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白金のハイエルフ  作者: 味醂
再会
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創生秘話

 創生秘話




 どうやら緊急事態ということでこの場に呼ばれたらしい私。これまでもラスティーとの対話はあったものの、ここまで細かく言葉を交わしたことはなかった。それ故に残る違和感。ザラリとした何か後味の悪い、舌の上に溶け残った調味料のように残念という気持ちが微かに浮かび上がる。


「早くも少しばかり影響を与えてしまっているようですね。エリス、あなたが今感じた感情や感覚は私が感じている感情の一部なのです。あなたが私の因子を強く持つが故、その気がなくても受け取ってしまう波長があるために、これまでは与える影響を最小限に抑えてきたのですが、今回はそうも言っていられない事態となってしまった為に私は一つの決断を下しました」


「決断、ですか」


「いかにも決断です。この決断があなたを苦しめることになるかもしれない、余計な不安を抱えないまま、安穏とした生活を送れたかもしれない道を歪めてしまうかもしれない決断です」


「……」


「エリス、よくお聞きなさい。良く聞いて、良く考え、そして自らの判断で行動するのです。これから私がお話することは世界の成り立ち、現状。そして未来の話です」


 そうして女神は静かに語り出す。世界開闢(せかいかいびゃく)の創生秘話を。


「数える事すら無意味なほどの昔の事、古き神々が争いました。今となっては一体何が発端だったのか、まだ発生していなかった私にもわからない事ですが、二柱の神の争いはやがて神々達を二分しての争いへと発展したのです。百年、千年、幾千万年と続いた争いにより多く居た神々も僅か数柱が残るだけとなるほどに大きく減らす結果となりました」


「この愚かな争いを繰り返さないため、残った神々はそれぞれが不干渉となるように、異なる次元へと別れて住まう事になったのです。神々は残された神力で世界を平均化したうえで、次元単位で分割しました。分割が行われるその瞬間には、残された神々も皆力を還元し、一つの世界となり――次の瞬間には数えきれないほどの世界の土台が生まれた――これが虚空の始まります。均一化された神力は、既に滅びた神の力も含まれます。高いエネルギーを限定的な空間へ押し込めたとき私達のような存在が自己発生するのです」


「世界すらない虚空に発生するという事ですか? 」


 思わず口を挟んでしまった私を咎めることもなく、ラスティは静かに頷いた。


「私たちは、それまでの経験を共有したうえで等しく力をもった状態で発生します。これは前時代の神々達が個々の力の差を持っていたために争いが起きた為、再び繰り返さない為の措置でした。私もこの時に生まれた新神類にあたります。まだ無である虚空に神が発生すると、その空間は大きく力を失いますが、世界を作り、エネルギーの淀みを浄化して――わかりやすく言えば、生物を作る事でエネルギーは循環し、その一部を受け取ることで私たち新神類は存在を保てるようになります。少しばかり下卑た言い方をするならば、信仰を集めることができれば、より高純度のエネルギー、エッセンスという形でその世界の神へと還元される、それが虚空のありようです」


 ラスティーはそこで静かに手の平を上に掲げると、ソフトボール大の闇が浮かび上がってくる。


「これはあくまで説明の為のイメージですが――エリス、あなたが理解しやすい言葉でいえば宇宙です。ひとつの虚空に一つの宇宙(せかい)、そして一柱の神。このような世界を作り出した新神類は多く存在しましたし、今でも存在しています。しかし、私達は生まれるときは同一の存在であったとしても、その瞬間からそれぞれ変質を始めるのです。たとえ遺伝的に同じ要素をもった写し身のような者がいて、全く同じである事はありえないのです。よく言えばそうやって私たちは多様性の獲得に成功し、それぞれの次元において無数の世界が創生される畑となったのです」


 そして少しばかりラスティーの表情が曇る


「多様性を獲得した私たちの中には、やがて自らの領域内に小さな虚空を作り出し、その中に複数の世界を生み出すものが現れます――そう、私の様に」


 手のひらから宇宙が消えて、半透明だか大きなボールが生み出される。さらにボールのなかには赤、青、黒の三つの球がうまれて、均等な距離を保ったまま複雑に軌道を描き出す。


「これは私が創り出した最初の世界の形。残念ながらそれぞれの宇宙において生き物が暮らす星はそれぞれ一つしかありません。過酷故に個々が強大な生命力を持つものが生まれやすかったブラッドノート、貧弱ではあるものの、多様性に富み、高い技術力を科学力を発展させたブルーノート、そして高い霊的資質と高い環境順応力を誇ったノワールノート。いまとなっては最後の希望の世界です」


 なぜかとても悲しい気持ちがこみ上げる。いや、ラスティーから流れ込んでくる。


「続けて頂いても? 」


「勿論です。はじめはとても順調にいっていたのです。それぞれの世界は均等に釣り合うようにみえて、その存在するポイントは少しづつずれています。ですから本来ではそれぞれの世界がぶつかり合ってしまうなんてことは無い筈でした――が、現実的には既にまずはブラッドノートに変異が起こり、その機能の大半を失いました。辛うじてより分けたエッセンスにより誕生したのがマリスです。彼女はあなたのいる時間軸で、およそ1400年程前にノワールノートへと転移しました。それまでも生じたエネルギー差を補正するために、それぞれの世界から他の世界へとエッセンスを移動することはありましたが、他者を取り込み自己を強化していく存在のために、エッセンスの還流が枯れ、最初の放浪世界となりました」


 ふと以前追体験したマリスの生活が思い出される。吸血鬼という特性に気が付かないまま、平和な日常を穏やかに暮らしたマリス。イリスとともに教会で暮らしていた彼女たちはいつも慈愛の笑みを浮かべていた。

 あの惨劇がおこらなかったならば、一体どんな結末を迎えていたのだろうか?

 三角関係に悩みながらも、優しい世界に生きたかったマリス。

 いつしか溢れる涙が止まらなくなっていた。



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