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白金のハイエルフ  作者: 味醂
再会
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運命と決意

2021年3月27日 23時27分 重要な改稿を実施。


 運命と決意




 テラスから慌てて室内へと駆け込むと既に光が収まりつつあった。その様子に寝台につきっきりで様子を見ていた部屋番の給仕(メイド)が声をあげる。


「マリス様!」


「妹ちゃん……ではなくリーリカのほうなのね」


「突然光の球がリーリカ様の胸の上に現れたと思ったら、そのまま身体の中へ」


 部屋番の娘は突然の事に興奮気味に状況を説明するが、驚きからかそこで言葉が止まる。


「少し待ちなさい」


 慌ててテラスへと駆け戻り、先程の器を覗き込むと、先程までバラバラだった触媒が大きな塊をなして、中央に集まっていた。それだけを確認して再び部屋へと戻り、今度は寝台に横たわるリーリカの様子を窺う。


 冷たく生気の抜けていた顔色は既に元通り淡く暖かさを取り戻し、呼吸も落ち着いている様だった。

 依然目は閉じている物の、恐らくはただの睡眠状態なのだろうと予測でき、ひとまずは安堵がこみ上げる。


 大きく息をついてから、念のために脈を取ろうとした時、私は有る事に気が付いたのだった。


「こんなもの持っていたかしら? これはお前が握らせたもの? 」


 横に並ぶ部屋番の娘に問いかけると、不思議そうに私の指さすものをみて、慌てて首を横に振った。


「いえ、そのような事はありませんが……こんなもの先程は握っていたでしょうか?」


 なるほど。その様子に少しばかり考えを巡らせる。

 抜け出ていた魂、帰ってきた魂……か。そこでふとさらに気が付く。

 ほんの僅かの、綻びという程でもないけれど、擦り傷のよう魂が傷を負っている事に。


「念のため、かしら」


 そう言って寝台に這い上がり、エリスであるはずの少女の右手とリーリカの左手を重ね合わせる。

 意識はない筈なのに、不思議と自然に握り合った手に複雑な心境を感じながら、邪魔をしないようにそっと寝台から這い降りた。


「これはどういたしましょう?」


「それは触らないでおきなさいな、存外重要なキーになっているかもしれないかしら」


「かしこまりました」


「運命というものは不思議なものね」


「はい?」


「独り言かしら。気にすることはないわ」


「はい」


 深々と頭を下げてかしこまる部屋番の娘に後を任せて、窓辺に佇んでいたマイアの横に並ぶ。


「ねえ? マイア。運命の出会いって信じるかしら?」


 その小さな問いかけに、クスリと笑ってマイアはハイ。とだけ答えるのだった。




 ◇ ◇ ◇




 女神の話は続いていた。

 世界のアンバランスを狙い撃ちしたように、更なる不確定因子が発生した。

 それぞれの世界は次第に悪意が発生し、渦巻くようにそれぞれの世界において、平穏な日常を不穏で汚染していく。同時にニアミスを繰り返す二つの世界の間では幾度もの迷子を生み出していた。


 時間と共にそれぞれの世界のエッセンスのバランスが崩れて行き、やがて還流に乗る量よりも持ち出す量が上回ってしまう事態となった。

 そんな折、放浪していたブラッドノートが急激に向きを変え、ノワールノートへと衝突する。


 女神に出来たことは対消滅を防ぐため、ブラッドノートを形成するエッセンスの大半を消費して、辛うじてノワールノートの位相をずらす事と、世界(すみか)を失ったいくばくかの魂をまとめてマリスとしてノワールノートへとかろうじて顕現させることだった。


 それでも女神は自身の神性領域の一部を分け与える必要があり、その力を更に弱める一因となった。

 この時初めて『敵性意思』を女神ははっきりと確認する。


 緊急避難的に救い上げたエッセンスの結晶たる者、つまりはマリスが意図的に害されたのだ。

 持ち合わせた善性の強さと、生命力の強さが闇に堕ちたとき、更なる厄災の元凶――緋眼としてノワールノートを混乱に陥れることになったことは女神を更に悲しませることとなったのだった。


 ラスティが話してくれたことは1400年前までの経緯だった。


 そして最近の話――よりブルーノートの位相へと近づいていたブラッドノートの残滓とブルーノートの存在力が衝突しこの二つの世界は現在進行形で衝突中であり――――――私が創られる事となる。


「エリス……いえ、真柊慧美さん、本当にごめんなさい。ブルーノートにおいて最もノワールノートとの縁、つまり因子を持つのが貴女であったというだけの話で、あなたには重荷を背負わせてしまう事になった。そして、因果律からあなたの過去の自我を残したままノワールノートへ送り込むしかなかったことを、私は詫びねばねりません」


 これは緊急措置であり、一時的な延命措置に似たものだろう。ジレンマに苛むラスティーの心がもの凄い勢いで流れ込んでくる。それでも私はラスティーを責める気にはなれなかった。


「私、大丈夫です。それよりも先程の事の方が気になります」


 私の言葉を受けて、女神は頷く。


「世界崩壊の余波で歪んだ時空の中において、彼女を助ける鍵があったのです。エリス、あなたが顕現したきっかけとなる因子はその過去にあります。些か矛盾を多く抱えてはいるのですが、それ自体はよくある事。それ以上の意味は持ちません。重要なのは出会ったという事。繋がりを持ったという事なのです」


 恐らくは過去の私、真柊 慧美と出会っていた事を言っているのだろう。しかしここで少しばかり心に引っかかりを覚えた。

 ラスティーは『彼女を助ける鍵』といった。では、その『彼女』とは誰なのだろうか?

 一見、真柊 慧美を指している様にもとれるけど……


「あなたの感じている通り、それは過去の貴女ではありません。ノワールノートの鍵となる人物それは――――リーリカです」


「!!」


「真柊 慧美と接点持ち、エリスである貴女と接点を持ち、イリス、アルと共にマリスを繋ぐ楔であり、貴女の存在を最もノワールノートに繋ぎとめる可能性をもつのがリーリカなのです。そして今回の事故により、その存在を失いかけていた彼女を繋ぎとめたのは、貴女なのですよ、エリス」


 この気持ちをなんとあらわせば適切なのだろうか? 簡単に言葉に尽くせない複雑な想いと共に、いくつかのビジョンが頭の中を高速で切り替わっていく。


「問わねばなりません。今ここで。エリス、あなたの意思を。運命を認め、運命に立ち向かい、困難な道を歩む覚悟を。器を昇華させる覚悟を、問わねばなりません」


 言葉と共に断片的なイメージが送られてくる。

 私の望む大団円を迎える為に必要なそれら。

 ラスティーの世界を救うということが、どういうことなのか。

 不安がないわけじゃない。むしろ不安しかないと言えるけど――


「すべては大団円の為に私は自分の道を進みたい。それが刹那の安らぎに過ぎなくても彼女と共に――」


 決意は固まった。


 この時私は本当の意味で神へと至る試練の一歩を踏み出したのだ!



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― 新着の感想 ―
[一言] 再開、嬉しいです。 一周回ってリーリカの元へ。はたして。
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