プロローグ
こんにちは。
味醂です。
初めての方は初めまして、過去作品をお読み頂きました皆様はお久しぶりでございます。
今回より連載させて頂くこの作品は『気が付けばエルフ 1~4章』の後に続く筈だった第5章にあたるお話と、4章ラスト部分に描かせてもらったシーンの前にあたるラスティの救済エピソードの間を繋ぐ数年間の期間を長期連載用に修正したお話になる予定です。
基本設定などは『気が付けばエルフ』を引き継いでおります。(つまり百合百合してます)
1話あたりのボリュームは約2500~4000文字程度を目安として不定期ですが、週2~3回の更新を基本ペースにしていこうと思っております。
例によりストック話はほぼゼロ、毎回執筆出来次第の公開となりますので、誤字や脱字などがありましたら活動報告などでご指摘頂けると大変助かります。
活動報告は交流の場でもあると思いますのでお気軽にコメントして頂ければと思います。
多くの皆様に楽しんで頂けることを願っておりますので宜しくお願いいたします。
ここから下はお約束的な事項を書かせていただきます。
【重要】
本作品には残酷表現、及び15歳未満の閲覧に相応しくないと思われる暴力表現・性表現が含まれます。
R15指定はあくまで自主規制であり、R18に分類される表現と度合いを超えない配慮をしておりますが、それらを確定するものでは御座いませんのでご注意願います。
作中では国によっては未成年とみなされる年齢のキャラクターの飲酒シーンなどがありますが、それらを助長・奨励するような意図はありません。
【注意】
全編を通し、諸種の事情による改稿を行う事があります。
また編集環境の都合上、掲載時の字下げ、段下げのインデント作業を行っておりません。ご容赦ください。
白金のハイエルフ
プロローグ
「……ふぁっ!? ちょっと! 何処を触っているのかしら!?」
「どこって言われても……胸?」
「胸? じゃありませんの! だからそんなところは自分で洗えると言っているでしょう?」
「だめよ! さっきみたいにゴシゴシと洗ったら、折角綺麗な肌が台無しになっちゃうじゃない! ねぇ、リーリカ?」
「そうですね、エリス様と行動を共にする以上、常に身綺麗でいて貰わなければ困ります。だからもう少しじっとしていて頂かないと……」
「ひゃっ!? そ、そんなところまで洗わなくても」
「何を言っているんですか。ここが一番汚れやすいんですから念入りに洗わないと」
立ち込める湯気の中、浴室の中には黄色とも桃色とも取れないような声が響いていた。
泡まみれにされた上、身体中を隅々まで這いまわる四本の手に身をくねらせながら目の前の彼女は紅く光る瞳を細めながら、なんとかその魔手から逃れようとするのだが、おいそれと逃すような事はしない。
だって彼女ときたらちっとも入浴をしようとしないのだ。
確かにこの姿に生まれてまだ数日という事を考えればそこまで酷く汚れてしまっているわけでは無いのだけれど、三日目と言えば流石に看過できない事態である。
リーリカと二人、打ち合わせ通りにマリスを浴室へと連れ去った私たちは、今こうしてマリスの身体中を洗っている、まさにその最中なのだった。
「ほら、髪も洗うわよ?」
櫛を手に、彼女の美しい純白の髪を手に取って毛先から梳いていけば、枝毛一つできていないこの長髪は、その艶を更に増してさらさらと零れ落ちていく。
本当ならば事前に梳いておきたかった髪だけど、警戒の緩んだところを狙った為に事前に梳いておく時間が無かったのだ。
梳かれる髪に気を取られ、漸く少し大人しくなった真っ白なマリスと対照的に漆黒の瞳と髪を持つリーリカは身体を絡ませるように洗えていなかった箇所へ手を伸ばし、泡立てた石鹸で優しく洗い上げていく。
「……イリスと同じ匂いがするかしら」
抱き付く様に背中に腕を回すリーリカのうなじに顔を寄せ、静かに目を閉じたマリスは小さく舌なめずりをするのだが、赤く湿った舌よりも鋭く伸びた犬歯に視線はどうしても向かってしまう。
「リーリカの血……吸っちゃだめよ?」
「そうですよ、私の身も心も全てはエリス様のもの。残念ながら血の一滴もあなたに捧げる訳にはいきません」
「わ、分かってるかしら!」
拗ねるように顔を背けるマリスを眺めながら、私は目の前の純白の髪を持つこの吸血鬼の少女に心の底から安堵するとともに、一刻も早く彼女の願望を叶えてやりたいと思うのだった。
「さあ、風邪をひく前に綺麗にしちゃいましょうね」
私はそう言いながら彼女の頭に手を伸ばすと、ほんの少しうなじに触れた指先に合わせるように海老の如く跳ね上がるマリスを見て、感度が良すぎるのも困りものだと思うのだった。
◇ ◇ ◇
