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神無月編 後編

-15-


爆発の翌週月曜日。原因はわからないまま(九尾の部下がいうにはわかるはずもないらしいけど)、安全が確保されたというので学校が再開された。

「今週も私がひので君ときぼうさんを守るから、安心して勉強して大丈夫だよ」

「頼もしいな、頼むぞ」

「敵はなんのためにひーくんを狙ってるんだろう」

「九尾さんは敵が多くて、しかもひので君は鶴島さん除霊したときに関わってるから、だと思うよ」

「はぁ、それくらいで命を狙われているのかよ」

学校につくと、爆発のことで話題が持ちきりだったが、しかし、何事もなく放課後を迎えた。

「この前の爆発はいったい何だったんだろうな?この学校に命を狙われるようなやつなんていないだろ」

「だよねぇ」

横手が言うのはもっともだが、何故か俺が狙われる始末。適当に返事をしておく。

「まさか、東海、お前が狙われてるのか?」

「何でだよ」

「学校で人気の謎の美少女転校生を手にしたから、とか」

「そんなんで爆弾テロしてたらキリがねーよ、てか手にしてないし」

「じゃあ、あれか、春に九尾の狐とかいってなんか変なのとつるんでただろ?あれの敵に目をつけられて・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「っていうジョークだ、すまん、じゃあな!」

横手はすたこらさっさと帰ってしまった。俺だってこんなのはジョークであってほしい。

湯殿と姉さんは今日は掃除当番なので、手持ちぶさた。図書館にでも行ってみるか。何かオムライスの新製法が見つかるかもしれない。

しかし、廊下をひとりで歩いていると、何かおかしい。道を間違えたか。一度引き返すが、そちらは何もなかった。再び前を向くとひとりの男。異様な雰囲気を漂わせていた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

お互いに何も言葉を発していないわけだが、明らかに向こうの圧力のが強い。そして男は前髪が長くてこちらから目が見えない、というのが不気味さを増していた。

そして男は手のひらを前に差し出すと、その上の無の空間からなにやら物体を生成しはじめた。なんだなんだ。そしてそれはみるみるうちに小刀を形成した。

そして男はそれを掴み、歩み寄ってくる。逃げようとするが、あるはずのないところに壁。カバンの中のもので戦えそうなものはないか?と漁るも何もない。ハサミは机のなかだった(ハサミでも戦えそうにないが・・・)。

ならば、あいつが無から道具を作り出したのだから、俺だってなにか作れるはず、と手のひらを掲げる。ハーッ!・・・・・・驚くべきことに、何か物体が形成されていく。なんだなんだ?そうか、ここは異様な空間なのだ。普段の世界とは違う、何かの空間。そして俺は打ち込み産み出されたものを掴む。なんだこれは。孫の手じゃねーか!戦えるかっ!いくらなんでもあり空間とはいっても相手のほうが経験が上だった。

そしてやけくそで孫の手を投げた瞬間、その空間の反対側から、壁を壊してひとり誰か入ってきた。湯殿たもとだったのだ。

「そこの幽霊、私が相手よ」

謎の前髪長い男と湯殿が対峙した。前髪男の表情はまったく読めない一方、湯殿は自信ありげな表情だった!



-16-



俺を襲ってきた謎の男。それと対峙する湯殿。そしてぼーっと見ている俺。

「あんたがこの前の爆発を起こした幽霊ね!ここで消えてもらうよっ」

「・・・・・・」

湯殿は自信ありげな表情で相手に死を宣告する。一方の前髪長い系幽霊はなにも動じることもなくそのまま立っていた。不気味だ。

湯殿が先手をうつ。

「烈風脚!」

回し蹴りが入り、幽霊はぶっとばされるが・・・・・・すっくと立ち上がり、対して効いていないようだった。

「タフだね・・・もっと強い攻撃をしないと駄目かな」

幽霊はさっき生成したナイフを持ち、一気に湯殿との間合いを詰める。さすがの湯殿も受け止められないとみたか、かわしてから蹴っ飛ばす。若干湯殿が優勢だが、相手の隠し持っている技によってはまずいかもしれない。

俺はさっきの孫の手の要領で、再び手のひらで物体を生成する。幽霊は制御できるのだが、俺はまだまだ出来ないので良いものがくると祈って手のひらを広げ続ける。

「・・・・・・」

幽霊はなにか技を溜め始めた。湯殿がそれを見て構える。技が溜まる前に何かしらで攻撃しなければ。そして手のひらから作られたのは・・・・・・陶器の水がめ。なんでやねん!

