鬼退治?ふざけるな!退治するのはお前の心の中の鬼を退治してからにしろ!
昔から物語のゴールは鬼退治と決まっている。でも少し考えてほしい。一体俺たち鬼が何したっていうんだ。人殺し?そんなことするわけないだろ。まず、俺は血とか苦手なんだよ。ちょっと村に忍びこんで、生きるために必要最低限の物を貰っただけじゃないか。数百年前のお前ら人間と何が違おうか?
赤鬼より
こんな手紙が鬼から送られてきた。さすがの俺、桃太郎も少し鬼退治をためらってしまった。彼らが言っているのは全て正論だ。たしかに太古の時代、俺たち人間は近隣の村に攻め入り、欲しいものを好きなだけ強奪していた。
一晩考えた俺はキジ、サル、イヌを野生に帰して故郷に帰ることにした。こんな鬼たちを皆殺しにするなんて正義のヒーローあるまじき行為だ。
村に帰ると両親は大変驚き僕にこう言った。
「鬼退治をしないなら、私たちに吉備団子を返しなさい!」と。
これは困った。当然吉備団子なんてもっていない。困った僕は隣の家のおばあさんから盗むことにした。作戦はいとも簡単に成功したが、桃太郎は元気を取り戻して両親に吉備団子を返した。するとおじいさんはこう言った。
「お前が鬼退治をしないなら、わしらがこの吉備団子を持って、いってこよう。それ鬼退治じゃ」
おじいさんは斧で桃太郎を切りつけた。
そこで桃太郎はようやく気付いた。自分は鬼たちと同じ行為をしたのだと。
その頃桃太郎と別れたイヌたちは、鬼ヶ島に三匹で向かっていた。しかし探しても探しても鬼ヶ島は見つからない。そう、本当は鬼なんかいないのだ。
鬼退治は何も特別な事ではない。
ただ、自分の心にある鬼ヶ島の鬼たちを押さえる。
すなわち、欲望に打ち勝つことなのだ…
それを出来なかった桃太郎にヒーローと言う筋合いはないし、鬼退治に成功したとしてもそれは崇めることでもなんでもない。
むしろ、鬼たちを皆殺しにして、空虚な名誉と地位。そして財産を獲得しようとした桃太郎は愚かな人物と言うべきだろう…
この作品を最後まで読んで頂いた方はもうお気づきだろうが、この題名には矛盾がある。「お前の心の中の鬼を退治してからにしろ!」というセリフはおかしい。心の中の鬼を退治すれば、他の生物に害を加えるというのはありえないだろう。しかし、世の中広しといえども心の中の鬼を完全に退治できる人なんかほとんどいないだろう。
本当に大切なのは「退治」ではなく上手い人付き合いではないだろうか。現実の知り合いとも、心の中の鬼とも…