「女の子は黙って。」
今回はどうかな。
静かに薄笑いが漏れる。
両手を輪にして首を包みこむと、指が自然に凹みを探し当て、此処だ、と一心に力を込めると、
――――ああ、やっぱり苦しい。
頭に熱が籠っているのを感じる。
「げ、っげっ、ぜ、ぐ。」
そこで、惨めったらしいカエル鳴き声を思わせる不快な咳が勝手に出てきて。
我慢できなくて、手を放す。
と、同時に階下からの呼び声
「ご飯ですー!!」
そこで、縁の自殺ごっこは終わった。
「……縁さまー!!ご飯ですー!!」
深呼吸息を繰り返して生を求める縁に、少し苛つきの混じった呼びかけが2、3度繰り返される。
「わ、かったー!今行く!!」
縁は無駄になった一枚の紙を乱暴に握りつぶして丸め、立ち上がりながら、後ろ向きに投げた。
部屋の端からシュートされたそれは綺麗な放物線を描き、ゴミ箱ど真ん中へダイブする。
「……また失敗か。」
それを空虚な目で確認しながら縁は静かに呟いた。
もはや恒例になった習慣なので、彼女には解っている。
自分の腕は絶対に自分を殺さないことを。
でももし、あわよくば。
何か奇跡が起こって、さきほど自分が捨てた"遺書"を誰かが読むことになっていたなら成功なのだ。
死ねたらラッキー、というちょっとした遊びに、もっと刺激を加えないと、と思い始めているところ。
縁は築50年のオンボロ借家の階段を軋ませながら首を摩って、夕飯が用意されている食卓へ降りていく。
「宿題でもしてたの?」
母が、椅子の上で毛づくろいしながら尋ねてきた。
「まあね、っていうかママ、マジで食事前のソレ止めて。ご飯に毛が入るって。」
「っん、ごめんね。でも、最近…気温差が激しくって、自然と、ね。」
言いながらも、猫独特の習性でもあるオーラルグルーミングは自制が効かないらしく、母はチロチロと舌を出した。
「まあ、まあ…これは仕方ないことですよ。」
ご丁寧にも執事のコスチュームを身に着け、フワフワと浮かびながら、自分の身体より重そうな炊飯ジャーを小さな両手で運ぶ紫色の縫ぐるみ……のような紫色の獣、シオンが窘めながら台所を出てくる。
「ちょっと、またその格好……やめてよね、近所の人に見られたらどーすんの?」
「大丈夫ですよ。今は夜で、カーテンは閉めてますもん。」
しれっと言われてしまうと、縁は黙るしかない。
「彼是とそんな目くじら立てないでよ。反抗期なの?」
「!!時期じゃなくても反抗したくなるよ、こんな家。」
前足で顔を擦りながら困った顔をする母に、縁は喚きたいのを堪えて拳を握りながら答えた。
母は黒猫、父は不明、家事をするのはどの図鑑にも載っていない謎の浮遊生命体、何処からどう見てもおっかなびっくりとんでもホームに思春期の、14際の娘が冷静で居られるはずがない。
というのが、縁の言い分だ。
死にたくもなる。