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私に纏わる怪異鬼縫  作者: 三人天人
上京
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 私は普段、目覚まし時計を使わない。

 障子越しに薄ら白い光が射し込み始める、

 その少し前にはいつもこうして目が覚める。

 静々と白みゆく光をじっと見つめ四つ、

 ゆっくりと、息を吐いて体を起こす。

 まだ、少しだけ肌寒い。

 布団を抜けて、背筋を伸ばして襖を明ける。

 縁側はこの部屋より尚冷ややかな空気に満ちていて、

 少しだけ布団が恋しくなる。

 そんな卑しさに背を向けて、

 縁側に出てひたりひたりと風呂場を目指す。

 全市さんは昨夜も遅かったことでしょうし、

 八重に関してはまだ起きる気配はない。

 洗面台で手を洗い、ぱしゃりぱしゃりと顔を洗う。

 三月もまだ二週目とあればまだ水は冷たく、

 目と頭に心地よい。

 髪を(くしけず)り、

 (うがい)をして風呂場を出る。

 先ほどよりも鮮明になった意識で同じ道を戻る。

 部屋に辿り着き、

 窓を開ける頃には、

 複雑な色彩の広がる空が、

 じわりじわりと色を変えていく只中にあった。

 最早冷たくなり、

 包容力を失った布団を上げて寝間着を滑り落とす。

 足袋を履き、

 肌着を着けてから出しておいた長襦袢に袖を通す。

 一人で着付けをできるようになったのはいつ頃だったか。

 帯を太鼓に結びながら、栓の無いことを薄ら思う。

 今日、この家を訪ねるらしい人物の事を想う。

 聞くところには自分と同い年なんだとか。

 もし粗野な子だったらどうしようか。

 私のような者と馬は合うものか。

 そもそも、我が家のような表向きには超が付く富裕層の家に来て居心地が悪くなるようなら困るし、話が本当であればすぐにでも仕事に就かせる事になろうと思うと気が重いが、そこはもう決まった事、それ故今更足掻いてもしようがない、八重がいればどうだろうかとも思うけどやはりあの子が私の供回りをするのは立場上どうしても良くないのだし赤谷もよくやってくれているし彼に預けてもいいかもしれないが、彼を信用していないわけではないけどそれでは主旨と反するし、かといって私もまだまだ未熟で、実際のところ突然来て訳も分からず巻き込まれる事になるだろう人の事を考えると私のやろうとしていることはいささか思い遣りや配慮という行為温情とは無縁のものでどれほど反感を買うかと想像をすれば不安は大なりという事であって私個人の自信にはいささかの欠損も有りはしないのだから何を恐れる事が有りましょう。

 だからこうしていつにもましてしっかりと着付けをする。

 明ける空を見やって外に漏れぬよう溜息をついた。

 果たして、纏異は今日ここに来る。

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