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アイヲンモール異世界店、本日グランドオープン!  作者: 坂東太郎
『第二章 同僚で前店長はエルフの女騎士らしいです』
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第一話 いや帰してくれよ! 異世界ってなんだよ! なんかモンスターいたしめっちゃ危ないじゃん!


 翌朝。

 早朝に目が覚めた俺は、アイヲンモール()()()()の外に出た。

 朝の散歩、じゃなくて。


「いやあ、空気がおいしい! さすがまわりが森なだけある! 正面の道もアスファルトじゃなくて土だし、自然がいっぱいだなあ!」


 外に出たのは、ここが本当に異世界なのか確かめるためだ。

 昨日は夜で暗かったからよく見えなかったし。


 まわりは森だった。

 ただアイヲンモールの正面入り口がある方だけは森がなく、土の道が左右に続いている。

 道幅は広くて、車でもすれ違えるだろう。

 いまのところ車も馬車も人も通ってないけど。


 道の先を見通すと、農地が広がっていた。

 田んぼじゃなくて、麦かそれっぽいものを育ててるみたいだ。

 同じ種類で育ち方も同じとなれば、自然に生えたものじゃなくて手が入った農地だと思える。

 俺は継がなかったけど、爺ちゃん婆ちゃんは農家だったし。


 昨夜の青い月と違って、太陽は普通に見える。

 太陽も周囲の森も目の前の道も、俺の微妙な知識じゃここが異世界だと確信を持てるものはない。

 日本の田舎の方にだって森が広がる平地とか、ちゃんと整備された土の道だってあるだろうし。

 電線がなかったり看板や道路標識がなかったりする道もあるだろうし。あるよね?


「ひょっとしてコレやっぱり壮大なドッキリで、俺は騙されてるだけだったりして! 北海道あたりならコレぐらいの景色もあるかもしれないし! そう、きっとそうだ!」


 そんなわけない。

 少なくとも、早朝でもこれだけの時間、車が通らない道ぞいにアイヲンモールが店を建てるわけがない。

 それに……俺は振り返って駐車場を見る。

 いや。

 本来であれば駐車場のはずのスペースを見る。


「日本にしちゃ駐車場がおかしいんだよなあ……」


 普通のアイヲンモールなら、警備員や開店準備のために出勤してきた人の車が早朝でも駐車場に停まってる。

 警備のおっちゃんが嘆く、一晩置きっぱなしの車なんかもあるはずだ。


 でも、俺の目に映る駐車場は空だった。

 というか駐車場が普通の駐車場じゃない。

 駐車スペースを区切る植え込みもないし白線も引かれてない。

 それどころかアスファルトなのは一部で、大半が土だ。

 これじゃ駐車場というより、整地されたグラウンドだ。

 土の道からアイヲンモールの正面入り口、お客さまの降車場と車いす等用駐車スペースまではアスファルトが敷かれてるけど。

 あと、アイヲンモールの建物まわりの歩道とその近くも。


「日本ではこんな感じにはしないよなあ。はあ、んじゃやっぱり異世界、少なくとも外国かあ」


 ため息を吐いて空を見上げる。


 極彩色のデカい鳥が飛んでいた。


「……はい?」


 バッサバッサと羽ばたいて、青い空を優雅に飛ぶ鳥。

 俺は呆然とその姿を見つめる。


 と、極彩色の鳥に向かって、雲の中から生物が飛び出してきた。

 唐突にはじまるドッグファイト。


「いま出てきたヤツ……すごく……ワイバーンっぽいです……。あ、派手な鳥が火を吹いた。うっわ、ワイバーンの尻尾がグチュって」


 ワイバーンっぽい生き物から逃げるように飛んだ極彩色の鳥。

 近づくワイバーンに火を吹いて抵抗したけど、最後には尻尾で体を貫かれた。

 唐突にはじまったドッグファイトはあっさり終わった。


 尻尾の先に極彩色の鳥をつけたまま悠々と空を飛んでいくワイバーン。

 あんぐりと口を開けたまま見送る俺。


「い、いやあ、外国にはすごい生き物がいるんだなあ!ってんなわけあるか! どう考えてもあれワイバーンだろ! ド派手な鳥も火を吹いてたし!」


 俺の叫びに反応する声はない。


 どうやらここは、本当にアイヲンモール異世界店らしい。


「マジかよアイヲンヤバい。ほんとに異世界と繋がってて異世界にアイヲンモール作って異世界に俺を送り込むってアイヲンヤバい」


 しゃがみ込み、ヒザを抱えてブツブツ呟く俺。

 株式会社アイヲンに入社して三年目の谷口直也、24歳。


 うすうす思ってたんだ。

 俺は一流大学を出たわけじゃないのに、なんで一流企業であるアイヲンに入れたのかって。

 同期も先輩も後輩も、社員は一流大学出のヤツばっかりだし。

 パートのおばちゃんたちは「直也くんはいい子だもの!」「きっと面接の結果がよかったのよ!」なんて言ってくれてたけど。


「たしかに面接の結果がよかったんだろうけどなあ! 『異世界で商いするっておもしろそうですね』って! 家族もいないし、飛んで火に入る夏の虫ってヤツか!」


 ぐおおお、とうなりながら頭を抱える。

 翻訳指輪と指の間に髪が挟まってチクッとする。

 涙目になってるのは痛かったからだ。

 ほら異世界勤務は俺が希望したんだし帰りたいなんてことは——


「いや帰してくれよ! 異世界ってなんだよ! なんかモンスターいたしめっちゃ危ないじゃん!」


 地面にヒザと手をついて叫ぶ。

 とうぜん答えはない。

 日本と繋がるのは半年後らしいし。

 株式会社アイヲンを退職しても、帰れるのは繋がってかららしいし。


 どれだけの時間、地面と友達になっていただろうか。

 めったにない経験なこと、高収入になること、異世界での商いは楽しいかもしれないこと。ノリであっても自分で言ったしマルをつけたこと。

 何度も自分に言い聞かせて、ようやく落ち着いてきた。


「よし。伊織さんの話が本当なら繋がるのは半年後。どうせ異世界にいるんだったらちゃんと働いて楽しもう。ほら剣と魔法のファンタジー異世界かもしれないし! 美人さんがいたり巨乳ちゃんがいたりエルフとか!」


 ようやく顔を上げて立ち上がる。


 目の前に、鎧姿の人がいた。


 喉元に剣を突きつけられる。


「なにものだッ!」


 …………。

 ……あ、翻訳指輪は作動してるみたいっすね。ちゃんと言葉を理解できました。魔法はあるか確定してないけど剣や鎧は存在するんすね。すごくファンタジーっぽいです。

 っておいいいいい! なんかめっちゃ鋭い目で睨まれてるんですけど! 返答次第で斬る!って明らかに伝わってくるんですけど!


 …………帰りたい。

 日本に、アイヲンモール春日野店に帰りたい。


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