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白金のハイエルフ  作者: 味醂
1章閑話
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章間閑話2

 章間閑話2




「やっと見つけましたよ! 全くこんな所で油を売って、困った人ですね」


 荒々しくドアを開け、そこに目的の人物を見つけた彼女はものすごい形相で部屋に踏み込んできてそう言った。


「やぁハニー怒っている顔も素敵だなんて、流石は我が愛しの君」


 ブンっと何かが空を切る音をさせた後、ゴッと鈍い音を立てて見事に炸裂したのは彼女の拳だった。


「従業員の手を握りしめながら妻に向かってよくそんな事が言えるものですね。まずはその軽すぎる口を縫い付けてみたほうがいいかしら? 」


 思いのほか手の早いこの女性は、北の大陸の中程、南の内海に面したダーハラの山百合の副支配人――リゼッタで、彼女の容赦ない拳を受けつつも私の手をしっかりと握って離さないちょっぴり? 浮気性な美麗な男性(チャラエルフ)は支配人であるユリアスであり、当然この宿の責任者ということになっている。


「いきなり殴るなんて酷いなハニー。ボクはただ従業員の皆が変わりないか見回っていただけじゃないか」


「従業員の皆ではなく女性――それも若い娘限定じゃないですか。いいからまずは彼女の手を放しなさい!」


「やれやれ仕方ない。シーナ続きはまたあ――ブッ!?」


「いいから行きますよ、とにかく時間がないんですから!」


 無慈悲に振り下ろされる拳によって言葉を止められた支配人が副支配人によって引きずられていくのを見送ると、私は自分の仕事に戻ることにした。

 壁一面に掛けられている洋服は貸し出し用のものであり、それらを管理するのが私の主な業務だった。各地にある山百合のドレスルームの責任者にはそれらの他にもう一つ重要な役割があるのだが、そちらで手腕を振るう事なく配置替えとなってしまうものも少なくない。


「こっちだけじゃやっぱり暇よねぇ~。またエリス様いらっしゃらないかしら? 」


 夏の初めの充実した数日を思い出しながら、私はそんな事を呟いていた。


 ◇ ◇ ◇


 午後のミーティングはこれからお迎えするお客様方の情報をスタッフで共有する大事なものだ。毎日行われるミーティングではあるがこの日は少しばかり違っていたようだ。


「異例ではあるが本店からの通達は以上だ。まあボクの可愛い従業員たちにはあまり関係のない話だったかな」


 リオン支店より急ぎ回された連絡は本店を経由して再び各地の山百合へと通達されていた。その内容は二つ。一つは新規店舗のスタート人員の希望者を募る事、そしてもう一つはなんと希望退職者を募っていた。おまけに新たに興された貴族家への就職を前提としているなんて聞いたことのない話なのだ。


 その内容をいつも通りの軽い口調で皆に伝えた支配人なのだが、先ほどから一言も話さないまま笑顔を凍り付かせている。


「これはユリウスの監督責任を問われそうな事態ですね」


 冷ややかに追い打ちをかける副支配人(リゼッタ)の表情はなんとも複雑なのだが、それもそのはず私の予想よりも遥かに多くのものが挙手しているからだろう。

 かくいう私も当然真っ先に手を挙げたクチではあるのだが、既に挙手している者たちは、笑顔の裏で壮絶なバトルを開始しているのであった。


 固まり続ける支配人そっちのけで、最終的に新規店舗への異動希望者が二人、希望退職者が二人決まるまでには数時間の『話し合い』を必要とするのだが、どういう訳かそれが後に語り継がれることはなかったという。


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