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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第八章 アイヲン「モール」なんだからやっぱりテナントを募集します!』

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第十四話 危険な場所での商売を避ける商人は多いでしょう。それと特売は諸刃の剣です。せいぜい赤字を出さないように気をつけることですねえ


「ありがとうございます! お肉もお野菜も売ってますから、ビーフシチューの材料はここで揃いますよ!」


「うーん、でも私、料理は苦手なのよねえ」


「えっと、この『レシピカード』通りにしたら、簡単に作れるそうです!」


「あら、作り方を教えてくれるの? 変わったお店ね」


 イートインスペースでは、ガレット売りの少女・コレットがぴこぴこ耳を動かして接客していた。

 ビーフシチューを気に入ってくれた奥様に、作り方が書かれた名刺サイズの紙を渡す。

 まわりに座る奥様方が、顔を突き合わせて紙片を覗き込んだ。

 最近のスーパーでは販促のためによくやってることだけど、この世界では珍しいらしい。


「これは無理じゃないかしら? お店じゃあるまいし、こんなに手間をかけられないわ」


「お店だってお貴族様向けじゃなきゃこんなことしてないわよ、きっと」


 レシピカードを見ながら騒がしい奥様方。

 文字が読めるところを見ると、いいところの奥様方なのだろう。さすがに貴族ではなさそうだけど。


 ひとしきり話を聞いたあと、奥様方は席を立ってファンシーヌさんのテントに向かった。

 家に料理人がいる奥様が、代表して作ってみることになったらしい。

 コレットの接客力がすごい。よく採用した俺。耳と尻尾で感情がわかる犬系獣人は接客に向いてるのかもしれない。自分がいいと思った商品を売るには、だけど。


 アイヲンモール異世界店、二度目のドラゴンセールは予想を上まわる集客だ。

 街とお店を往復する無料送迎馬車は、毎度お客さまを満載してる。

 最初のセールよりお客さまが多いのは、口コミだけじゃなくて無料送迎馬車の存在が大きいと思う。

 御者も乗り場の待機列整理も受け持ってくれる行商人一家の存在がありがたい。


「集客も売上も、前回の『ドラゴンセール』を上まわれそうだ。あとは……」


 商人ギルド長の姿を探す。

 集客も売上も大事だけど、油断しちゃいけない。

 トラブル一つでお店の評判がガタ落ちする、なんてよくあることだし。いやギルド長がなんかするって思ってるわけじゃなくてね、でも街のキーパーソンっぽいからね。


 ガマガエルのような見た目の商人ギルド長は、豪奢な服をひらひらさせてドラゴン肉販売の列に並んでいた。

 ドラゴンステーキに続いて、本日二回目の行列参加だ。

 権力を振りかざして割り込んだり、俺に声をかけてドラゴン肉や商品を融通させるわけでもない。


「その辺は規則を守る人なんだよなあ。コレットに『お金を払え』って求めたのも、商いのルールに従ってのことだし」


 クロエはやたらと嫌っているしコレットは少し苦手っぽいけど、俺には商人ギルド長が悪い人には見えない。少なくとも悪徳商人や「無法な商売でも稼げればいい」ってタイプではない、と思う。

 さっき豪奢な馬車の横に自前のイスとテーブルを並べてドラゴンステーキを味わってた時も、自分が食べ終わったら護衛と給仕役にも食べさせてたし。

 ドラゴン料理は「お一人様一点まで」をちゃんと守って、護衛も執事も列に並ばせて。


「特にイライラした様子もなし、と。むしろ前後の人の居心地が悪そう」


 だんだん行列が進んで、ドラゴン肉や日用品を販売するファンシーヌさんに近づいていって、むしろコレットがそわそわしてる。

 イートインスペースで接客しながら商人ギルド長をチラチラ見てる。母親が心配なんだろう。


 ファンシーヌさんは動揺することもなくお客さまをさばいている。

 病み上がりだから座ったままの接客だけど、いまのところクレームが来ることはない。

 日本のアイヲンモールだったらありえないけど、こっちの街では普通だったし。というか元の世界でも海外だったら「座って接客」ぐらいはよくあることだ。なんだったら接客しながらご飯を食べる、なんて場所もあるって異文化コミュニケーション研修で言ってた。世界は広い。異世界が広いかは知らない。


