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私に纏わる怪異鬼縫  作者: 三人天人
宵の宴
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宵の宴 2.5 閑話

 二年ほど前のことだけれど、その日は町内会の納涼大会が有り、友達に誘われて一緒に遊びに行くことになったのだけれど、これが既に罠だった。

 友達の何人かは私が霊感を持っている事を知っていたので何かとからかわれたものだったが、この日、この会で肝試しがあるとは一言も聞いていなかった。

 内容としては、二人一組で山の上、結構な数と角度の石階段を上った頂上にある神社のすぐ隣にある霊園にある祠。ここへ行き、昼間にセッティング済みのお札を一枚取り、蝋燭に火をつけるというありきたりなものだった。

 「神社の近くだしお化けはでないでしょ」と嘯く悪友の首を絞めながら仕方なく参加を承諾したものの、終始生きた心地がしなかった。


 神社に辿り着くまでは長い長い石階段を登るわけですが、私はもうとにかく無心で、視界に端にチラチラと蠢く影は木々のざわめきだし、前方の大木の上から降りてくる白い手のようなモノは不届き者が捨て置いたビニール袋だし、腕に組みついた友達とは反対側から頬にかかる吐息は夏特有の生ぬるい風、と言い聞かせながら古墳から出土した埴輪のような面持ちでひたすら階段を登った。その過程で、町内会のおじさんたちが隠れ潜んで仕掛けてきた脅かしポイントの数々を全てスルーしてしまったそうで、終わってから大変空しい思いをしたと肩を落とされた。

 件の祠についた時はもう精神的にくたくたで、これから戻る事を思うと心にずっしりと暗雲が圧し掛かった、いずれ終わらせなければ帰してももらえないので仕方なしにマッチを取り出した。

 ところが、祠の脇で泣きじゃくりながらうずくまる男の子を友達が見つけた。

 この時既に頭が回る状況で無かった事もあり、パートナーに置いて行かれたのだろうと近くまで行って声をかけた。

「おーいどうした?置いてかれた?」

「ちょっとぉ怖いに決まってるじゃん、誰よ置いてったの、かわいそうに」

 と二人で声かけるとしばらくは泣き声しか発さなかった男の子は顔上げて言った。

 お父さんもお母さんもおばあちゃんもいなくなっちゃった。怖い、さびしい。

 そう言って泣きながら震えていた。

 あまりに哀れになって背中を擦ろうと横に並んだ時にようやく気が付いた。

 ああ、この子。後頭部が無い。

 横に回り彼の背中側が見えて初めてわかったことだが、男の子の首の後ろが耳の少し後ろのあたりまでがへしゃげて潰れ、赤黒い断面を覗かせてばっくりと穴を開けていた。

 気がグンッと遠くなるのを感じたが、もしこれを友達が見ればそれ以上だろうと思い、友の為にも悲鳴を上げそうになる喉をぎゅっと引き締めて背中を撫でてやった。

 幸い、これまで遭遇したお化けに比べれば見た目は普通の男の子だし、お化けに出会うと、全身から血の気がサーッと引くというか体温がシュルシュルと体から抜け出ていくような不快感があったけど、この子からはそれを感じなかった、

 少しすると男の子は安心したのか泣くのを止めた。

 男の子は小学校の体操服姿で、「小菅」という名札を付けていた。

 ここを穏便に済ませるとしたら、この子の望みを叶えるほうがいい。

 そう思い至った私はまず友達に、とりあえず肝試しの手順は終わらせるように伝えた。

 それから二人で男の子の親を探してあたりを散策した。男の子の手を握ると氷のように冷たかったが、普段と違い気持ちが悪くなる事も無く、叫びたくなるような気持ちも治まっていた。

 男の子の手からは、本当に心細いという気持ちが真っ直ぐに伝わってきていた。

 私の手を「あたたかい」と儚げに笑う顔を今でもよく覚えている。

 友達が降りようと言うのを宥めて、私はある種確信を持って霊園に踏み込んだ。

 ここが霊園で、男の子、の霊は先ほどの階段道中ではあれだけうろついていたお化けが少しもいない中でポツネンと居た。たぶんだけど、あいつらはここには基本的にいない。

 それと、なんとなくこの子があれらの犇めく中を無事にここまで来たというのは納得できず、全くそう判断できる要因は無いけど、最初からここに居たんじゃないかと思った。

 整然と立ち並ぶ墓石の列に友達はひどく怯えていたし、「あんたさっきまであんなに怖がってたくせになんでここは大丈夫なの」と文句を言われるが、この際この子が本当に迷子になってしまうのが私は何より嫌だった。

 墓地の間をお母さん、お父さんと声をかけながら一つずつ墓碑銘を確認していくと、やがて「小菅の墓」を見つけるに至る。

 ギュッ。 と繋いでいた手を握ると、男の子は一際強く握り返した。

 彼の顔を見ようと視線を下げた時には男の子の姿は無く。

 彼の冷たい手の感触だけが残っていた。


 半ば発狂気味の友達を宥めながら石階段を降りた後、こっそりと肝試しを監督してた霊園の管理者であるお坊さんに話を聞くことができた。

 つい先日この神社を下って少し行ったところの交差点に住む「小菅」というお家で六歳の子供が事故で亡くなり、その家が神社の麓にあるお寺の檀家さんで昨日納骨が終わったばかりなんだそうだった。

 学校でも、観光地であり遊び場でもある川沿いで起こった事故だった為に朝の会で先生が注意喚起も兼ねて話をしていたので、やはりという気持ちだった。

 神社で逢った事を話すと

「うん、君のような人が導いてくれてよかった。その子はよくおじいさんと神社にお参りに行っていたのを私も見ていましたから。たぶん、自分がどうなっているのか分からなくて迷い出てしまったのでしょうね。お墓を見つけたなら、きっと先に待っていたおばあちゃんがお墓に導いてくれたということでしょう。」

 お坊さんはそう言って笑ったあと、明日、一度手を合わせに来て下さい。と言われた。


 翌日、怖がる友達を連れて霊園を訪れ、母のお仏壇から少しだけ拝借したお線香を供えて二人で手を合わせた。

 別に風に乗って「ありがとう」などと聞こえる事も、墓石の裏から顔を出すようなことも無かったけれど、それがあの男の子が今この墓の下で静かに眠っていることの証だと思えば当然のように思えた。

この世のモノでなくても、どれもこれも危害を加えるようなモノばかりでない事を、


私はこの一件で知る事ができた。


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