かたち
街一番の人気店。
店主には圧倒的な自信があった。
客の入りもそれなり。
隣に新規店が出来た。
「またか」
店主は誇らしげな顔でこぼす。
オープン日、新規店にはそれなりに客が来ていた。
「若者は新しいものが好きだねぇ」
店主の言う通りこれはいつものことだった。
過去に何度も新規店がオープンされた。
一週間もすれば客は店主の店に戻っていた。
だから店主の店の隣はずっと空き地なのだった。
オープン日の閉店間際。
新規店の客もあと一人。
店主だった。
「来てくださったんですね」
「早めにこないと食べれなくなっちまうからな」
嘲笑の影には確かな実力と自信があった。
新規店の味は店主のそれと近似していた。
十数年間毎日食べ続けている店主でさえ気付くか気付かないか。
しかし値段は五十円新規店の方が高い。
「おもしろい」
店主の自信は崩れない。
「またのお越しをお待ちしております」
二週間経てども新規店の客は減らない。
減っていたのは店主の方の客だった。
「ありえん」
閉店後の新規店の前に店主はいた。
「なにをした」
「ほんの一手間です」
味はほぼ同じ。
五十円高い店に客が流れる。
その理由が店主には分からなかった。
翌日の同刻店主は同じ場所に立っていた。
違うのは今日は手ぶらではないということ。
嘘発見器だ。
「なにをした」
「ほんの一手間です」
発見機に反応はない。
「もう一度食わせろ」
「構いませんが私は作業をしますよ」
料理を出し終え新品のノートとサインペンを手に取る。
「ほんの一手間ですよ」
書く。
『クチコミまとめ vol.9』