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白金のハイエルフ  作者: 味醂
1章閑話
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章間閑話1

 章間閑話1




 それは東の果ての地での一件から数日後の朝の事だった。

 険しい山を越え、なんとかアハラの村へ戻った私たちは預けてあった馬車を引き取るとカメオの街へと続く悪路に疲れ果てキャンプを張る事にしたのだ。

 キャンプ――とはいうものの、私達の馬車は座席を簡易の寝台に変形させることができるため、客車と荷室に簡素な寝台を作ってそこで各々雑魚寝するだけのお手軽キャンプだった。


 目が覚めたときに既にリーリカの姿はなく、馬車の窓から見える空へと続く焚き木の煙が立ち上っているいるところを見ると、どうやら外で食事の用意をしているらしい。


 脱いであった上着を着こんでカーゴルームとの境界付近でルーシアさんの胸に顔を埋めたまま寝ているサラを踏まないように馬車の後方へと移動していく。本来であれば客車からはそのまま横のドアを開けて外に出れるのだが、フルに簡易寝台へと変形させてしまうとその間はドアは使えないために、後方のカーゴルームのハッチから出るしかないからだ。


「それにしても一国のお姫様がこんなところで寝ているなんて知れたら外交問題になりそうだわ」


 あまりにだらしないサラの寝顔にそんな事を呟いて、ふと視線を移せば鳶色の優しそうな瞳と目が合った。


「あ、おはようございますルーシアさん、起こしちゃいました?」


「大丈夫。随分前から起きてはいたから」


 答えながら胸の間に顔を半分埋めているサラの頭をルーシアさんはやや目を細めて愛しそうに優しく撫ぜる。


「ハハ……それじゃ動けないですものね。まだ寝てていいですよ」


「そう悪いわね」


 そう答えるルーシアさんに手を振って、狭い通路を進んでいくと丁度シャワールームの裏側で毛布に包まる白い物体に目が留まった。


 子猫のように身体を丸め毛布に包まるマリスは髪の毛しか見えてない。通路にまで零れ落ちている綺麗な髪を踏まないように私はなんとか馬車から這い出すことに成功した。



「おはようございますエリス様」


 枯れ葉を踏む足音に振り向いたリーリカがにこやかに朝の挨拶をしてくれて、私は小走りに駆け寄ると彼女に軽く口づけしてから「おはよう、リーリカ」と返すのだった。


 のんびりとした朝の風景は、他愛もない話をしているうちに進んでいき、丁度スープがいい塩梅に出来上がりそうなので、私は皆を起こしに行くことにしたのだった。


「朝食の準備ができるから皆起きて頂戴」


 荷室に頭だけ突っ込んで大きな声で声を掛けると恨めしそうなサラの声と、それを窘めるルーシアさんの声が聞こえてくるのであとは彼女に任すことにして、私は一足先にリーリカの元に戻ることにした。


 ボサボサの頭を掻きながら最初にやってきたのはサラだった。


「よう、おはよ。いい匂いだな何のスープだ?」


「アハラで仕入れた魚のアラの塩漬けを軽く塩抜きしたもので作ったスープですね」


 ごつごつとした、恐らく鯛の仲間であろう白身の魚はこの辺りでは塩詰めした後で干物にしたりするらしい。比較的そのままでも日持ちするらしいが、干物にしたほうが旨味が凝縮されて元々淡泊な味わいが、濃厚なコクを伴ったものに変化するのだとか。


「確かにこれはいい匂いですね」


 サラに続いて馬車からやってくるのは着替えを済ませたルーシアさんだ。あの頭部の角は服を着るのに邪魔にならないのだろうか? なんてどうでもいい事を考えながらもつい視線が向かうのは大きく上下に揺れる胸元だった。


「コホン」


 わざとらしいリーリカの咳払いに慌てて視線を逸らした先、私の目に飛び込んできたものは――信じがたいものだった。


「ちょ、一体どうしちゃったのよ!? マリス」


「どうもこうも……目が覚めたらこんな有様だっただけかしら」


 私達のやり取りに、他の者達も唖然としている。

 だって、十代後半くらいだったはずのマリスの容姿が、贔屓目に見ても十代半ばくらいにまで若返って――幼女とも言えるほどになってしまっていたのだから。


 ブラウスの袖口は垂れ下がり、背も昨夜までよりは十センチ以上は縮んだだろうか? 流石に幼体までは戻らなかったみたいだけど、それでも謎の若返りに驚く私達をよそに、達観したように事態をあっさりと受け入れるマリスは一体どんな思いで私達を見ていたのだろう?



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