「女の子は黙って。」6
促されるまま地面の一点を見れば、そこには僅かに小さな穴が開いている。
「ここにこれを差し込んで、」女は言いながら取り付けられたアクセサリーを下にして鉄の棒を差し込んだ。
1mほどある棒だったが、スルスル地面に吸い込まれていく様子に縁は目を疑った。
女も手元から短くなる棒に合わせて腰をおろしていく。しばらくすると何か手ごたえを感じたのだろう、女が鍵を開けるように棒を回す。
右へ3回、左に5回、そしてグッと押し込めば穴の奥からカチっという小気味いい音が僅かに聞こえた。
「これでかんりょー」と同時に二人を取り囲むように地面から勢いよく鉄製の壁が四枚出現し、もうすでに暗くなった空を塞ぐように蓋が占められる。
外が見えない公衆電話ボックス大の狭い部屋に閉じ込められてしまった状況に縁は慌てて聞いた。
「え、えっあ、なにこれ…」
「集会所の入口。」
女は得意げに縁へ微笑むと、四角い操作盤がついた壁を向いてなにやらボタンを押している。
あっという間にピーーーーーーーーという電子音が流れ、戸惑う縁の目の前の壁がスライドした。
眼前に広がるそこは、先ほどとは打って変わった世界。
だだっ広い畳の和室に、大小あらゆるソファやら炬燵やらが不規則に並べられ、猫耳としっぽを付けた男女たちが数人談笑している薄暗い場所だった。
入って右の壁一面に引き出しの付いた木製の古い棚が並んでおり、左側には何処へつながっているのか解らない襖に冬景色の山々が水墨画で描かれていた。
猫人間たちのくつろぐそれぞれの席にはグラスやマグカップが並べられており中にはゲームをしていたり食事をしている者もいる。
「うそ。」
「まあ、ここはちょっと特殊かもー?」背後の女はヒールのブーツをその場で脱いで手に持ちながら縁の前に進み出て、目の前に鎮座するアンティークなカウンターに置いた。
「そこの……えと、誰だっけ?」
「縁。エンだけど。」
振り向いた女に両手で指をさされ、今さらの名乗りにテンポの悪さを感じながら縁は呟く。
「そっかそっか、縁も、靴脱いで。」
縁は言われる通り靴を脱ぐと、女に倣って自分もカウンターの上へ置く。
サイズアウトをごまかしながら無理くりはいている年代物の見ずぼらしい自分の靴の横に、いかにもお姫様がはくようなヒールの高いリボンがついた白いブーツが並ぶことに耐えられず縁はぎゅっと目をつむった。




