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白金のハイエルフ  作者: 味醂
再会
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暗中模索

 暗中模索




 赤き星と青き星交わりしときその扉は開かれん。


 金色の扉より舞い落ちる若葉を育てるべし。


 汝ら紫紺の珠持ち贖うべし。


 その者昏き星、金色に染まる時紫紺の珠持ち平定す。


 紫紺の珠砕け散る時、大地は不和の涙に沈む時なり。


 努々忘れる事なかれ。汝ら滅亡(ほろび)の試練を定められし星の民。



 ――ある予見者の墓碑に刻まれた詩より



 その墓はサイラス六国のとある山中で発見された。

 既に訪れる者が絶えて久しいのだろう。辺りは雑草が複雑に絡み合い、薙ぎ払われたばかりの草がやや鼻に突く匂いを漂わせていた。墓標は既に酷く風化しており、この言葉を残した者の名も辛うじてその二つ名が読み取れるばかりとなっていた。


 その割にはっきりと詩が読めるのは彫刻した文字に金を流し込み、更にはガラスを上から溶かし掛け念入りに保護されていた為だろう。

 発見者は何故名前の部分まで同じ保護をしなかったのか気になったものの、金はもとより石がこれだけ風化するだけの歳月を遡れば、ここに使われたガラスといえど一財産どころの話ではなかっただろう。


「やれやれ、この碑を見つけたのが我々で良かったのである」


 墓標の前にしゃがみ込み、碑文をメモしていた者の袖は苔や泥で激しく汚れていた。


「全くだなエン」


 背後で丸太の様な太い腕を組む偉丈夫はしゃがみ込んだ痩身の男の肩をバシバシと叩きながらガハハと笑い声をあげていた。


「おい、ギル止すんだ。お前はもう少し配慮というものを身に着けるのである」


「配慮だぁ? 旨いのか? それは」


「脳筋が過ぎるのである」


「なに! 筋肉はいいぞぉ!? 決して己を裏切らない最高の友であり武器だからな」


 何かのスイッチが入ってしまったかのようなギルは白い歯を覗かせながら日々鍛錬を怠らない隆々とした筋肉を誇張させるようにポーズをとった。

 そんな様子にエンは辟易とした様子で肩を窄めると仰々しく指を立てた左手を額に当て、右手を腰にやると盛大に溜息をつくのだった。


「ギルの旦那ぁ! とりあえず今日はここでキャンプですかい?」


「おう、もう少し調べねぇといけないからな、わりぃけど、皆でこれから草刈りだ」


 やや離れたとこで声をかけた者たちは、その返事に大荷物を地に下ろすと組み立て式の大鎌の準備を始める者、新鮮な水を確保する者と各々が行動に移るのだった。



 ◇ ◇ ◇



 エリスの私室のテラスに小さな机が置かれている。やや深めの皿に水を張りその上で指先をナイフで軽く突くと白い指先から突然紅玉が生まれたかのようだった。適当な大きさになったところで一滴の血を滴らせるとペロリと小さな舌で舐めとってから、傍らに用意しておいた紙包みを慎重に開けて、中の粉末状のものを水面に振りかける。

 粉末状のものは水の表面張力で水面に沿って一杯に拡がっていく。その様子を確認すると風に乱されないうちにすぐさま次の段階へと手順を進めた。

 両手をかざして自分以外には聞こえないほどの声で呟けばほのかに発した赤い光が皿全体を包み込む。

 その様子を私は確認すると一歩下がって観察を続けることにした。


「マリス、これは?」


「占いみたいなものだと思ったらいいかしら」


 背後から掛けられたマイアの質問に振り向かないまま答える。なにせ触媒はもうないのだから失敗なんかしてられない。本来であれば遺灰を用いて行う儀式を苦肉の策で削り取った爪の粉で代用しているのだ。元々整えられていたリーリカの爪から得られた触媒は僅かであり、なんとかギリギリ一回分の触媒が得られただけだ。

 髪を少しばかし切り取って灰にすることも考えたが、エリスの希望によりやっと伸びてきたリーリカの髪を切ってしまったら後で何を言われるか分かったものじゃない。無論リーリカ、エリス両名による非難が巻き起こるのは間違いないのだから。


 光が幾分弱まったところで水面に変化が起きる。それまで均一に広がっていた粉が己の意思を持ったかのように動き出し、分布を変えていく。


「これは……リーリアとイリス? アル……」


 そこまで口にして少し考え込む。


 ――失敗だろうか?


 いや、失敗はしてない筈だった。東の方角へ強く反応した因子がいくつか。これは東の大陸で封印されているアルたちのものだ。この娘がリーリアとアルの娘なのだから二人の因子を強く持つのは当然の事。そしてそこにイリスの魂の欠片が混ざりこんでしまっている事も承知していたので、然るべき結果だろう。問題なのは、最も多くを占める筈のリーリカの因子が特定できないという事だ。


 儀式に失敗すれば触媒は水の中へ沈む。


 しかし大半の触媒は水の中へ沈まずただ水面を力なく彷徨っていた――まるで迷子のように。

 ちらりと部屋の中へ視線を走らせれば寝台の上で人形のように眠る二人の少女が目に留まる。

 今の二人がこのままでは目を覚まさないだろうことは解っているが、その原因が判らない。要因となりそうなプレッシャー自体はあったものの、因果関係を推察するには残念ながら圧倒的に情報が足りていないのが現状だ。


 これは手詰まりかしら? と考えた丁度その時、部屋の中から眩いばかりの光が溢れだしたのだった。

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