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白金のハイエルフ  作者: 味醂
再会
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再会

 再会




「へえ……まさか君がこんなところまで来るなんてね。普通であれば絶対にありえない事だけどそれはまあどうでもいいや。それで? 別に茶飲み話をするために遠路はるばる来たわけじゃないんだろう? 」


「――――!! ――!!」


「いやいや、ふざけてなんかいないし、嘘だってついちゃいない。現に君は手に入れた絶大な力を存分に振るって随分と面白可笑しく暮らしてたようじゃないか」


「―――!」


「そんな事はない。それはただの認識の違いというやつだね。僕は君の望む通りに文明レベルの低い世界に君を送り込んだのだし、人の身にしてみれば存外過分な力まで与えてやった。その力をどう振るうかはあくまで君の裁量で――そもそも僕があれをしろ、これをしろなんていちいち命令したとこで、君は好意的にそれを受け入れられたのかい? 」


「―――」


「だろう? まあ、ともかく少しは落ち着いて話が出来るようになったじゃないか。今ね、少しばかり面白い事になってるんだけど、そうだね、君にも少しだけみせてあげるよ」


「――――――」


「ん? これかい? これは君がいた『世界』さ。といっても君が生まれた『世界』ではないけれど、やりようによっては君が絶対支配者として君臨することだって夢ではなかった『世界』さ」


「―――!」


「残念ながら今はその道を閉ざされてしまったようだけれどね。ああ、念のために言っておくけれど今あそこに戻るのはオススメしないよ。雪崩の中に飛びこむ程君も愚かじゃないとは思うけど、人って時に凄く傲慢な事を考えるからね、まあその傲慢さが無限の可能性の発芽の養分ではあるのだけどね」


「―――!!」


「残念だけどそれも無理な話だね。君は既に生まれた『世界』との因果律を失ってるからね。元の世界には戻せない。そもそも元の世界で死んだ君が戻れたとして、存在すべてをリセットされて全く別の何者かとして生れ落ちるだけだよ何の力もない無力な赤子としてね」


「―――――――――」


「悲観だなんて君らしくもない。もっとも光と希望に満ち溢れた道を征く君なんて想像もできないし、柄でもないだろうけど」


「―――」


「皮肉などではなく僕なりの賛辞だよ。いいじゃないかヒトらしく生き足掻く。己の欲するところを為す、それはヒトの本質だよ。話が逸れてしまったけどこうして世界崩落を眺められるなんて、それこそヒトには本来ありえないことなんだから、この壮大なショー(時限衝突)を楽しもうじゃないか」



 ◇ ◇ ◇


 柔らかな下草を踏みしめて木立のなかを歩いていた。

 少し離れた所には小川が流れており木漏れ日をそのせせらぐ水面に反射させながら樹木の葉を照らす様は万華鏡かミラーボールのようで、つい自然の作り出す美しき世界をいつまでも眺めていたい欲求に駆られた。


 少し下流を見れば粗末な橋が掛けられており、はっきりと視認することはできないもののその辺りには道が通されているのが伺われた。

 先程まで私を案内してくれていた同行人の栗鼠はせせらぎが聞こえだした辺りで自分の役目は終わったとばかりに元来た方向へ帰ってしまったのだが、あまりにもあっさりとした別れに、もうちょっと別れを惜しんでくれたりしなかったのかと少々拗ねてはみたものの、栗鼠にそこまで期待してしまう私はそれほどまでに不安を感じていたという事なんだろう。


 そしてこの場所で私が目にしたのは人間だった。



 ――話しかけてみようか?


 栗鼠に縋りつきたくなるほどには不安に追い詰められていた私。それでも尚逡巡してしまったのはどうやら彼らの様子が少しおかしい事に気が付いたからだった。

 静かに木々の死角を利用して少しだけ距離を詰めると、なにやら声が聞こえてくる。

 人数は二人。成人だがそれほど歳をとっているわけでもなく、世間一般でいえば充分若者の範疇であるだろう。恐らく二十代後半、行っていても三十そこそこといった様子で、恋人――いや、夫婦のようだった。

 身振り手振りを交えてなにかを訴えかける女性の左手が小さく煌めいたのは恐らく指輪をしているから。


「ここからだとまだよく聞こえないし見えないわね」


 次第に大きくなる動作に緊張感が高まっているのを感じ、私は更に距離を詰め――全身を衝撃で貫かれたのだった。


「そんな……あれは……」


 急激に跳ね上がる胸の鼓動がうるさかった。握りしめられた両手は汗に濡れ、それでいて怖いぐらいに冷たく冷え切っているのが判る。

 続く言葉が出てこない。すぐ喉の手前まで出ているのに、それを音にすることが憚られるようだった。


 今すぐ駆け寄って行きたい。


 でも頭の片隅にはそれが叶わない事を冷静に告げている冷めた自分がいるのだ。

 言い合う夫婦から目を背け、隠れている大樹に体重を預けると何かに揺れた下草が小さな音を立てていた。

 熱く火照った頬を伝うそれはとめどなく、ポタポタと下草を濡らし今にも感情も思考も焼ききれてしまいそうな息苦しさを必死で堪える事だけに全神経を集中する。

 一度堰を切れば、大声で泣き叫んでしまうだろうと。ただそれだけははっきりと予感していた。




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