「それ貸してっ」

湯殿が高速でその水がめをかっさらっていく。そして男の頭に被せた。男は慌てて外そうと両手で水がめを掴む。

今だっ!!

「雷烈砲!!!!」

湯殿は男のガードが甘くなったところに光線を叩き込む。そして男はその光線の中で焼け消え去った。その瞬間、まわりから人の声がしはじめた。元の空間に戻ったらしい。

「湯殿、ありがとう」

「こんなの朝飯前だよ」

時計は掃除終了時間を回っていて、そのまま俺たちは帰ることにした。さっきの戦いは俺たちしか認識していないようで、何の騒ぎもない平和な空気が漂っていた。

「ひのでくん、あの水瓶、どこから持ってきたの?」

「わからん、相手が無からナイフを作り出して、それを見て真似たら俺も出来たんだ」

「そうなんだ・・・・・・それに気がつかなかったら危なかったね」

「湯殿が予想以上に強かったからなんとかなったんじゃないか、あそこまで強いとは思わなかった」

「へへへ」

「妖怪っていうのは、皆そんなに強いものなのか」

「いや、私は九尾さんに稽古つけてもらったからね、特別に強いよ?」

終わってみればいつも通りの道をいつも通り歩いて帰宅。きぼう姉さんやはるかもいつも通りの笑顔。九尾の心配していた幽霊も退治されたことだし、もう何も起きないだろう。



-17-



十月も半分を過ぎたそんなある日の朝。体が動かない、起き上がれない。いきなりそんな状況に陥った。ケータイの目覚ましの曲がループして、そして姉さんが部屋に入ってくる。

「ひーくん朝だよ、そろそろ起きないと」

「う・・・ああ・・・・・・」

「ひーくん?」

声がうまく出せない。うぐぐ・・・・・・これはまずいかも。

「ひーくん大丈夫!?」

はるかもやってくる。口すらろくに動かせず、もごもごとも喋れない。

「はるか、ここで見てて、私は救急車呼んでくる」

きぼう姉さんは部屋を出て電話しているらしい。はるかはぽろぽろ涙をこぼす。すまない・・・・・・原因はやはり幽霊なのだろうか。それとも普段の生活習慣で体がやられてしまったのか。幽霊だろうな。すぐ救急車が到着して、病院に運ばれた。記憶が途切れ途切れだが、医者が困った顔をしたのは覚えている。そして気がつけば既に午後二時。点滴を受けていた。

「ひので君、気がついた?」

近くには湯殿が座っていた。

「まさかこうなるとはね・・・・・・ひので君、意識はある?私テレパシー使えるから、なにか考えて私に伝えて」

テレパシーだと?あいつそんなのまで使えるのか。赤の他人に心を覗かれるなんて恐ろしいな。

「ずいぶん失礼なことを考えるんだね」

人の心を覗くほうが失礼だろう。

「普段から覗いてないよ、それより今日の詳しい状況を教えて」

俺は今日起きた記憶をすべて出来るだけ詳細に思い出した。それを聞いた湯殿はうんうんと頷く。

「幽霊に体を乗っ取られつつあるのかもしれないよ、でも大丈夫。それなら解決できるから」

湯殿はそう言って廊下に出ていった。しばらかして戻ってくる。

「九尾さんの知り合いの、除霊のスペシャリストを呼んでもらったから、もうすぐなおるよ」

まじか!頼りになる。出来たらもうすぐなおるのを家族に伝えてくれ。

「おっけー」


なんだかんだで二時間くらいたって、病室に湯殿が呼んだ、除霊のスペシャリストがやってきた。まだ幼い、子供の巫女さん。

「はじめまして、東海さん」

初めまして。・・・・・・まだ小学校低学年、もしかしたら幼稚園かもしれないが、ひとりで来るとは立派なものだ。

「ひので君は今、うまく喋れないんだ、憑いてる幽霊を追い払ってもらうために呼んだんだよ」

「わかりました、やります。東海さん目を閉じてください」

目を閉じて待っていると子供の巫女さんは呪文を唱える。そして・・・・・・

「目を開けてください、もう大丈夫ですよ」

「・・・・・・はろー。ないすとぅーみーちゅー」

「喋った!」

喋れる。腕も動かせる。体も動かせる。よっしゃあああああああっ!!!

