第十七話 あらためて紹介しよう。明日からアイヲンモール異世界店の従業員として働くことになった、ファンシーヌさんとコレットだ
「あらためて紹介しよう。明日からアイヲンモール異世界店の従業員として働くことになった、ファンシーヌさんとコレットだ」
「よろしくお願いいたします。御使——ナオヤさん、私たちは明日からではなく、今この時よりこの命が尽きるまで、身を粉にして働くつもりです。いいえ、薬師さまにお願いして命尽きても——」
「やめてください、労働基準法は遵守しないと大変なことになります。昨日一日働いてお疲れでしょうしのんびりしてください」
「わたしはコレットです! 一生懸命がんばります!」
「張り切ってくれて嬉しいけど、コレットも勤務は明日からでいいからな? 引越しの準備もあるだろ?」
俺が店長になってから21日目のアイヲンモール異世界店。
開店前にクロエたちを集めて、採用することになった二人を紹介する。
行商人一家はまだ街から帰ってきていない。
「うむっ、よろしく頼むぞ二人とも! 何かあれば私に聞くといい! 聖騎士で元店長のこの私に!」
「合ってるけどすごく不安です。けどクロエは仕事と戦闘に関してはたしかに有能だしなあ」
「ナオヤさんの言う通りです。ファンシーヌさん、今日は無理せずこの薬を飲んで安静にしてください。生ある者に無理は禁物ですよ?」
「合ってるけどすごく不安です。アンナさん、いちいち『生ある者』って言う必要ありました? アンデッドジョークですよね?」
「……よろしく」
「よーしよし、ちゃんと挨拶できて偉いなあバルベラ」
頭を撫でると、バルベラはうれしそうに目を細めた。もしくは眠そうに。
クロエもアンナさんもバルベラも、新しく従業員として雇う二人を歓迎してくれてるみたいだ。
スケルトンと着ぐるみゴーストたちも、カチャカチャほたほたと拍手していた。
「アンデッドに歓迎される人間、かあ。不吉すぎる」
これが日常なんだけど。
とりあえず、表に出して接客できる従業員が増えました。
「あの、ナオヤさん! お母さんもわたしも、荷物を持ってきてるのでもう引越しは終わりましたよ?」
「荷物が少なすぎる。この世界だとこんなものなんだろうか。あーでもほら、ご近所への挨拶なんかも必要だろ?」
「なんと慈悲深い……ありがとうございますナオヤさん。では本日、すべての用事を済ませてまいります」
「そうしてください。その間に、こっちも受け入れの準備しておきますね」
「……屋上?」
「ドラゴンに戻るバルベラには便利だろうけど、野外はツラいだろ」
「ナオヤさん、よろしければ地下に空いたベッドがありますが」
「やめておきましょう。アンデッドの棲家に新人二人を住まわせるのはどうかと思います」
「むっ、ではどうするのだナオヤ? ま、まさかナオヤは『俺の部屋に住め』などと言って二人を侍らせて! 母娘同時に、それどころか私までも引き込んで! くっ、殺せ!」
「はいはいしないから。んー、アイヲンラウンジは行商人さんたちが住んでるし、ひとまずテナントスペースだな。俺とは別の」
「軒下で構いませんのに……何から何までありがとうございます。このご恩はいつか必ずお返しします」
言って、ファンシーヌさんはぺこりと頭を下げた。
二人を従業員として雇ったのは申し出があったからだけじゃない。
『ドラゴンセール』での働きを見て、二人なら充分戦力になると思ってのことだ。
だから、そんなに恩に感じてくれなくていいんだけど。
「アンナさん、じゃあ前にちょっと話した通り、お願いしてもいいですか? 街道から見えない裏側に」
「わかりましたナオヤさん。みんなに言っておきます」
コレットとファンシーヌさんをテナントスペースに住まわせるのはひとまずのことだ。
目標の月間売上一億円を達成するには、今後、従業員は増やす必要がある。
もちろんその分、販売する商品やテナントを増やさないとだけど。
だから俺は、アイヲンモール異世界店の裏側に、従業員用のアパートを建てることにした。
アンナさんいわく、スケルトンって労働力はあるし魔法もあるからけっこう簡単に建てられるらしいし。
「アンナさん、バルベラも。そういうことだから、モンスターの排除はこれまで以上に頼みます。戦えないコレットとファンシーヌさんもいますしね。あと俺も」
「……がんばる」
「ふふ、張り切っていきましょうね、隊長!」
バルベラがむんっと拳を握って、アンナさんが振り返ってスケルトン隊長に声をかける。
スケルトン部隊は、腕を胸に当ててガシャッと鎧を鳴らした。
街の外にあるアイヲンモール異世界店が安全なのは、バルベラが「ここはドラゴンの縄張りだ」と示し、アンナさん配下のスケルトン部隊がモンスターを倒しているかららしい。
「待てナオヤ! 私! 聖騎士である私を忘れるな!」
「あーうん、クロエもよろしく頼む。ちょっと不安だけど」
「くふっ、くはははは! ナオヤが私に『頼む』とは! コレット、ファンシーヌよ、装甲馬車に乗ったつもりでいるといい!」
クロエの鼻息が荒い。
犬系獣人のコレットはキラキラした瞳で「聖騎士」を見つめ、尻尾はゆったり振れている。
ファンシーヌさんはすっと頭を下げた。
ノリノリなクロエに不安は募るけどきっと大丈夫だろう。大丈夫なはずだ。
現実逃避して遠くを見ると、街道を走る一台の馬車が見えた。
俺に気づいたのか、御者席の行商人さんが大きく手を振る。
「コレット、引越しのために街に戻るなら無料送迎馬車を使うといい。行商人さんには言っておくから」
「ありがとうございます店長さん! わたしに任せて、お母さんは休んでてね!」
昨日の疲れを引きずってるのか、ファンシーヌさんの顔色が悪い。
今日はアイヲンラウンジで休んでるといいと伝えると、お言葉に甘えさせていただきます、と戻っていった。働けなくてちょっと悔しそうだったけど。いや休んでください。
「さて、じゃあ開店準備をはじめるぞ! 昨日の『ドラゴンセール』でアイヲンモール異世界店を知ったお客さまが来てくれるはずだからな!」
俺が店長になってから21日目のアイヲンモール異世界店。
新規テナントは確保できなかったけど、思いがけず新規採用に成功した。
二人はきっと戦力になってくれるとして……。
テナントなのか新商品なのか、売上アップの手をまた考えないとなあ。
とりあえず。
従業員用のアパートの建築と、完成後の入居者も確保です! つまり日常的にアイヲンモール異世界店でお買い物するお客さまを確保です! これもアイヲンモールの基本!





