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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第七章 従業員感謝デーって大事だよなあ。次の商売の手がかりも見つかったし!』

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第三話 だいたい私なんて精霊剣エペデュポワでアレしなければならないんだぞ! ドラゴンのお二方を前に!


 閉店後のアイヲンモール異世界店。

 駐車場に、二頭のドラゴンが着陸した。


 デカい。

 一頭のドラゴンはやや黒みがかった紅いウロコにおおわれている。

 もう一頭のドラゴンは深い青のウロコだ。

 クロエいわく、高位のアンデッドであるリッチのアンナさんより、バルベラよりも強大な魔力を持ったドラゴン。


 (かな)うはずもない相手に、普通なら絶望するところなんだろう。


「……ん。パパ。ママ」


 固まる俺とクロエを振り返って、バルベラがドラゴンを指さした。


「ふふ、ひさしぶりですね」


 アンナさんも知り合いらしい。

 二頭のドラゴンは、バルベラのご両親だそうだ。


「夜でよかった。こんなの見られたらパニックになるところだった。アイヲンモール異世界店にますますお客さまが寄り付かなくなる」


「こここれほど強大なドラゴンを前に冷静だなナオヤ!」


「いやもう焦ってもどうしょうもないというか。俺は魔力を感じ取れないわけだし。ん? クロエは会ったことないのか?」


「ナオヤさん、お二人が来るのは5年ぶりなんです。最後にこの地に来たのはアイヲンモールができる前ですから」


 ぷるぷると震えてるクロエの代わりに、いつもと変わらないアンナさんが教えてくれた。

 配下のアンデッドたちは会ったことがあるらしい。

 強大な魔力の接近に警戒態勢に入ったスケルトン隊長とスケルトン部隊も解散して、通常の見まわりに戻っていった。ハートが強すぎる。心臓ないけど。


 着陸したドラゴンに、見た目10歳のバルベラがとてとて走って近づいていく。


絵面(えづら)がすごい。ドラゴンさんはグルグル喉を鳴らしてらっしゃるし。バクッと食われないか心配になる」


 呆然と見つめる。

 バルベラがドラゴンに触れる前に、二頭のデカいドラゴンが光った。

 目をつぶる。


「くっ、まぶしい! はっ! まさか私の目がくらんでいる間にナオヤは私を襲おうと! なんと卑劣なッ!」


「そもそも俺が光らせたんじゃないわけだが。クロエもいつも通りで冷静だな」


 光がおさまり、目を開けた俺が見たのは——


 駆け寄ったバルベラを抱きしめる、二人の人間だった。


 レッドブラウンの短髪を逆立てた紅目の男は30代ぐらいだろうか。

 身長は180cm半ばぐらい。

 体つきはマッチョで、気が強そうな顔立ちをしている。


 ダークブルーの長髪をなびかせる女性は20代後半に見える。

 170cmぐらいかな? 女性にしては背が高い。

 にこやかに微笑む姿は優しそうだ。


 ……そういえば、二人とも服を着てる。

 シンプルに布を巻き付けたようなアラビアンな感じの服。

 バルベラがドラゴンから人化する時は全裸なのは、まだ魔法的に未熟ってことなんだろうか。知らんけど。


「人化できるんすね。よかったドラゴンのままなら夜のうちに帰ってもらわないといけないところだった」


「なあナオヤ、冷静すぎないか? そりゃ私だってバルベラの変化は見ているが、普通のモンスターは人化できないんだぞ?」


「クロエに突っ込まれた。いやほら異世界なんだしなんでもありかなあって」


 俺が知ってるドラゴンはバルベラだけで、そのバルベラは人化できるわけで。

 ほかのドラゴンが同じように人化したところで驚かない。こっちの常識はまだわからないし。


「元気だったかバルベラ? パパはもう心配で心配で」


「もう、アナタったら。ママはバルベラちゃんが元気でやってるって信じてましたよ」


 抱きしめて頭を撫でて、近況を確かめる。

 ひさしぶりに会った親子のスキンシップは、人間もドラゴンも変わらないらしい。

 気の強そうな男がデレッとだらしなく笑うのが意外だったけど。


「……元気。紹介する」


「むっ、なんだこの建物は? おおっ、ひさしぶりだなアンナ!」


「ほらアナタ、先走らないでちゃんとバルベラの紹介を待ちなさい。初めての方もいるようですよ」


 バルベラは両親の間に入って、ぐいぐい手を引いてこっちに戻ってくる。


「……クロエ。エルフ。元店長」


「は、はじめましてドラゴンのお二方! 私の名前はクロエ・デュポワ・クリストフ・クローディーヌ・ヴェルトゥ・オンディーヌだ!」


「ほう、ヴェルトゥの里のデュポワ一族の娘か」


「あらあらあら。そう、あの子の娘なの。クローディーヌちゃんは元気かしら? そういえばヴェルトゥの里には200年ほど顔を出してないわねえ」


