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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第二章 同僚で前店長はエルフの女騎士らしいです』
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第二話 初めまして、俺は谷口直也です。聞こえますか? 理解できますか? 出勤ってことは従業員ですよね? お名前は?


「なにものだッ!」


 俺の喉元に剣を突きつけて聞いてくる鎧姿の人。


 白っぽい金属鎧は塗ったのか地の色なのか。濃い緑のラインは装飾か、あるいは所属でも示しているのか。

 兜はつけてない。

 風にたなびく金髪、俺を睨みつける瞳はライトグリーン。

 キリッとした顔つきの美人さんで、耳は尖ってる。


 ()()()()()()


「なにものだと聞いているッ!」


 エルフかなあ、でもそのわりには金属鎧だしなんかイメージと違うなあ、エルフで女騎士って属性盛り過ぎじゃね、なんて思ってたらまた問いかけられた。

 喉元にチクッと剣先が触れる。

 我に返って答える。


「あの、今日からこのアイヲンモールで店長として働く谷ぐ」


「はっ、まさか私が一人で出勤する時を狙って誰もいない場所でこんな野外でも気にせず襲いかかって私を、はず、辱めようと! くっ、殺せ!」


「いや殺されるの俺の方だろ。襲おうとしたら俺すぐ斬り殺されるだろ」


「こここんな朝から襲う、性欲が抑えられないとはやはり人族はケダモノかッ! 父様母様、申し訳ありません私の純潔はここで」


「あの、俺の話聞いてます? あれ、翻訳指輪の効果ないのかな。話してる言葉はわかるんだけど。いやわかりたくない内容だけど」


「名も知らぬ男よ、我らエルフは体を汚されようと決して心まで屈することはないと知るがいい!」


「あー、テステス。初めまして、俺は谷口直也です。聞こえますか? 理解できますか? 出勤ってことは従業員ですよね? お名前は?」


「問われたからには答えよう! 私の名前はクロエ・デュポワ・クリストフ・クローディーヌ・ヴェルトゥ・オンディーヌだ!」


「名前長いな! ジュゲムか()()()歌かよ! アからンまで使えばすべてが揃う『アイヲン』の従業員にピッタリですね!ってここ異世界だったわ! たぶん五十音じゃねえわ!」


「『オンディーヌという精霊に守護されたヴェルトゥの里に暮らすデュポワ一族(いちぞく)の一員でクリストフを父に持ちクローディーヌを母に持つクロエ』という意味だ。ゆえに、エルフ以外の人族はただクロエと呼べばいい」


「ああ、長いのは名乗りの定型ってこと。そういう国や地域があるって異文化コミュニケーション研修で教わった……ってやっぱりエルフなのか!」


 白い金属鎧を着た女はエルフらしい。

 翻訳指輪のおかげで俺の言葉が通じてることにも安心した。微妙にズレてるっぽいけど。

 あとあいかわらず喉元に剣を突きつけられたままだけど。


「それでクロエさん、俺は今日からアイヲンモール異世界店の店長を務める谷口直也です。さっき出勤って言ってましたしクロエさんは従業員ですね?」


「店長! そうか、私を狙って襲いかかって暗がりに引きずり込んで嫌がる私を手籠めにする無体な悪漢ではなかったか。はは、わかっていたともははは」


「ねえそれほんとに嫌がってる? 俺のエルフのイメージ崩れまくってるけど大丈夫?」


「ナオヤ、今日からよろしく! 私が前店長だ!」


「前任者がめっちゃ偉そうなうえに話を聞いてくれない件。あ、不審者じゃないってわかってくれたら剣をしまってくれませんかね?」


 そう言うと、クロエは早とちりしたことを謝りながら剣を鞘に納めた。


 俺が出会った異世界人第一号は前店長のエルフで、危うく殺されるところだった。


 ……これ前途多難すぎませんかねえ。


「ナオヤ、話はあとにして営業準備をはじめていいか?」


「お願いしま……もう敬語じゃなくていいか。頼んだクロエ。俺は初日だし、普段の営業の様子を見てるから」


「私を、見てるだと? まままさか見てるだけじゃなくナオヤの頭の中では私が! あられもない姿にされて!」


「はいはいそういうのもういいから働いて。ほらなんか荷車引いたおばちゃんたち来たから」


 駐車場、いや土のグラウンドか広場と呼ぶべきか、そこで話していた俺たち。

 ガラガラ転がる音に目を向けると、道の先からこちらに向かってくる一団がいた。

 荷車が二台と、農家っぽいおばちゃんたちだ。


 俺が出会うことになる異世界人第二号から……八号ぐらい?

 でもいきなり剣を突きつけられたうえにポンコツすぎるクロエのインパクトが強すぎて、おばちゃんたちが普通に見える。あと耳も尖ってない。


「はあ。うん、今日は状況把握に務めよう。もしあのおばちゃんたちまでクロエ並の濃さだったら……」


 ぶるりと体を震わせる俺、人生初の店長に任命された男、谷口直也。

 前途多難なこの先を思い浮かべて遠い目になっちゃうのもしょうがないだろう。

 ただでさえアイヲンモール異世界店っていう意味がわからない店を一任されたのに、前店長がこんなにポンコツなんて。


「月間目標一億円、かあ」


 クロエは駐車場を出ておばちゃんたちを迎えに行った。

 合流して、荷車に積んであった野菜を手に楽しそうに話してる。


「いや待てまだ考えるな。途中で見るのを止めた書類にアイヲンモール異世界店の状況がまとめられてたし。それにこれから営業がはじまるんだし。まずは現状把握だ。うん、そうだ」


 大丈夫、なんとかなると自分を勇気づけるように呟いて。

 とりあえず俺は、日常を見せてもらうべくアイヲンモール異世界店の店内に向かっていった。


 いやほらおばちゃんたちに挨拶するのが面倒だったり、もしまた濃い人だと大変だから避けたわけじゃなくてね?

 新任店長に見られていつもと違う感じになったら観察の意味がないから。

 これは計算、そう覆面調査ってヤツだから。


 自分でも肩が落ちてる気がするけど気のせいだ。きっとそうだ。


「…………帰りたい」


 アイヲンモール異世界店の店内に戻った俺は一人呟く。

 誰にも聞かれないように。



※クロエの一族名をジュブワ→デュポワに変更

 「Dubois」で変更はないのですが、表記の調整です

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