宵の宴 3
基本的にお化けは無視する事にしているし、自分からそういうのに首を突っ込むのは控えている。
けれど、実際「奥の蔵」からはあの時の霊園に似た静謐な空気のみが伝わってくるだけで、特別嫌な雰囲気は感じられなかった。
むしろ、ただ暗くて閉ざされているというだけで綾子さんがああいう印象を持っているとしたら、それはそれでいい話題提供になるかと思いもする。
「「奥の蔵」行ってみましたけど、全然なんともないじゃないですかぁ」
などと軽口を叩く材料になるかもしれないし、ぶっちゃけ、仮にここに本当にやばいモノがいるなら確認しておきたいという気持ちもあるにはあるのだ。
何せこれからこの家で住むのだ。昼間はむしろ目を背けたいと思って止めたけれど、実際のところゴキブリとムカデは退治するまでの間は常に視界に収まっていないと逆に怖いもので、眼を逸らしてしまえばかえって取り返しのつかないことになったりする場合もあるものでして。そう、最悪一日でこの家を出させてもらう事考えるにしたって早い方がいいかもしれない。誰だって普段寝ている布団一枚めくったらうぞうぞと蟲が蠢いていたと分かれば絶対にその布団で寝ようなどと思わないだろう。
「よし」
何がよしなのか分からないけど、確認するに越したことはない。
どうせ何も無いのだから、今の内に不明な不安を払しょくしておけば明日からはこの家でおばけに脅かされる心配はなくなると思えば安いものだ。
私は比較的軽い足取りで「奥の蔵」までの渇いた暗闇へと足を向けた。
果たして今宵、私は自分の人生の一端に触れる。