フラフラとおぼつかない足取りでマリスが浴室を後にして、残った私とリーリカは今度は互いの身体を清め合う。
首筋を、腕を、指先を……愛しむ様に優しく清めるリーリカの顔は少しだけ紅潮し、その表情につられるように、自身の顔にも火が灯る。
私は何を求めるか? その指先は彷徨う様にリーリカの細い腕を遡り、華奢な身体を抱き寄せる。
互いの間で柔らかく形を変える双丘の先端に痺れを感じながら、それでもこの儚げな漆黒の少女を離すまいと力強く抱き締めた。
「浮気しちゃ、駄目よ?」
甘く響く声と共に首筋からうなじへとソレを這わせていけば、腕の中で小さく身を攀じるリーリカはその自由のない態勢のまま器用に私の中芯を捉えるのだった。
「随分と汗をかいておいでですよ? エリス様」
少し意地悪くそう言ったリーリカの首筋に私はお返しとばかりに軽く歯を立て、キスをしたところで――
「はいはい、そこまでそこまで。まったく中々上がってこないと思ったら……続きは他所でやってくれ。ここは後がつかえてるんだ」
絡み合う私とリーリカの前に、一糸纏わぬ姿で仁王立ちする灰茶色の髪を持つ長身の女性はそう言って、泡まみれの私たちに湯をかけるとさっさと出ていけと言わんばかりに私たちを浴室の外へと押しやった。
「あの……サラが待ちきれないって……ご入浴中にごめんなさい」
「いえ、私たちこそごめんなさい、ちょっとその……すっかりトリップしてたようで。ルーシアさんたちもごゆっくり」
サラに続く様に浴室へとやってきた彼女。私達の謝罪をにこやかな笑顔で受け取る薄亜麻色の髪の女性は、その立派過ぎる胸部を隠すことも無く、大きく揺らしながらサラのいる湯舟の方へと歩いていく。
途方もない吸引力をもつその果実に私とリーリカは目を奪われながら、後ろ髪を引かれる思いで浴室を後にしたのだった。
◇ ◇ ◇
ノワールノートと呼ばれる世界がある。
その東の大陸の西端の港町、ドーゴの高台に建てられた高級旅籠 『ドーゴの山百合』の一室に私たちは滞在していた。
訳あって東の大陸に来ている私たちは、これから北の大陸の東端であるノーザ王国の首都である、王都リオンへと戻る為、迎えの船を待っているところだった。
色々とあったこの地での出来事の為、のんびりとした入浴は久しぶり、ということでついつい羽目を外しすぎてしまった気はするものの、自らはまだ頭にタオルを巻いたままメイド服を着込んで、ドレッサーに座る私の髪を甲斐甲斐しく手入れしてくれている黒髪の彼女は、私にとってこの世界で一番大事な女性リーリカ。
不思議な縁に導かれ、偶然にも出会った彼女だけれど、紆余曲折あって私の専属メイドであり恋人でもある。
……女の子同士でそれはおかしいって? でも仕方ないじゃない。私の胸に灯るこの気持ちは、紛れもなく愛なのだから。
「うふふ……今日もお美しいですよ、エリス様」
鏡越しに映る彼女は黒い瞳を細めながら、優しく私に微笑みかけて、丁寧に私の長い白金色の髪を乾かしてくれていた。
鏡の中に映る私の姿……白金色の髪に金色の瞳、そして長く伸びた耳。
そう、私ことエリス・ラスティ・ブルーノートはエルフと呼ばれる種族なのだ。
信じられない位の長い寿命と、美しく整った気品あふれる容姿。
いや、我ながらなかなかに反則なスペックだと思うけれど、仕方ない。夏を目前に控えたある昼下がり、私は突如としてこの世界に創られた。
それまではブルーノート――地球と私たちが呼んでいた惑星のある世界にいたけれど、この宇宙のどこを探そうともその星は無いのだ。
ここノワールノートとは、地球のあったブルーノートと呼ばれる宇宙とは異なる宇宙に存在する、最後の生きた世界なのだから。
伝承の女神ラスティにより顕現した私だけれど、今この部屋に逗留している五人のうち、私を含めた三人がラスティにより顕現させられた世界の旅人だ。
今ベッドの上でモゾモゾと転がっているのはマリス。
およそ一四〇〇年ほど前にこの地に顕現したラスティの神子であり、その正体は真祖たる吸血鬼であり、かつて西の大陸を滅ぼしかけた厄災の緋眼の二つ名で呼ばれた吸血鬼だったりもする。
そしてもう一人は只今サラと共に入浴中のルーシアで、彼女は地母神に連なるとされる精霊、地精霊という種族だった。総じてラスティの神子とはラスティが強い魂の源を世界樹という触媒を利用して顕現させた特別製ということで、彼女の場合は言ってみれば上位地精霊といったところかしら。
まあ、突然そんな事を言われても、みんな混乱してしまうと思うだろうし、追々説明はしていくけれど、そうね……諸種事情が気になる人は『気が付けばエルフ』を読んでもらう事にして、私達がどんな状況に置かれているかといえば――
この世界が滅亡へと向かっているという事かなぁ?