 バルベラの紹介にあわせてクロエが名乗る。

 くっそ長い名乗りを聞いて、バルベラの両親はクロエの出自を理解したようだ。

 しかもクロエの母親と知り合いらしい。

 あと時間感覚がおかしい。人間だったら死んでる。


「ジュゲムかいろは歌みたいな長い名乗りはこういうことね。わかる人にはわかると」


「おおっ、母様と知り合いなのですね!」


「なあクロエ、家出してたんじゃなかったか? いま母親の知り合いに居場所がバレたってことになると思うんだけど」


「はっ! ドラゴンのお二方、その、ヴェルトゥの里に行かれる際はどうかこのクロエのことは内密にしていただきたく、えっと」


「あらあら、ヤンチャをしたい盛りなのねえ。どうしようかしら」


 うふふ、と含むように笑うバルベラの母親。

 クロエは目を泳がせてだらだら汗を流してる。


「……ナオヤ。人間。店長」


 バルベラはそんなクロエを無視して俺を紹介した。マイペースすぎる。


「えーっと、谷口直也です。このアイヲンモール異世界店の店長をしています。バルベラさんは従業員としてよく働いてくれています」


「まあ、ちゃんとお仕事してるのね! すごいじゃないバルベラちゃん!」


「ほう、男だと? まさかバルベラ! この男にたぶらかされて人化しているわけではあるまいな! いかん、いかんぞ! まだバルベラは140歳の幼子(おさなご)なのだ!」


 俺に近づいて、下から俺の目を覗き込んでくるバルベラの父親。圧がすごい。

 あとやっぱり時間感覚がおかしい。

 幼子(おさなご)って。そりゃバルベラは見た目10歳だけど、実年齢140歳で幼子って。人間だったら死んでる。


「いえ、その、バルベラは従業員でして。このアイヲンモール異世界店にいらっしゃるお客さまは人間が多くてですね、ドラゴン形態だと怖がられますので」


「ほう? バルベラの小さな体やまだ短い尻尾や柔らかい爪や牙や真っ赤なウロコの可愛らしさがわからんと言うかッ! よかろうニンゲン、そこになおごふっ」


「アナタ? ちょっと落ち着いてね?」


 俺に熱く語ってきたバルベラの父親は、母親の腹パンで吹っ飛ばされた。

 けっこうな勢いで地面に叩き付けられたけど、何事もなかったように立ち上がる。ドラゴンこわい。


「……ナオヤ。料理おいしい」


「ほ、ほう、ナオヤとやらは料理でバルベラの気を引いたのか」


「ふふ、バルベラちゃんは昔から食いしん坊だったものねえ」


 バルベラの短い言葉でも、両親には通じてるみたいだ。

 なるほどバルベラは昔からおいしい食べ物には目がなかったと。

 そうだよな、カツもハンバーグもビーフシチューも、カツサンドもハンバーガーもおいしいって言ってくれて、元気がないと「ビーフシチュー飲む?」って聞いてきてくれて、それどころかステーキとテイルスープのために自分の——あっ。


「……アンナ、『治癒』してほしい」


 たらーっと額から汗が流れ落ちるのを感じる。

 バルベラがアンナさんにお尻を向ける。


「バルベラちゃん? ケガしてないと思うんですけどどういう——あっ」


 アンナさんも気付いたんだろう。

 俺と同じように汗を落とす。

 そして、俺に目を合わせてくる。


「どうしたバルベラ? 『治癒』ならこの私がするぞ? 聖騎士の! この私が!」


 クロエはわかってないらしい。

 鈍感なポンコツ騎士がうらやましい。


「……ステーキとテイルスープ。食べさせたい」


「おおっ、バルベラお気に入りの料理でパパを歓迎してくれるのか! パパはうれしいぞっ!」


「まあ! ふふ、バルベラちゃんも成長してるのね。ステーキにテイルスープね、何のお肉を使うのかしら」


 バルベラの父親がデレデレ、母親がニコニコしている。


 料理名を聞いて、さすがのクロエも気付いたらしい。

 だらだら汗を垂らして俺を見てくる。


 一回販売しただけで街でウワサになって行列ができた、アイヲンモール異世界店の名物。


 ()()()()ステーキと、()()()()テイルスープ。


 バルベラは、その二つを両親に振る舞いたいらしい。


 ドラゴンの肉。


 ドラゴン形態の()()()()の尻尾を斬り落として調理した料理。



「は、はは。これ俺、店長として15日目の営業を迎えられるかなあ」


「だだだ大丈夫だろうナオヤ! バルベラ自身が言い出したことだし! だいたい私なんて精霊剣エペデュポワでアレしなければならないんだぞ! ドラゴンのお二方を前に!」


「どどどどうしましょうナオヤさん。バルベラちゃん乗り気ですし。いえでもドラゴンは幻想種で魔力が満ちれば再生しますし『治癒』でも治るわけできっと問題はなくて、ご両親も優しい方ですし」



 夜空を見上げる。

 異世界の星は、キレイだった。



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