「巫女さんありがとう」

「どういたしまして」

やっと復帰だあああああっ!と急に立ち上がって、点滴の台車がバランスを崩し倒れてきて竿の先が直撃し頭を抱えることになった。


治ってもすぐ退院とはいくわけもなく、「幽霊に取りつかれている」というのが原因なら科学ではわかりようもないし、それを話してみれば余計に長引きそうなので、大人しく病院で過ごすことになった。きぼう姉さんやはるかだって、単に幽霊の仕業だとは考えていないだろう。巫女さんに治してもらった俺と、湯殿や九尾の部下といった妖怪たちのみが解ることだった。

結局退院したのはそれから一週間もあと、十月も終わりに差し掛かっていた。九尾もそろそろ帰ってくるころだろう。敵もひとり撃破、ひとり祓ったわけだし、そんなに脅威でもあるまい。



-18-


がああああああっ!!また体が動かねえっ!!またかっ!!前回の俺はぬるかった。何がもう大丈夫だ、全然大丈夫じゃねえじゃねえか!

とりあえずそのまま布団でじっとしてると、意に反してすっくと体が勝手に起き上がる。ななななななっ何をっっっっっっっ!

「ひーくんおはよー」

「姉さーんっ助けてくれーっ体が勝手に動くんだよ」

「ええっ」

「湯殿を呼んでくれえっ」

「わかった!」

幸いにも今回は喋れるので、なんとか湯殿を呼び出せる。これも幽霊の仕業だろう。しかしどういう動きをするつもりなのか。止まれーっ!!必死に勝手に動かないように踏ん張ってみる。すこしは違うけれど、俺の体を操る何者かのが力が強くて、俺の意思通りにはならない。

意に反して台所につれていかれ、なぜか右手におたま、左手にフライパンを持たせられる。

「お兄ちゃん何してるの?」

ぎょっとした表情ではるかに見られる。さっさと離れろ、と怒鳴り遠ざける。俺を操るやつはおたまやフライパンで攻撃しようとしているに違いない。本気で殴ったらタダでは済まない。

「たもとちゃん呼んできたよ」

「大丈夫?ひので君」

「体が何者かに操られているんだ、助けてくれ」

と言いつつ体は勝手に動き湯殿へ攻撃しようとする。まさにそのとき、湯殿は姿を消して、そして背後から物凄い打撃が加わったのだった。

「これが幻烈翔。敵に幻を見せてその間にうらに回り込んで攻撃する技」

ぐあああっ!解説は良いからどうにかしてくれっ!体が変な方向に曲がったあだだだだだ!

体がその場でのたうち回る以外のことが出来なくのり、その後湯殿が以前見た鶴島さんの除霊のように、塩を大量に振りかけてくる、というのを味わったのだ。



・・・・・・十一月一日。九尾がお土産をもって新幹線から降りてきた。

「ただいまーっ」

その瞬間、俺の対幽霊に対する戦争は終結を迎えたのであった。

「ひーくんはどうだったの?幽霊に狙われなかった?」

「なんとか大丈夫だったよ」

「そりゃ良かったね!」

良くはない、とは思うが、結果として何事も支障をきたすことなく十一月を迎えられたので、なによりだった。

十一月一日も狐たちの宴会に誘われた。九尾の次に偉いらしい豊原さんがやってきて俺に何故か詫びた。

「守りきれなくて申し訳ない」

「いやいやこちらこそ迷惑をかけて申し訳ない」

などと謝りあいになってしまう。そんなことよりご飯食べて明るく行こうよ、と九尾の狐。何故か湯殿は酒を飲んで酔っぱらっている。こんなんでいいのか。

「良いんだよー、別に万事解決したわけだしー」

と酔った九尾が湯殿を擁護する。結果よければすべてよし、なのはまったく間違っていないのだが。そんな感じの宴会は夜遅くまで続き、冷たい風と星空のなかをたったかと軽快に歩いて帰ったのだった。



神無月編、完。



おまけ。


「何故湯殿は俺の家に住み着いているのか?」

「変?」

「変というか、なんというか、どういう成り行きなんだ」

「ひので君が助けてーって言って私を呼んだのはついこの前のことでしょ」

「確かにそうだけど」

「それにあとの家族は賛成してるよ」

「・・・・・・本当に?」

「本当」

まあはるかとかは喜びそうだけど、とき姉さんとかなにを思って賛成したのか?まあいいや。

「そうして湯殿を同棲を許した東海ひのでは、あっという間に彼女に身も心も溺れていくのだった」

「変なナレーションつけるな」

「というわけで次回「夜明け編」スタート、絶対また読んでね!」

「次回もサービスサービスっ!」



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