第七話 大丈夫、大丈夫です。もしダメでも私は復活しますし。そう、生身で泥水をすすっていたあの頃と比べたら
なんとかアンナさんとスケルトンたちをなだめて協力してもらって、俺は調理を続けた。
というか、あとの行程はほとんどスケルトンに担当してもらったけど。
午後からはじめて夕方、夜、深夜。
そして、翌早朝。
「できた……」
朝から仕上げにかかって、カツ、ハンバーグに続く三品目の料理が完成した。
なんだかスケルトンたちも、やっと完成したかってホッとした雰囲気だ。
市販のものを使って手順を省略する方法もあるけど、イチから作ろうと思ったらほんと手間と時間がかかる。
「よし、んじゃクロエとバルベラとアンナさんに試食してもらうか!」
調理場にアンナさんの姿はない。
昨日の閉店後にレジを締めるタイミングで、あとは俺とエプロン付きスケルトンたちに任せてもらったから。
アンナさんは夜中にやることがあるらしいし。
何をやってるのかは聞かない。世の中には知らない方がいいこともある。いやアンナさんはわりとマトモだしそんな不穏なことじゃないって信じてる。信じる。
俺は完成した試作品を四つの深皿によそって、調理場を出た。
「やっとできたかナオヤ! 待ちくたびれたぞ! 肉だな!? 新しい肉料理だな!?」
「落ち着けエルフ。朝から重いかもと思ったけど心配ないみたいだな」
「ナオヤさん、完成したんですね! スケルトンの反応も減ってないようで安心しました!」
「離れたところからでもわかるんですね。さすがリッチ、スケルトンの主。あと人骨は使いませんから。そんな暗黒料理を販売するわけありませんから」
「……いい匂い」
クロエとアンナさんとバルベラ、アイヲンモール異世界店の従業員たちがそれぞれの反応を見せる。
人化したドラゴンのバルベラが一番普通っぽく思えてほんと従業員たちのクセが強い。
まあいまさらだ。
俺は気にせず、トレイに乗せた皿を差し出した。
「さあ、最後の料理がこれだ!」
今日もまた、調理場の目の前にテーブルとイスが持ち出されてた。
徹夜明けの眠気をガマンして、俺は四つの深皿を並べる。
「ナ、ナオヤ、これは……?」
「あの、私たちはなにかナオヤさんがイヤがることをしたのでしょうか。これはその仕返しでしょうか」
「……変な色」
ドン引き、というかちょっと後ずさりする三人。
カツやハンバーグの時と違って食いつきが悪い。
「おい、これが一番手間のかかった自信作だぞ」
中食、つまりお惣菜かお弁当として売り出すつもりの最後の一品。
それは、ビーフシチューだ。
それもフォン・ド・ボー——牛だから正確にはフォン・ド・ブフか、いや角牛はモンスターでこれもうわかんねえな——から作ったビーフシチュー。
作るのは手間だけど、業務用キッチンと調理器具が揃っているここなら一度に大量に作れる。
カツやハンバーグを作るにあたって骨もスジ肉も大量に出るし、フォン・ド・ボーを作ればデミグラスソースも作れる。
ハンバーグにはやっぱりデミグラがないとね!
