20.大魔術家庭教師テトさん ~突然の来訪者編~
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それからマルクスとオウルは、先の謝礼金のおかげで少しだけ豪勢になった朝食でしっかり腹ごしらえしてから、魔術の研究をするという日々を繰り返していた。
ちなみにオウルにあげたローブも、マルクスが自分で使う用のものを新調しておいた。オウルの方は今のローブが気に入っているようなのでそのまま使わせることにする。
そんなある日、ようやく家庭教師をするという約束を果たしにやってきた大(?)魔術師のテトさん。
彼女はマルクス宅を訪れ彼の研究室をひと目見るなり、阿修羅の形相で叫んだ。
「こんな散らかし放題の研究室でなァ~にが魔術の勉強よ!まずは掃除!整った環境で研鑽を積まねば魔術師は大成しないの、肝に銘じておけこのバカめ!」
「ひえ」
「こわい」
この怒声には、マルクスもオウルも震えあがった。
ということで、今日は一日研究室の掃除をするハメになりそうだ。
しかし大急ぎで近くの雑貨屋から掃除道具を一式買ってきていざ始めようかという矢先、家の呼び鈴が鳴った。誰かがマルクスを訪ねてきたのだ。
大(?)魔術師として招かれた立場でありながら自分も掃除に加わろうとありがたくもエプロンなんか着てくださったテトさんが、キレた興奮も冷めやらぬ様子で何の罪もない訪問者に向かって怒鳴る。
「クソッタレー!こんな時に誰だあ!」
そのままずかずかとこの家の主でもないのに玄関まで向かい扉を開け、その訪問者とやらを招き入れるテトさん。
瞬間、彼女の顔に驚きの表情が張り付いた。
「アンタは……」
それに、彼女の顔を見た訪問者の方も眼を丸くした。
「あ、あなたがどうしてここに」
遅れて玄関に駆けつけたマルクスも、訪問者の顔を見て声を上げた。
「君は!
君は、……誰だっけ?」
「ねぇ毎度毎度この流れ要る?」
オウルが死んだ眼で言う。
マルクスを訪ねてきたのは、ゴーレム設計士のザイーネだった。先のゴーレム暴走騒動の当事者であり、最大の被害者でもある。
先の騒動ではみんな必死だったのでマルクスも容姿など見る暇もなかったのだが、改めて見てみると紺色の長い髪と整った顔が眼を引く美しい女性だ。
彼女はマルクス達の姿を見るなり、言う。
「あなたがマルクスさん、それにホムンクルスのオウルさんですか?私はゴーレム設計士のザイーネと申します」
「あぁ、その通りだ。俺がマルクスだが」
「そして自分がオウルです」
二人の返事を聞いたザイーネは、深々と頭を下げた。
「先日の騒動では、私のことを助けてくださってありがとうございました。ゴーレムを無力化して街の被害も抑えてくださって、本当にご迷惑をおかけしました」
そうして頭を上げると、両手で提げていた大きな籠をマルクスの方に差し出してきた。中には果物類がいろいろと入っている。
「こんな品しか用意できなくてすみませんが、どうか受け取ってください」
どうやらあの時の礼をしにここに訪れたらしい。医師のゲブラーからマルクス達のことを聞いて、この家のことをわざわざ探したのだ。
「あぁ、これはどうも!お礼をしにきてくれるなら、あの時ちゃんと名乗っておいた方がよかったか」
「どうもどうもありがとう!」
籠を受け取るマルクス。
続けてザイーネはテトさんの方に向き直した。
「ここにいてくれてよかった、あなたにもお礼をしたかったから。
あの時ゴーレムを止めてくださってありがとうございました。街の被害がいたずらに拡大しなかったのはあなたのおかげです、本当に感謝します。後であなたにもお礼の品をお渡ししますね。……えー、っと」
「あ?あ、あぁ、アタシは大魔術師のテトさんよ。あれしきのことこのアタシにとっては当然の行い。感謝されるいわれもないわ、礼なんて不要」
こういう時ぐらいもっと素直になればいいのに、とマルクスは思う。
それはそれとして、あのゴーレム設計士はなんとも礼儀正しい女の子だ。この短いやり取りの間ですぐにこちらに好意的な印象を抱かせるのだから、人間がよくできているのだろう。
なんだか、そんな彼女に名前も居場所も告げずに去っていったこちらの方が逆に失礼なことをしたと思ってしまう。
「それにしても、怪我は大丈夫だったのか?」とマルクスが問う。
「えぇ。みなさんとゲブラー先生のおかげです。すでに身体の調子は問題ありません」
「あぁ、それはよかった、それならいいんだ。
しかしその、あの騒動についてはどうなんだ?こんなこと言ってしまうと失礼かもしれないが、君にはまだこんなところにくる余裕なんてないんじゃないか?」
ザイーネは暴走したゴーレムの設計者だ。そうである以上、彼女は管理局からの事情聴取を受けなければならないだろう。最悪身柄を拘束され罪に問われることすらあり得る。
だというのに、こんなところにきて大丈夫なのだろうか。
そんなマルクスの問いにザイーネは、応えるべきか否か言い淀んでそのまま黙り込んでしまった。
「それは……」
その態度だけで、何らかの事情があるということをマルクスには察せられた。この件についてはあまり詮索しないべきか。
などと考えていた矢先、そんな事情などつゆとも知らぬ様子でオウルが言った。
「もしかして、件のゴーレムに発生した問題点は設計士である君によるものではなく、管理局によって生じたものだとか?
例えばほら、暴走したゴーレムを強制停止させる安全装置が管理局から施されてるって話じゃない?そっちの方に異常があったとか。暴走対策が逆に暴走の原因になっちゃった!
で、そんなこと魔術都市の治安を守る管理局としてはあっちゃいけない不祥事なわけだから、事件の当事者である君にはこのことを口外しないよう口封じするかわりに、罪に問わずすぐに釈放した。
―――ってところだったりして」
ということはつまり外部にそのことを察せられてはいけないということだろうに、なんでわざわざ口に出すんだオウルは。
さすがにマルクスは自らの創造物のことを恥じると同時に、こんな推理をさらりとやってのける頭の良さを褒めてやりたいところでもあった。
実際、この推理は当たっているようだ。ザイーネの顔が『図星』と語っていた。
「そ、その。私の方からは何も言ってませんからね。どうかこのことは内密にしていてください。こちらもそういう条件で釈放されたんですから」
「分かってるって。オウル、その頭の回転の速さは素晴らしいが、そういうのは心の中で済ませておきなさい」
頭を撫でられながら叱られるオウル。
「申し訳ない!」
「テトさんも、大!魔術師たるもの事の深刻さはもちろん分かっているよな?」
念の為、テトさんの方にも釘を刺しておく。
「このアタシを誰だと思っている!言われるまでもないわ」
この返事にザイーネもひとまず安心した様子で胸を撫で下ろす。が、それからすぐにその顔には先程とは別の深刻さが見えた。
「でも、こちらとしてもどこかで折を見てこのことについては話そうと思っていたので、逆に助かりました。
続けざまにこんなことをお願いするのはご迷惑だとは思うのですが。今の話を踏まえた上で、今回のゴーレムの暴走についてどうか皆さんの知恵をお貸し頂きたいのです」
「知恵を貸す?」
マルクスがどういうことかと考える間もなく、テトさんが胸を張り二つ返事をする。
「そういうことなら、任せておきなさい!」
またこの大(?)魔術師はすぐ調子に乗る。もしや彼女は適当におだてれば何でもやってくれるのではないだろうか。
「はい。これからもう少し詳しい事情をお話しようと思います」




