙を舞う埃は少なく、今私が蔵の戸を開けた事で舞い上がった一部の埃が注ぎ込む月明かりを纏ってチラチラと光っている。
しかしながら、箱の方はというといくらか埃を被っているようすではあるものの、この薄暗がりでもその模様が分かる程度であり、床に積もった埃に対して随分と綺麗な物のように見える。
昼間、綾子さんはここには普段取り出す事の多い物を入れていると言っていなかったか、
いや、それは私が言った事で綾子さんが言ったのは
《ええ。何がという事はありません。着物が納めてあります》
だった。見る限りここに納められているのは着物なのだろう。
こうも言っていた。
《そしてね、とても怖いモノが出るんですよ》
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まさかねぇ。
とにかく嫌な気配も無い、入っても何も起きない。
出よう。
パタム
は?と振り返ればさっきまで開いていた蔵の戸がぴっしりと閉まっていた。
慌てて扉に駆け寄ってみるも、先ほどの軽さが嘘のようにびくともしない。
「誰か!?誰かいませんか!!!!綾子さん!八重さん!誰か!」
戸を叩きながら大声を張り上げる。
外には誰もいないらしく、耳を戸に当てて澄まして何も聞こえない。
やられた、そういうやつなの?だったらもっと強めに、ここには入らないように言ってほしかった。それとも私だから閉じ込められたの?なんで!
戸を激しく叩くがびくともしない。押しても引いてもウンともスンとも言わない。
最早パニックに陥いりながら戸を力任せに引き、一心不乱叫び声を上げる。