ビーフシチューは骨やクズ肉をコッソリ持ち帰ってたパートのおばちゃんに教わった、俺の得意料理だ。
でも廃棄を持ち帰るのはほんとやめてほしい。捨てるんだからいいでしょって言い張るおばちゃんを説得するのに苦労しまくったのも、いまとなっては懐かしい思い出だ。二度と体験したくない。
ビーフシチュー。
しかも市販のルーは使わず、こっちで手に入る骨と肉、香味野菜、お酒で、それっぽいものを作れた。
カレーも考えたけど持ち込まれたルーの在庫は限られてるし、イチから作るとなるとスパイスの調合が難しすぎる。
「どうした? 食わないのか?」
「ア、アンナ、先に食べるといい。ほら、アンナなら何かあっても復活できるだろう?」
「ええー? ヒドいですよクロエさん。ここは元店長にお譲りします」
「…………私はいい」
だんだん離れていく三人。
これは異世界では厳しいか、と思いながら一口食べる。
「うん、我ながらうまい。肉もほろっと崩れるやわらかさで、しかもジューシーだ。煮込みすぎるとパサパサになるからなあ」
自分用のビーフシチューを一口食べて、出来に満足する。
骨とスジ肉をたっぷり使って、肉と野菜の旨みを凝縮した深い味わい。
煮込んだ肉もほろほろだ。
正直、俺が家で作った時よりもうまくできた。
徹夜でがんばった甲斐はあった、ってだいたいはスケルトンに任せたんだけど。疲れ知らずで睡眠不要だし。
「……肉?」
「あ、おいやめろバルベラ!」
「ダメですバルベラちゃん! そんな泥水を!」
「泥水ってなんだ泥水って。そりゃ見た目は茶色いけど」
どうやら三人は見慣れない色に引いてたらしい。
肉と聞いて興味を持ったのか、止めるクロエとアンナさんを振り切ってバルベラが一口食べる。
カッ! と目を見開いた。
スプーンを投げ捨て、深皿を抱えてがっふがっふと犬食いする。
ちょっと口元がドラゴンっぽく変化してて幻想種ヤバい。
そして。
「……おかわり!」
「え? あら? バルベラちゃん?」
「だ、大丈夫かバルベラ? 腹は平気か?」
「この美味しさをわかってくれたか! よーしよし、じゃあお肉を多めによそってやろう」
落ち着いたのか、二杯目はちゃんとスプーンを使って食べるバルベラ。
手の動きは止まらない。
がっつくバルベラを見て、クロエとアンナさんがゴクッと唾を呑む。
「よし、女は度胸! エルフは根性!」
「いやおかしいだろ。エルフと根性って相性悪そうだぞ」
「大丈夫、大丈夫です。もしダメでも私は復活しますし。そう、生身で泥水をすすっていたあの頃と比べたら」
「泥水じゃないです。あとさらっと重そうな過去を匂わすのは止めてください」
二人が、おそるおそるビーフシチューを口にした。
目を見開く。口を動かす。飲み込む。
「な、なな、なんだコレは! おいしい! こんなの食べたことないぞ!」
「うわあ、うわあ! 見た目は泥水ですけど味がぜんぜん違います!」
一口食べたらあとは早かった。
バルベラに負けじとバクバク食いつくクロエとアンナさん。
でも泥水と比べるのは止めてほしい。というかアンナさんは泥水の味を知ってるのね。
アンナさんの過去は華麗にスルーして、俺もビーフシチューを食べる。
ああ、パンが欲しい。
カツにもハンバーグにもパン粉が必要だし、パンも仕入れるようにするか。
三人が見た目で引いたことを考えるとやっぱり試食は必要で、お惣菜やお弁当って考えたら使い捨てできる入れ物も必要か。
あとは、作り方を教えたエプロン付きスケルトンたちがちゃんと作れるか試してみないと。
疲れ知らずで睡眠不要なスケルトンたちだけでぜんぶ、いやぜんぶはムリでもフォン・ド・ボーを作れたらそうとうラクになる。
……骨が骨でダシを取るのか。混入に気をつけさせよう。髪や爪は気にしなくていいんだけどね! アイツら骨しかないから!
「それに、宣伝方法も考えないとなあ。試食だけじゃ新規のお客さまは呼び込めないだろうし」
でも、うん。
カツもハンバーグもビーフシチューも、三人の反応はいい感じだった。
五ヶ月後までに月間売上一億円、日に均すと334万円。
待ってろ異世界人、アイヲンモール異世界店の実力を見せてやる!
まずは中食、お惣菜とお弁当だ!
…………。
……あれ、これアイヲンモール関係なくない?
いやアイヲンモールが仕入れてアイヲンモールの調理場で作ってアイヲンモールで売る商品お惣菜だし!
大丈夫大丈夫、これもアイヲンモール異世界店の実力だ!
「ナオヤ、おかわりを頼む!……なあ、これにハンバーグを入れてもおいしいんじゃないか?」
「クロエさん、天才ですか!? ナオヤさん、私もお願いします!」
「……飲み物はぜんぶコレ。二度と水は飲まない」
ちなみに昨日、俺が店長になってから六日目のアイヲンモール異世界店の営業結果。
来客数、48人。
売上、34,000円。
試食と、道まで流れた匂いにつられて初来店したお客さまもいたらしい。
俺が店長になってから最多の来客数だ。48人だけど。アイヲンモールなのに。
園芸用品はほとんど売れなかったけど、試食じゃ物足りなくて生で食べられる野菜を買っていった人も多かったそうだ。よしよし。





