表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金のハイエルフ  作者: 味醂
凱旋
38/78

一章エピローグ

 一章エピローグ



 大きな旗を掲げた一頭の馬を先頭に整然と二列の騎馬隊が等間隔で行進している。列の中程には煌びやかな装飾を施された馬車があり、その側面にはリオン王国のシンボルが描かれていた。

 整備されたばかりの街道には住民達が列をなし、やはり手に持った小振りの国旗を振り歓迎していた。

 元々王の直轄地であったこの地に新しく領主が封じられ、それも特別領という少し事情の込み入った分類になったのは少し前だが、公には本日のこの日を以て正式にここ聖地ラスティはエリス・ラスティ・ブルーノートの領地となる。


 式典自体は簡素なものであり、既に形骸化しているので住民達にはさほど興味はないのだが、新たな領地として生まれ変わるめでたい祭りということで、国王や領主から大盤振る舞いで豪華な食事や酒が振舞われるので、専ら彼らの興味はそちらにあるのだった。


「流石に凄い人出ね」


 二階のバルコニーから前庭を見下ろすと、冬にも関わらず青々とした芝の広場のあちらこちらに人だかりが出来ていた。彼らの中心にあるのは恐らく用意された料理や飲み物のテーブルだろう。

 首尾よく戦利品をせしめた者たちは人だかりの近くで頬張る者、並木の木の下に座り、仲間で酒盛りする者など様々だ。

 この村の住人のほか、王に随行した一般兵や騎士たちの多くも前庭で過ごしており、勝手口方面や厩舎方面へと人がなだれ込まないように警備する者たちは、早く交代にならないかとソワソワしている頃だろう。


「どうした? 主役がこんなところで油を売っていては駄目なんじゃないか?」


「国王陛下!?」


 いきなり背後から掛けられた声に振り向くと、そこに居たのは主賓であるはずの国王であり、リーリカは誠意がこもっているかは別として、深めの礼を取り道を譲っていた。


「それを言うなら主賓である国王がこんなところで油を売っていていいんですか?」


「なるほどこれは一本取られたか。だが私とて生身の人間、時に休憩は必要なのだよ」


「それもそうですね……そうだ、こんなついでで言うのは失礼ですが、色々とご配慮いただき有難う御座いました。頂いたこのドレスも王からのオーダーだとか」


「なかなか領主も板についてるようで何よりだ。それに気にすることはない、確かに本来であれば屋敷や使用人たちはそなたが用意するものではあるが、今回は色々と事情も込み入ってるからな。それに件の婦人用下着の販売では大きな利益を上げさせてもらっているのだ。その一部を還元したまでの事」


 バルコニーの出入り口ではレンさん――ラヴィナス卿が無言の威圧感を発揮してそれとなく人払いをしているせいか、王の口振りは軽いものだった。


「ですが、私に本当に領地の運営など出来るでしょうか? 冬が終わればまた各地を巡る旅へと出る予定ですし、以前にもお話した通り――世界は緩やかな滅びへと向かっているのです」


 後半だけは周囲に声が漏れないように、ほとんど囁くような声で告げる。


「こうしてみている分にはとても信じがたい事ではあるが、神子姫である其方が言うならそうなのだろうな。だが私もこれでも一国の王、人を見る目には多少は自信があるのだよ。それに――ラスティの神子姫たるものが時を同じくして三人も姿をみせている以上、凡庸な王たる私程度では上手くいかないと思うほうが難しいものでね」


 やや卑屈な物言いではあったが、国王の表情がやや苦し気なのは、彼なりに何か思う所があるのだろう。探るような私の視線を感じてか王はバルコニーの外へ視線を移すとこう言った。


「まあ、そう気張らずやる事だな。以前にも話したとは思うが、人には皆持ち合わせる器というものがあるという事だ。そして大きな器を持つ者は、その者が思っている以上に大きな事を成し得るのだと。もっともそれを評価するのは他者であり、当の本人たちに計れるものではないのだがな。なんとも歯がゆい事だな」


 私にそう告げて、最後は豪快に笑いながらバルコニーから屋敷の中(戦場)へと戻っていく国王を私は黙って見送る事しか出来なかった。



 ◇ ◇ ◇


『よく戻りましたハイエルフの子。あなたが植えた同胞たちも、今やすっかり大地に根付いてエッセンスの循環を行うまでになりました』


 黄金色の光の河で一糸纏わぬ姿のまま漂っている私にこの世界で最も若く生命力にあふれた世界樹がそう告げた。この世界樹は私のエッセンスに反応し、反転した土地神の瘴気を糧に種から育った原木の一本だった。今では枯れた滝壺跡を埋め尽くすばかりに成長し星の奥深くまで根を張り巡らしていた。


「私に力を貸してほしいの。あなたの若枝を何本か貰えないかしら?」


『新たなエッセンスのラインを繋ごうというのですか?』


「そうとも言えるし、そうでないとも。ただ若い世界樹を株分けしなければ強固な還流は作れない。違うかしら? ファージの世界樹ではもう力が……だからどうしても若い世界樹であるあなたの分体でなければいけないの」


『…………』


 金色の世界に沈黙が訪れる。先ほどまで黄金色の飛沫を上げながら激しく渦巻いていた光の河は、今は時を止めたように凪いだ湖にでもなった様だった。世界樹をこの星の各地に植えて、ラインを補強する。その上でラスティのセカイの中に存在するすべての魂を集め、一つの揺篭(セカイ)として安定させようというのが私の計画だった。しかし元々三つの世界に分かれていたものを一つの世界に押しとどめるには器が足りなくなるのだ。


 その無謀な計画も、私は可能だと思っていた。なぜならすべての世界の始まりは、女神ラスティの内から生れ出たものだから。


『その先に何が待ち受けているか、分かったうえでの判断ですね?』


 心を読んだ世界樹の問いかけに、私は強く頷く。


『ならばまずは西の地で急速に失われるラインを繋ぐのです。ただし焦ってはいけません、十分なラインが完成すれば自ずと道は開かれるでしょう』


「――ありがとう」


 世界樹に感謝を告げると急速に金色の世界は色を失って、私は現実の世界に引き戻された。


「お帰りなさいませエリス様」


「それで……どうだったのかしら?」


「安心して、大丈夫そうよ」


 付き添っていたリーリカとマリスにそう答えて、私は短剣を取り出すとその切っ先で左の掌を軽く突き、ごつごつとした世界樹の幹に押し当てると、そこからすぐに世界樹の若枝が生えてきた。同じ要領で十か所ほど若枝を生やしたところでマリスに止められた。


「今はそれくらいにしておきなさい? その枝はただあなたの血を吸って生えている訳ではない事くらい分かっているのでしょ?」


「そうね。リーリカ、革袋を出して」


「どうぞ」


 受け取った革袋に短剣で切り落とした若枝を丁寧に入れて持ち帰りやすいようにしておいた。これで後で屋敷で盆栽化すれば多少嵩張るものの世界樹の苗の完成だ。


「ほら、手をみせてみなさい」


「ありがとうマリス優しいのね」


 作業が終わった頃を見計らってマリスが傷を治してくれる。みるみる小さくなって塞がる傷口を見て、やっぱり治癒魔法って便利だなと思いながらお礼を言うと、顔を真っ赤にしてなにやら慌てていて、それが妙におかしかった。


 何だっけ……そうそう、たしかこういうのをツンデレって言うんだったっけ?

 そういえばリーリカも出会った頃は若干その気があったよね。


 笑いながら帰路についた私たちだけど、屋敷で意外な人物が待っているとは思いもよらなかった。



二章再会 開始前に数話閑話を挟む予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