 現実逃避してると順調に列が進んで、商人ギルド長の番になった。


「ドラゴン肉をもらいましょうかねえ。それと、販売している全種類、三点ずつ購入しましょうか」


「お買い上げありがとうございます。街で手に入る日用品もございますが、よろしいでしょうか?」


「ええ、ええ、かまいませんとも。どんな商品を仕入れていくらで売っているのか気になるだけですからねえ」


「かしこまりました。ただいま用意いたしますので、しばらくお待ちください」


 冒険者や行商人、これまでの商人とは違うひらひらの服にもアクセサリーにも、でっぷりした体にもニチャッとした声にも、ファンシーヌさんは平然としていた。

 ところでギルド長、堂々と「市場調査」宣言するのどうかと思うんですけど。購入なら断れないけども……。


「ドラゴンステーキは美味でしたねえ。料理も本物のドラゴン肉も、考えられないほど安い販売価格です。見る限り、日用品は普通のようですがねえ」


「お褒めいただきありがとうございます。すべては私たちを救ってくださったナオヤさんの手腕です」


「ほうほう、あの無許可営業してた少女が。変われば変わるものですねえ」


 脂ぎったうさんくさい笑顔でコレットを見る商人ギルド長。

 コレットはびくっとして、耳がへんにゃりとしおれた。でも一瞬後にはピシッと耳と尻尾を立てる。お母さんに何か言ったら許さないんだから、とばかりに。

 けど——


「ステーキの後にいただいたガレットは、ほのかな甘みのジャムと相まって口直しに最適でしたねえ」


 ギルド長の口から出てきたのは、褒め言葉だった。


 コレットがきょとんと気の抜けた表情を見せる。

 ファンシーヌさんは平然とギルド長にお礼を言っている。

 え、ちょっとファンシーヌさんも接客力高すぎません? 普通、緊張したり見た目で嫌がったりしません? 娘が持ちかけられた話を聞いてるわけで、怯えるか怒るかしません?

