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無能扱いされていた生体錬成士の俺が最強幼女ホムンクルスを生み出した。  作者: tatakiuri
一章.ホムンクルスが完成したのはいいけどいろいろと準備ができてねえ!
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1.寝落ちして起きたら裸の幼女が身体に乗っていた。

「まだ生まれて間もない、―――いや、違うな。まだ生まれてすらいない君にこんな話をするのは申し訳ないと思うけど。……正直言って、どうせ今回も失敗なんだろうと考えている」


 暗い研究室。埃を被った無数の本棚が乱立し、照明の類もほとんどない薄汚れたその部屋の中。一人の男が散らかった机の前に座り、自分の頭ほどの大きさの円筒状の試験管を見つめながら口を開いた。

 試験管の中には緑色とも黄色ともつかない奇妙な色をした液体が満たされ、その液体に肉眼で見るのもやっとな程の小さな何かが浸かっていた。


 男の名はマルクス。

 彼は魔術師だった。


「俺のことを小馬鹿にするみんなの声も、なんだか最近は気にならなくなってきた。最早これは惰性だせいだ。成功させる気がないとまでは言わないけど、成功する未来が見えない。なのにこんなことを続けている理由が、自分ですらもう分からなくなっている」


 彼は魔術師だった。が、()()()()()()使()()()()()()。その道を志し勉学と努力を重ねてきたが、彼は何一つ魔術を扱うことができなかった。

 五元素行使も、

 物体錬成も、

 精霊召喚術も、何一つだ。

 十年という歳月を研究に費やしても何の成果も残せなかった彼はいつしか、周囲から“無能”の烙印を押され、嘲笑の対象となった。


 彼らが今まで自分に投げかけてきた言葉を、マルクスは一度思い出してみた。

 例えば、


『時間の無駄』

『才能ないから諦めろ』

『見てるこっちが惨めだ』

『人生の道は一つじゃない。そろそろ別の道を探そうよ(笑』


 哀しいことに、マルクスは彼らに言い返してやりたいと思いながらも、言い返すだけの実力もなかった。

 だがそんな彼にもただひとつ、できるかもしれないことがあった。


 人体錬成だ。

 彼は魔術による人造人間、“ホムンクルス”の研究を続けていた。試験管の中に浸かっているのは、新たに生み出そうとしているホムンクルスの細胞だったのだ。


「思えば君達には、残酷なことばかりしてきた。いろいろと試行錯誤してはみたけど、どの試作品もとても実用化出来るものではなかった。言葉を聞くだけの聴覚はあっても、それに応える声帯は発達しない。地面に立てるだけの脚などもっての他。

 あれじゃあとても生きてるとは、生まれてきたとは言えない。今まで三百体近い試作品を作ってきたけど、みんなそうだった。そして多分、()()()()()()()()()()()()()()()


 『できるかもしれない』というのは、つまり『できるわけではない』ということだった。あくまで多少見込みがあるというだけで、結局この分野でも彼は一つも成功した経験はなかった。

 マルクスはこれまで何度もホムンクルスの製造を繰り返してきた。だがその度に出来上がるのは、人の形もなさずに死んでいく未完成品ばかりだった。


「そうだ、怖いだろう。そうなったら君も俺のことを恨めしく思うはずだ。今まで死んでいった君の同胞たちも、きっと同じ気持ちだったろう。そして俺には、君達に償いをする手段も思い浮かばない。

 あるいは、君がようやく完成品として確かな肉体を得ることができれば、これまでの恨みつらみの代行者として俺のことを殺せばいい。そうすれば多少の償いにはなるかな。……まっ、どうせそれも無理だろうけど」


 そもそもマルクスは、魔術師に向いていないのかもしれない。

 魔術師にとって、自分の創造物はあくまで道具でしかない。それは人造人間であるホムンクルスにしても同じで、それらが死のうが苦しもうがそれを気にする者はほとんどいない。

 そんな中でマルクスは誠意をもってホムンクルスを生み出し、それらをひとつの生命として尊重しようと考えてきた。

 が、そんな彼の試作品は全て、言葉を発することもなく死んでいった。それがなおさら重い罪悪感となって彼の心にのしかかっていた。

 そういう意味では、マルクスは奇特な魔術師だった。その奇特さのために、彼はこの十年苦しんできた。


「もう疲れた、眠くなってきた。せめて君がどこまで成長するかは見届けなくちゃいけないと思ってたけど、それすら無理そうだなんて、情けないにも程がある」


 三十四歳にもなったこの身体にはもう、昔のような情熱も体力もない。

 そろそろ限界だった。マルクスにはもう、この絶望的な状況を耐え抜くことができなかった。


「これで最後にしよう。試験管の中だけでその世界を終えて死んでいく生命は、君で最後だ。もう俺は、魔術師をやめる。

 ごめんな。もっと早く決心がついていれば、君にもつらい思いをさせずに済んだろうに。こんな俺がのうのうと生きてちゃダメだよな。

 ……分かった。明日起きたらすぐ首吊って死のっと」


 そんな言葉を最後に、彼は机の上に突っ伏して意識を閉じた。



        ※



―――「創造主」


 どこからともなく、声が聞こえる。誰かが呼んでいるようだ。


―――「創造主」


 『創造主』?

 それはもしや自分のことを言っているのだろうか。と、どこともいえないまどろみの世界に漂いながらマルクスは考える。

 そんな大層な呼び名、自分には似合わない。この声は一体誰だ。

 こんな出来損ないの魔術師を『創造主』などと呼ぶものなど、それこそ……


 ()()()()


―――「そーうーぞーうーしゅ!……これは、もしかして死んだ?」


 何かに気づくと同時に、マルクスの意識は急速にまどみの中から浮上していった。



        ※



 薄汚れた研究室で眼を覚ます。もう何度も落胆と共に迎えてきた目覚めだ。

 ただ今回は少し違った。起きて最初に眼にするのが、机の上にある失敗に終わった実験結果ではなく、ろくな灯りもない汚れた天井だった。

 どうやら今、自分の身体は仰向けになっているようだとすぐに認識出来た。


「眠った拍子に倒れたのか。あ痛たた……」


 まぁ、椅子から転げ落ちることぐらいたまにはあることだろう。しかしそれはそれとして、なんだか腹のあたりがどうにも重い。何かが上に乗っているのだろうか。

 マルクスはしばらく天井を眺めていた視線を移し、自らの腹部に眼を向けた。



 なんかいる。



 人の形をした何かが、腹の上に馬乗りの姿勢で座っていた。


「…………」


 その姿を、ただ呆然と見つめるマルクス。

 何かに濡れているらしくかすかに湿っているその、色素の薄い白い肌。まだ未成熟な女の子供のそれに見える細い四肢。そう、幼い女の子だ。

 透けるような肌よりもなお白く染まった、何も記されていない紙きれのような色の髪の間から覗く琥珀のような眼で彼を見返しながら、その何かは声を発した。


「生きてた!創造主、まずひとつ言っておきたいことがある。

 死んじゃダメだ。首を吊って死ぬなんて、そんなことされたら残されたジブン(自分)はどうすればいい。それにジブンは創造主のことを恨んでなんかいない。『殺していい』なんて、そんなことするわけないじゃないか。冗談にしたって笑えないよねぇ、この創造主はまったくもう!」


 想定される仮説、

 理解できる事実、

 言いたいこと、それはいくらでもある。

 が、それらも全て一瞬の内に忘却され、マルクスはただ一言叫んだ。


全裸はだかぁぁぁーーーーー!!」


 そう。

 その何かは、全裸だった。

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