 ツッコミを頭の中に留めた自分を褒めてやりたい。


「アイツが死んで、お前は病に倒れて。娘から状況を聞かされれば、お前がウチで働く気になると思ったものを」 


「私はもう別の道を見つけましたの。私たちを救ってくださったナオヤさんと、聖騎士さまと、薬師さまと、バルベラちゃんと——あの人が遺した、最愛の娘と」


「……そうか」


「それでは、こちらが商品でございます。お買い上げありがとうございました」


「もう何も言うまい。いい商いを、ファンシーヌ」


 バカ丁寧な言葉遣いも厭らしい笑顔も引っ込めて、商品を受け取ったギルド長は真摯な眼差しをファンシーヌさんに向けた。

 特設テント前からすたすた立ち去って、俺を見つけてこっちに近づいてくる。


「これがアイヲンモール異世界店、これが新店長であるナオヤさんの実力ですか。本当に、本物の『ドラゴン肉』を入手していたとは」


「あっはい。ドラゴン肉は定期的に仕入れられることになりまして」


「ふむ、定期的に……。おおそうだ、そういえばこちらでは店子(たなこ)を募集しているのでしたねえ。集まりましたか?」


 ニヤニヤ笑いを口元に貼り付けたまま俺を覗き込んでくる商人ギルド長。

 商人ギルドに掲示してる「テナント募集」の張り紙に応募があったかなかったかなんて、ギルド長はすぐわかるはずなのに。


「いえ、まだありませんね。こちらから勧誘しているところです」


「くふふっ、勧誘、勧誘ですか。モンスターを阻む外壁がない場所での商いを勧誘、ねえ」


「何をしにきたこのゲスめっ! 聖騎士であるこの私がいる限り! アイヲンモールに手出しはさせんぞ!」


「落ち着けクロエ。ギルド長はお客さまで、ルールを守って購入されて特に変なこと言ってないし、してないから。クロエが悪役になってるぞ」


「はあ、ポンコツ騎士は相変わらずですねえ。しつけがなってないのではないですか、ナオヤさん?」


「おっしゃる通りかもしれません。優秀なところも多いんですけど……セールが終わったら教育し直したいと思います」


「なっ!? き、きょ、教育!? しつけだと! まさかナオヤは! 『アイヲン流をカラダに教え込まないとなあ』などと言いながら私を脱がせて弄び! くっ、殺せ!」


「落ち着けクロエ。教育もしつけもそういうことじゃないから。悪役どころかただの変態になってるぞ」


 衆人環視の中で妄想を暴走させるクロエをなだめる。

 でっぷり太ってガマガエルに似た商人ギルド長と、外見は美人なエルフの騎士、見た目だけで言ったらギルド長が悪役でクロエが正義っぽいんだけど……。

 言ってることはクロエの方がおかしい。


 揉めないようにクロエをなだめて接客に戻らせる。

 動物のように唸りながら、クロエは離れていった。

 商人ギルド長は、はあっと一つため息を吐いて、俺に向き直った。


「危険な場所での商売を避ける商人は多いでしょう。それと特売は諸刃の剣です。せいぜい赤字を出さないように気をつけることですねえ」


「お気遣いありがとうございます、ギルド長」


「本当にわかっていればよいのですけどねえ。いい商いを、ナオヤさん」


 そう言い残してギルド長は去っていった。

 見た目はアレだけど、これ、俺に忠告してくれたんだよなあ。

 ぺこりと頭を下げてギルド長を見送る。

 俺たちのやり取りが注目されてたんだろう、ドラゴン肉と食材、関連商品を販売しているテント周辺はやけに静かだ。


「お待たせしました、お客さま。どの商品をお買い求めでしょうか?」


 沈黙を破ったのはファンシーヌさんだった。


「ええっ!? お母さん、あの人と知り合いだったの!?」


 ざわめきが戻る中、混乱したコレットの声が響く。尻尾がピンと伸びる。

 俺は顔を上げてギルド長を見送って、イートインスペースから移動して、トイレ以外は閉鎖してる店内に入った。


 天を仰ぐ。嘆く。


「ああああああ! 獣人のコレットと人族のファンシーヌさんがテナントに入ってくれたら! 常識人枠が確保できると思ったのに!!」


 この世界の人から見たら異世界人の俺、エルフの聖騎士で『失格エルフ』『ポンコツ騎士』のクロエ、アンデッドでリッチのアンナさん、ドラゴンのバルベラ。

 病弱だけど治るらしいし、ファンシーヌさんと犬系獣人のコレットをテナントとして勧誘できたらアイヲンモール異世界店に常識人が入るなーと思ってたら。


「どう考えても商人ギルド長と昔からの知り合いでしょ! これ入ってもらって大丈夫ですかねえ! いやまだ決まってないけども! 過去のしがらみで弾くとかしませんけども! あああああああ」


 地面に両ヒザと両手をついて嘆く。

 店内に残っていたエプロン付きスケルトンが心配そうに俺を見つめる。目はない。

 ちょうど在庫を取りに戻ってきたらしいバルベラが、とことこ俺に近づいてきた。


「……大丈夫? ビーフシチュー飲む?」


「飲むぅ」


 おいしいから元気出るはず。



 俺が店長になってから20日目。

 アイヲンモール異世界店の二度目のセール、初めて大々的に告知した『ドラゴンセール』は、閉店時間まで途切れることなく人波が続いた。


 ドラゴン肉とドラゴンステーキ、ドラゴンテールスープって目玉商品はもちろん、ほかのお惣菜と食材は全品売り切れになった。

 それどころか、ついで買いってヤツで日用品もかなり売れた。

 売上集計が楽しみです。前だ、前だけを見るんだ、俺。




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